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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 20

ダビデとヨナタン

1 今や、ラマのナヨテも危険でした。ダビデはそこから逃げ、ヨナタンに会いに行きました。ダビデは言いました。「私が何をしたというのでしょう。なぜ、お父上は私のいのちをずっとつけねらわれるのでしょうか。」

2 「そんなはずはない。父がそんなことをたくらんでいるとは信じられない。父はどんなささいなことでも、思っていることを私に話してくれる人だ。そんな重大なことを隠し立てするわけがない。」

3 「そうは言われますが、あなたが知らないだけです。お父上は、私たちが親友だということも、よく知っておられます。だから、『ダビデを殺すことは、ヨナタンには黙っておこう。悲しませるといけないから』と思っておられるに違いありません。主とあなたのいのちにかけて誓いますが、ほんとうに、私は死と背中合わせなのです。」

4 するとヨナタンは言いました。「何かしてあげられることがあるなら、遠慮なく言ってほしい。」

5 「明日から新月の祝いが始まります。これまではいつも、私はこの祝いの席にお父上と同席してきました。しかし、明日は野に隠れ、三日目の夕方まで潜んでいるつもりです。

6 もしお父上が私のことをお尋ねになったら、こう言ってください。『ベツレヘムの実家に行きたいと願い出たので帰しました。年に一度、一族全員が集まるのだそうです。』

7 もしお父上が、『そうか』とうなずかれるなら、私は取り越し苦労をしていたことになります。しかし、もしご立腹なさるなら、私を殺すおつもりなのです。

8 義兄弟の契りを結んだ者として、どうかこのことを引き受けてください。もし私がお父上に罪を犯したのであれば、あなたの手で私を殺してもかまいません。しかし、私を裏切ってお父上の手に引き渡すようなまねだけはしないでください。」

9 「そんなことをするわけがない。父が君をねらっているとわかったら、黙ってなんかいないから。」

10 「では、お父上が腹を立てておられるかどうか、どんな方法で知らせてくれますか。」

11 「さあ、いっしょに野に出よう。」

二人は連れ立って出かけました。

12 ヨナタンはダビデに言いました。「イスラエルの神にかけて約束する。明日の今ごろ、遅くともあさっての今ごろには、父に君のことを話してみよう。そうして、父の気持ちをすぐに知らせるよ。

13 もし腹を立てて君のいのちをねらっているとわかったら、必ず知らせる。もし知らせずに君の逃亡を妨げるようなことがあれば、私は主に殺されてもいい。かつて主が父とともにおられたように、君とともにおられるように祈るよ。

14 お願いだ。私が生きている限り、主の愛と恵みを示すと約束してくれ。

15 いや、主が君の敵を一掃されたあとも変わりなく、私の子どもたちにまで、主の愛と恵みを示してくれ。」

16 こうして、ヨナタンはダビデの家と契約を結び、「主がダビデの敵に報復してくださるように」と言いました。

17 ダビデを深く愛していたヨナタンは、もう一度誓って、

18 言いました。「明日は新月祭だ。みなは君の席があいているのを気にかけるだろう。

19 あさってになれば、騒ぎだすに違いない。だからこうしよう。前に隠れたことのあるあの石塚のそばにいてくれ。

20 私はその石塚を的にして、正面から三本の矢を放つことにする。

21 それから、少年に矢を拾いにやらせる。その時もし、『それ、矢はこちら側にあるぞ』と私が言うのが聞こえたら、すべてが順調で何も心配ない、ということだと思ってほしい。

22 しかし、『もっと先だ。矢はおまえの向こうにある』と言ったら、すぐに逃げろという意味だ。

23 どうか主が、私たち二人に約束を守らせてくださるように。主がこの約束の証人だ。」

24-25 ダビデは野に身を潜めました。新月の祝いが始まると、王は食事のために、いつもどおり壁を背にして席に着きました。ヨナタンはその向かい側、アブネルは王の隣に着席しましたが、ダビデの席はあいたままです。

26 その日、王は何も言いませんでした。「彼は何か思わぬことで身が汚れ、儀式に出るのを遠慮したのだろう」と思ったからです。

27 しかし、翌日もダビデの席はあいていました。そこでヨナタンに尋ねました。「なぜダビデは昨日も今日も会食に来ないのだ。」

28-29 「家族に祝い事があるからベツレヘムに行かせてほしいと願い出たのです。兄弟からも、ぜひにという要請があり、私が許可して行かせました。」

30 王はヨナタンに怒りを燃やして言いました。「このろくでなしめ! どこの馬の骨かもわからんやつの息子に、王座をくれてやるつもりか。自分ばかりか自分の母親まで辱めおって! このわしの目をごまかせるとでも思っているのか。

31 あいつが生きている限り、おまえは王になれないのだぞ。さあ、ダビデを連れ戻して来い。絶対に殺してやる。」

32 ヨナタンは言い返しました。「ダビデが何をしたというのです。どうして殺さなければならないのですか。」

33 すると、サウルはヨナタンめがけて槍を投げつけ、殺そうとしました。これでついにヨナタンも、父がほんとうにダビデを殺そうとしていることを悟りました。

34 ヨナタンは怒りに震えて食卓から立ち去り、その日は何も食べませんでした。ダビデに対する父のあまりに恥ずべき行為に、ひどく傷ついたからです。

35 翌朝、ヨナタンは打ち合わせどおり、少年を連れて野へ出かけました。

36 「さあ、走って行って、私の射る矢を見つけて来なさい」と言うと、少年は駆けだし、ヨナタンはその向こうに矢を放ちました。

37 少年が矢の届いた地点に近づくと、ヨナタンは大声で叫びました。「矢はもっと向こうにある。

38 急げ、早くしなさい。ぐずぐずするな。」少年は急いで矢を拾うと、主人のもとへ駆け戻りました。

39 もちろん、少年には、ヨナタンのことばの真意などわかるはずもありません。ヨナタンとダビデだけがその意味を知っていたのです。

40 ヨナタンは弓矢を少年に渡し、それを持って町へ帰るように言いました。

41 少年が行ってしまうと、ダビデは隠れていた野の南側から姿を現しました。二人は手を取り合って悲しみ、涙が二人の頬をぬらしました。ダビデは涙もかれ果てるほど声を上げて泣き続けました。

42 ヨナタンが口を開きました。「元気を出してくれ。私たちは、子どもたちの代まで、永遠に主の御手にゆだね合った仲ではないか。」

こうして二人は別れました。ダビデは去って行き、ヨナタンは町へ帰りました。

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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 21

ノブの祭司アヒメレクとダビデ

1 ダビデは祭司アヒメレクに会うため、ノブの町へ行きました。アヒメレクはダビデを見ると、ただならぬものを感じて尋ねました。「どうして、お一人で? お供はだれもいないのですか。」

2 「王の密使として来たのです。私がここにいることはだれにも秘密です。供の者とは、あとで落ち合う手はずになっています。

3 ところで、何か食べる物はないでしょうか。パン五つでも、何かほかの物でもいいのですが。」

4 「それが、あいにく普通のパンを切らしておりまして、あるのは供えのパンだけです。もしお供の若者たちが女を遠ざけているのであれば、それを差し上げてもかまわないのですが。」

5 「ご心配なく。遠征中は女を遠ざけていますから。普通の旅でも身を慎むことになっているのです。まして、今回のような場合はなおさらです。」

6 そこで祭司は、ほかに食べ物がなかったので、供えのパンをダビデに分け与えました。幕屋の中に供えてあったものです。ちょうどその日、できたての新しいパンと置き替えたばかりでした。

7 たまたまその時、サウル王の家畜の管理をしているエドム人ドエグが、きよめの儀式のためにそこにいました。

8 ダビデはアヒメレクに、「ここに剣か槍はありませんか。実は、あまりにも急を要するご命令だったものですから、取るものも取りあえず、大急ぎで出かけて来たのです。武器も持って来られませんでしたので」と尋ねました。

9 「それはお困りでしょう。実は、あなたがエラの谷で打ち殺した、あのペリシテ人ゴリヤテの剣があるのです。布に包んでしまってあります。武器といえばそれしかありませんが、よろしかったらお持ちください。」

「それはありがたい。ぜひ頂きましょう。」

ガテに向かうダビデ

10 ダビデは急いでいました。サウル王の追跡の手が伸びているかもしれません。早くガテの王アキシュのもとにたどり着きたかったのです。

11 ところが、アキシュの家来たちは、ダビデの出現を喜ばないふうで、「あの人はイスラエルの最高指導者ではないか」とうわさしていました。

「確かにそうだ。だれもが踊りながら、『サウルが殺したのは千人で、ダビデが殺したのは一万人』と歌って、ほめそやした人に違いない。」

12 ダビデはその話を聞いて、アキシュ王が自分をどう扱うかわからないと心配になりました。

13 それで、気が狂ったように装うことにしました。城門の扉を傷つけてみたり、ひげによだれを垂らしたりしたので、

14-15 アキシュ王はたまりかね、家臣たちに言いました。「よくも、こんな気がおかしくなった者を連れて来たものだな。こんな男なら、この辺りにもたくさんいる。何を好きこのんで、歓待しなければならないのだ。」

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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 22

アドラムとミツパにて

1 ダビデはガテを去り、アドラムのほら穴へ逃げ延びました。そうこうするうち、そこに兄弟や身内の者が、しだいに集まって来たのです。

2 そのほか、問題や借金をかかえた者、不満を持つ者などが集まって来たので、たちまちダビデの周囲には、四百人ほどの集団ができました。

3 ダビデはこのあとモアブのミツパへ行き、モアブ王に、事態がはっきりするまで両親を保護してもらえないかと頼みました。

4 それでダビデの両親は、ダビデがほら穴に立てこもっている間、ずっとモアブ王のもとにいました。

ノブの祭司たちを殺すサウル

5 ある日のこと、預言者ガドがダビデに、ほら穴を出てユダの地に帰るようにと言ったので、ダビデはハレテの森へ移りました。

6 ダビデがユダに戻ったという知らせは、やがてサウル王の耳に届きました。ちょうどその時、サウルはギブアの柳の木の下で、槍を手にして座っていたところでした。彼の回りには家臣たちが並んでいました。

7 その知らせを聞いた時、王は声を上ずらせて言いました。「ベニヤミンの者たちよ、よく聞け! ダビデはおまえたちに畑やぶどう畑をくれたか。軍の指揮官に取り立ててやるとでも約束したか。

8 それなのにどうして、おまえたちは私を欺いたのだ。だれ一人、私の息子ヨナタンがダビデに通じていることを話してくれなかったではないか。私のために悲しんでくれる者もいない。考えてもみろ。息子が、ダビデが私を殺しに来るのを助けているのだ。」

9-10 その時、家臣の中に同席していたエドム人ドエグが口を開きました。「私がノブにおりました時、ダビデが祭司アヒメレクと話しているのを見かけました。アヒメレクは、ダビデのために主にお伺いを立て、そのうえ、パンとペリシテ人ゴリヤテの剣を与えたのでございます。」

11-12 王は、直ちにアヒメレクとその全家族、それにノブにいる祭司全員を呼び寄せました。一同がそろうと、激しい口調でアヒメレクを責めました。「よく聞け、アヒトブの息子!」

「何でございましょう。」

アヒメレクはびくびくしながら答えました。

13 「おまえはダビデと組んで、この私に盾つく気か。どうしてダビデにパンと剣を与えたり、神に伺いを立ててやったりしたのだ。あいつをたきつけて謀反を起こさせ、私を攻めさせるつもりだったのだな。」

14 「とんでもないことです。あなたのご家来方の中でも、婿殿ダビデ様ほど忠義なお方はほかにおられません。ダビデ様はあなたの護衛隊長であり、王室で最も尊敬を集めているお方ではございませんか。

15 私があの方のために神に伺いを立てましたのも、今に始まったことではありません。このことで、私や一族の者が責めを受けるのは合点がまいりません。あなたに対する陰謀などとは全く寝耳に水です。」

16 「アヒメレクめ、一族もろとも、いのちはないものと思え!」

17 そう言うと、王は護衛兵に命じました。「祭司どもを死罪にせよ! 彼らはダビデと共謀したのだ。ダビデが私のもとから逃げ出したのを知りながら、知らせて来ようともしなかったのだ。」

しかし護衛兵は、祭司を手にかけるのが怖くて、命令を聞きません。

18 それで王はドエグに、「おまえがやれ」と命じました。ドエグは彼らに飛びかかり、全部で八十五人の祭司を血祭りに上げました。全員、祭司の服を着たままでした。

19 次にドエグは、祭司の町ノブへ行き、殺された祭司の家族を、男も女も、子どもも赤ん坊も、牛もろばも羊までも、残らず殺してしまいました。

20 ところが、アヒメレクの息子エブヤタルだけは難を免れて、ダビデのもとに逃げ延びたのです。

21 エブヤタルは、王のしたことをダビデに告げました。

22 ダビデは悲痛な声で言いました。「そうでしたか。あそこでドエグを見かけた時、彼は王に告げ口するだろうとにらんでいたのです。それにしても、私がご一族の死を招いたようなものです。

23 どうか、ここでいっしょに暮らしてください。いのちに代えてもお守りします。あなたに降りかかる危害は、わが身に降りかかったも同然ですから。」

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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 23

ケイラとジフにて

1 ある日、ペリシテ人がケイラの打穀場を襲ったという知らせが、ダビデのもとに届きました。

2 ダビデは、「ペリシテ人を攻めに行くべきでしょうか」と主に伺いを立てました。すると、「行って、ケイラを救え」との主の答えでした。

3 ところが部下たちは、「ユダにいても怖いくらいなのに、とてもケイラまで行ってペリシテ軍と戦う勇気などありません」と反対します。

4 もう一度、主に伺いを立てたところ、再び答えがありました。「ケイラに行け。わたしがあなたを助けてペリシテ人を征服させよう。」

5 そこでダビデとその兵はケイラに急行し、ペリシテ人を打って家畜を没収しました。こうしてケイラの住民は救い出されたのです。

6 祭司エブヤタルもダビデとともにケイラへ行き、主からお告げを受けるために、エポデを携えて行きました。

7 まもなく、ケイラにダビデが現れたことはサウル王の耳にも入りました。「チャンスだ! 今度こそ、必ずひっ捕らえてやるぞ。神が私の手に、あいつを渡してくださったのだ。自分から城壁に囲まれた町の中に飛び込んでくれたというわけだ。」

8 王は全軍を率いてケイラに進軍し、ダビデとその兵を包囲しようとしました。

9 王の魂胆を見抜いていたダビデは、祭司エブヤタルにエポデを持って来させ、どうしたらよいかを主に伺わせました。

10 ダビデは尋ねました。「イスラエルの神、主よ。サウル王が襲って来て、ケイラを滅ぼそうとしているようです。私がここにいるからです。

11 ケイラの人々は私を引き渡すでしょうか。また、王が攻めて来るという知らせはほんとうでしょうか。主よ、どうかお教えください。」

主は言いました。「彼は攻めて来る。」

12 「では、ケイラの人々は、サウル王のために私を裏切るでしょうか。」

主は言いました。「そのとおり、彼らは裏切る。」

13 そこで、ダビデとその兵約六百人はケイラを出て、地方のあちこちをさまよいました。ダビデが去ったという報が届くと、王はケイラ攻略を断念しました。

14-15 今やダビデは、ジフの山地の荒野にあるほら穴に住む身となったのです。ある日、ダビデはホレシュの近くで、サウル王が自分を捜し出して殺そうとジフに向かっているという報告を受けました。王は来る日も来る日もダビデを捜し回っていましたが、神は見つからないようにダビデを守りました。

16 王子ヨナタンもダビデを捜していましたが、やっとホレシュで再会し、神は真実なお方だからと、ダビデを力づけました。

17 「心配することはない。父には君を見つけ出せるわけがないから。君こそイスラエルの王になる人だ。私は君の次に立つ者になるだろう。父にも、そのことはよくわかっているはずだ。」

18 二人は友情を新たに確かめ合い、ダビデはホレシュにとどまり、ヨナタンは帰途につきました。

19 ところがジフの人々は、ギブアにいる王のもとへ出向き、こう報告しました。「私どもは、ダビデがどこに隠れているか知っております。荒野の南部、ハキラの丘にあるホレシュのほら穴です。

20 王様、さあ、お越しください。長年の念願がかないますよう、私どもの手でダビデを捕らえ、差し出してごらんにいれましょう。」

21 「うむ、それはでかした。私を心にかけてくれる者が、ついに現れた。

22 念には念を入れて、あいつが潜んでいる場所と、だれがそれを見たかを確認してくれ。何しろ、あいつは悪賢いから。

23 隠れ家を確かめしだい、戻って来てくわしく報告してくれ。すぐに、私も行こう。とにかく、この地域にいるとわかれば、草の根を分けても捜し出すぞ。」

24-25 人々はサウルに先立ちジフに帰って行きました。一方ダビデは、サウル王がジフに向かっていると聞くと、部下を引き連れてさらに南下し、マオンの荒野に難を避けました。しかし王は、そこまでも追って来たのです。

26 王とダビデは、同じ山の一方の側とその反対側を進むほどに近づき、サウルとその兵が迫ると、ダビデはうまくそれを避けました。しかし、まもなくその必要もなくなりました。

27 ちょうどそのころ、ペリシテ人がまたもイスラエルに攻め入ったという知らせが届き、

28 サウルはダビデを追うのを断念して、ペリシテ人と戦うために引き返すことになったからです。この出来事以来、ダビデが陣を敷いていた場所は「逃れの岩」と呼ばれるようになりました。

29 ダビデはそこから上って行って、エン・ゲディのほら穴に住みました。

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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 24

サウル殺害のチャンス

1 ペリシテ人との戦いから戻ったサウル王は、ダビデがエン・ゲディの荒野に向かったと知らされました。

2 そこで三千の兵をよりすぐり、野生のやぎのたむろするエエリムの岩のあたりで、ダビデを捜し回りました。

3 羊の群れの囲いに沿った道まで来た時、王は用を足すため、とあるほら穴へ入って行きました。ところが、なんとそのほら穴こそ、ダビデとその部下の隠れ家だったのです。

4 ダビデの部下の一人が、「絶好の時です。主が、『わたしはサウルをあなたの手に渡す。思いどおりにせよ』とおっしゃっているではありませんか。今がその時です」とささやきました。そこでダビデは、はうように近づき、王の上着のすそをそっと切り取りました。

5 しかし、そのことで彼の良心は痛みだしたのです。

6 「ああ、なんということをしてしまったのだ。神様が王としてお選びになった人にそのようなことをするなど、大それたことではなかったか。」

7-8 このダビデのことばには、みなにサウル殺害を思いとどまらせるのに十分な説得力がありました。

王がほら穴から出て行くと、ダビデも背後からついて行き、「王よ!」と大声で呼びかけました。王が振り向くと、目の前でダビデが地にひれ伏しているではありませんか。

9-10 「あなたはなぜ、私が謀反を企てているなどという、人々のことばに耳をお貸しになるのですか。たった今、それが根も葉もないことだとおわかりになったはずです。先ほどのほら穴の中で、主は、あなたが私に背を見せるようにしてくださったのです。配下の者は、あなたのおいのちをちょうだいするようにと勧めました。しかし、私はそうしませんでした。『王に危害を加えてはならない。この方は、神様がお選びになった王なのだから』と。

11 さあ、これをよくごらんください。あなたの上着のすそです。私はこれを切り取りはしましたが、おいのちには手をかけませんでした。これでもまだ、私があなたをねらっているとお思いでしょうか。たとえあなたが私のいのちをつけねらわれても、私は謀反の罪など犯してはいないことを、どうかわかっていただきたいのです。

12 私たちの間のことは、主がおさばきくださるでしょう。もしあなたが私を殺そうとなさるなら、主の御手があなたに下ります。私は決して、あなたに手を下したりしません。

13 『悪は悪人のすること』ということわざがあります。たとえあなたが悪いとしても、私は手を下すようなまねはしません。

14 いったいイスラエルの王は、だれを捕まえるおつもりなのですか。なぜ、息絶えた犬や一匹の蚤にすぎない者を追いかけ回して、時間をむだになさるのですか。

15 どうか主が、どちらが正しいかをさばき、罪を犯した者を罰してくださいますように。主が私を弁護してくださり、あなたの手から救い出してくださいますように。」

16 「ああダビデよ。ほんとうにおまえはダビデなのか。」王は声を上げて泣きました。

17 「おまえのほうが正しい。私の悪行に善をもって報いてくれた。

18 今日、おまえはなんと深い情けをかけてくれたことか。主が私をおまえの手に渡されたのに、助けてくれたのだ。

19 敵を手中に収めながら逃がしてくれる者が、この世にいるだろうか。今日のこの情けに、主が十分報いてくださるように。

20 これで、よくわかった。おまえは必ず王になる人物だ。イスラエルはおまえが治めるべきなのだ。

21 さあ、主にかけて誓ってくれ。おまえが王になっても、私の家族を殺さず、家系も絶やさないと。」

22 ダビデはそれを約束しました。サウルは自分の家に帰って行き、ダビデは部下を従えてほら穴に戻りました。

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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 25

サムエルの死

1 その後まもなく、サムエルが世を去りました。全イスラエルが葬儀に集まり、ラマにある一族の地所の一角に葬りました。一方、ダビデはパランの荒野に下って行きました。

ナバルとアビガイル

2 ところで、カルメル村の近くにマオン出身の裕福な人がいて、大きな牧場を持っていました。羊三千頭、やぎ千頭がいましたが、ちょうどそのころ、羊の毛の刈り取りが行われていました。

3 牧場主の名はナバルといい、妻はアビガイルという名の美しく賢い、評判のよい婦人でした。ところが夫のほうは、カレブの子孫ながら、けちで頑固で、行状もよくない人でした。

4 さて、ナバルが羊の毛の刈り取りの最中だと聞いたダビデは、

5 十人の若者をカルメルに送り、こう言わせました。

6 「祝福があなたとご一家に注がれ、ますます富が増し加えられますように。

7 あなたが羊とやぎの毛を刈っておられると伺いました。以前お宅の羊飼いたちといっしょにいたことがありますが、私たちは害を加えたりしたことはありません。また、カルメル滞在中も、盗みを働いた覚えはありません。

8 お宅の若い使用人たちにお聞きください。それがほんとうかうそか、わかるでしょう。それで私は今、わずかばかりあなたのご親切にあずかりたく、部下を遣わしました。ちょうどおめでたい日でもあり、お手もとにある物を少しだけ恵んではいただけないでしょうか。」

9 若者たちはダビデのことばを伝え、ナバルの返事を待ちました。

10 ところが、ナバルからはこんな答えが返ってきました。「ダビデ? それはだれなのか。エッサイの子だか何だか知らないが、いったい何者だ。このごろは、主人のもとから逃げ出す奴隷が大ぜいいる。

11 そんな、どこのだれかもわからないやつに、私のパンや水や、それに刈り取りの祝いのためにほふった肉を、どうしてくれてやらなければならないのだ。」

12 使いの者は帰って、ナバルが言ったとおりを報告しました。

13 するとダビデは、「みんな剣を取れ!」と命じ、自分も剣を身につけ始めました。四百人がダビデとともに出立し、あとの二百人は持ち物を守るために残りました。

14 その間一方で、ナバルの使用人の一人が、アビガイルに一部始終を知らせました。「ダビデ様がだんな様に、荒野から使者を立て、あいさつして来られましたのに、だんな様は、さんざんその方々を侮辱したり、なじったりなさったのです。

15-16 ダビデ様に仕える人たちは、とても私たちによくしてくれ、こちらが迷惑したことなど一度もありませんでした。実際、あの方々が昼も夜も防壁のようになって、私たちと羊を守ってくださったのです。おかげで、いっしょにいた間中、何も盗まれずにすみました。

17 さあ早く、ここは、しっかりとお考えください。このままでは、だんな様ばかりか、この一家に災いが及ぶことははっきりしております。だんな様はあのとおり頑固な方ですから、だれもおいさめできないのです。」

18 アビガイルは大急ぎで、パン二百個、ぶどう酒の皮袋二つ、調理した羊五頭分、炒り麦三十八リットル、干しぶどうの菓子百個、干しいちじくの菓子二百個を取りそろえてろばに積み込みました。

19 そして、自分の若者たちに命じました。「さあ先にお行き。私はあとからついて行くから。」しかし、夫には何も告げませんでした。

20 こうして、ろばで山道を下って行ったところ、こちらに向かって来るダビデにちょうど出くわしたのです。

21 ダビデは道々、こう思っていたところでした。「ナバルのために、どれほど尽くしたことか。荒野で、われわれが羊の群れを守ってやったおかげで、一頭も失わず、盗まれもしなかったではないか。なのに、彼は恩を仇で返してきた。あれほど苦労して、得たものが侮辱だけだったとは。

22 明日の朝までに、あの家の者どもは皆殺しだ。もし一人でも生き残りがいたら、主にこの身をのろわれてもかまわない。」

23 アビガイルはダビデを見るやいなや、さっとろばから降り、その前に出て深々と頭を下げました。

24 「ご主人様。このたびのことにつきましては、私がすべて非難をお受けする覚悟でございます。どうぞ、私の申し上げることをお聞きくださいませ。

25 夫ナバルは融通のきかない無骨者でございます。どうぞ、あの人の申したことを、お気になさらないでください。ナバルという名のとおり、愚かな人なのです。私は、お使いの方とはお会いしておりません。

26 ご主人様。あなた様が血を流しに行くのをとどめ、復讐を思いとどまらせてくださった主は生きておられます。あなた様に刃向かう者はすべて、ナバルと同じようにのろわれますように。

27 実は、皆様方のために贈り物を用意してまいりました。

28 厚かましくもこうしてまかり出ましたことを、どうぞお許しください。主は必ず、あなた様の子々孫々にまで及ぶ永遠の王国を建てて、お報いなさることでしょう。あなた様は、主のために戦っておられるのですから、一生、決して道を踏みはずしたりなさいません。

29 たとえいのちをつけねらわれても、主の懐にかくまわれているように、いつも安全に守られています。反対に、敵のいのちは、石投げの石のように飛んで消えてしまうでしょう。

30-31 主がすばらしい約束をことごとく成し遂げて、あなた様がイスラエルの王に任ぜられた時、ご自分の判断で人を殺したりした過去があってはなりません。主がこれらのみわざを成し遂げられたあかつきには、どうか、この私のことを思い出してください。」

32 「今日、あなたを私に会わせるためによこしてくださった、イスラエルの神、主に感謝しよう。

33 全くりっぱな良識を備えた人だ。私を人殺しの罪から守り、自分の手で復讐しようとしていたのを思いとどまらせてくれてありがとう。

34 あなたに害を加えるのをとどめてくださったイスラエルの神、主にかけて誓うが、もしあなたが来てくれなかったら、ナバル家の者は一人残らず、明日の朝までに息の根を止められていたことだろう。」

35 ダビデはアビガイルの贈り物を受け取り、夫を殺したりしないから、安心して家へ帰るように言いました。

36 アビガイルが帰宅すると、ナバルは酒宴の真っ最中でした。彼がひどく酔っていたので、翌朝までアビガイルは、ダビデに会ったことについてはひと言も話しませんでした。

37-38 朝になって、酔いがさめたナバルに昨日のことを話すと、彼は気を失って十日間というもの寝込み、ついに息絶えました。主が彼のいのちを取り去ったのです。

39 ナバルの死を知らされたダビデは、「主がほめたたえられるように。私には手を下させず、ご自分で報復してくださった。ナバルは当然の罰を受けたのだ」と言いました。ダビデはすぐ、アビガイルに使者を遣わし、自分の妻にしたいと申し入れました。

40 使者がカルメルに着いて、その旨を伝えると、

41 彼女はためらうことなくそれに応えました。

42 さっそくしたくを整えると、五人の侍女を従えてろばに乗り、使者について行きました。こうして彼女は、ダビデの妻となったのです。

43 ダビデは、イズレエル出身のアヒノアムをも妻にしていました。

44 一方サウルは、ダビデの妻であった娘ミカルを、ライシュの息子で、パルティというガリム出身の男とむりやり結婚させていました。

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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 26

再び訪れたサウル殺害のチャンス

1 ところで、ジフの人々はギブアにいたサウル王に、ダビデがジフの荒野に舞い戻り、ハキラの丘に隠れていることを知らせました。

2 王は三千の精兵を率いて、ダビデ討伐に向かいました。

3-4 そして、ダビデが潜んでいる荒野のはずれにある道のかたわらに陣を張ったのです。サウル到来を知ったダビデは、偵察を送って、王の動静を探らせました。

5-7 ある夜、ダビデは王の陣営にもぐり込み、様子を見て回りました。サウルとアブネル将軍は、ぐっすり眠りこけている兵士たちに囲まれて寝入っていました。ダビデは、ヘテ人アヒメレクと、ツェルヤの息子で、ヨアブとは兄弟のアビシャイとに、「だれか私といっしょに行くのを志願する者はいないか」と尋ねました。アビシャイが、「お供いたします」と進み出ました。そこでダビデとアビシャイは、サウルの陣営に行き、眠っている王を見つけました。枕もとには槍が突き刺してあります。

8 アビシャイはダビデの耳もとでささやきました。「今日こそ、神様は間違いなく敵を討ち取らせてくださいます。どうか、あの槍で王を刺し殺させてください。ひと突きでしとめてごらんにいれます。」

9 ダビデはそれを制しました。「殺してはならない。主がお選びになった王に手を下して、罪を犯してはいけない。

10 主が、いつの日か必ず王をお打ちになるだろう。年老いて死ぬか、戦場で倒れるかして。

11 しかし、主が王としてお選びになった人を、この手で殺すわけにはいかない。今はあの槍と水差しを取って行くだけにしよう。」

12 こうしてダビデは槍と水差しを取り、彼らの陣営を出て行きました。二人を見た者も目を覚ました者もいませんでした。主が彼らをぐっすり眠らせていたからです。

13 二人は安全な距離を隔てた、敵の陣営を見下ろせる山に登りました。

14 ダビデは、アブネルやサウル王に大声で呼びかけました。「アブネル、目を覚ませ!」

「おまえは、だ、だれだ?」

15 「アブネル、大した男だよ、おまえは。イスラエル中探したって、おまえほどおめでたいやつはいない。主君と仰ぐ王の警護はどうしたのだ。神に選ばれた王を殺そうと、忍び込んだ者がいるというのに、

16 全くけしからんじゃないか。主にかけて言うが、おまえみたいな愚か者は死罪に当たるぞ。王様の枕もとにあった槍と水差しはどうした。よく見てみるがいい!」

17-18 サウルは、それがダビデの声だとわかると、「ああ、ダビデ。その声は、おまえか」と尋ねました。

「はい、私です。なぜあなたは私を追い回すのですか。私が何をしましたか。どんな罪があるとおっしゃるのでしょう。

19 もし主が、あなたを私に敵対させようと図っておられるのなら、主にあなたの和解のいけにえを受け入れていただきましょう。しかし、これが人間の計略にすぎないのであれば、その人は主にのろわれるでしょう。あなたは私を追い払って、主の民とともにいられないようにし、異教の神々を押しつけようとなさったからです。

20 どうして、主の前から遠く離され、異国の地に骨を埋めなければならないのでしょうか。イスラエルの王ともあろうお方が、たかがうずらのような私をねらって、山の中まで追い回られるとは。」

21 「私がばかだった。ああダビデ、帰って来なさい。もう、おまえを殺そうとはしないから。おまえは今日も、私を助けてくれたのだ。あさはかだった。ほんとうに、とんでもない間違いをしてしまった。」

22 「王の槍はここにあります。若者の一人を、取りに来させてください。

23 主は、良いことを行う者に、また真実を貫く者に、正しく報いてくださいます。主はあなたのおいのちを、私の手の届くところに置いてくださいましたが、私は手出しいたしませんでした。

24 今日、私があなたのおいのちをお救いしたように、主は私をお救いくださるでしょう。すべての苦しみから助け出してくださるはずです。」

25 「わが子ダビデよ、おまえに祝福があるように。おまえは必ず英雄の名にふさわしい働きをして、偉大な勝利者となるだろう。」

こうしてダビデは去って行き、サウルは家路につきました。

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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 27

ペリシテ人の地に住むダビデ

1 しかし、ダビデは心中、こう考えていました。「いつか、王は私を捕らえようとやって来るに違いない。そうだ、ペリシテ人の中にまぎれ込んで試してみよう。そして王が追跡をあきらめてくれれば、何も心配はなくなる。」

2-3 ダビデは六百人の部下とその家族を引き連れ、ガテの王アキシュを頼って、ガテに移り住みました。ダビデの二人の妻、イズレエル人アヒノアムと、ナバルの未亡人であったカルメル人アビガイルもいっしょでした。

4 ダビデがガテに逃げたという知らせを聞くと、サウルはダビデの追跡をやめました。

5 ある日のこと、ダビデはアキシュ王に願い出ました。「もしお許しいただけるなら、このような都にではなく、もっと田舎の町に住まわせていただきたいのですが。」

6 そこでアキシュは、ツィケラグをダビデに与えました。それでこの町は、今もユダの王のものとなっています。

7 ダビデがペリシテ人の中で暮らしたのは、一年四か月でした。

8 その間、ダビデとその部下はゲシュル人、ゲゼル人、アマレク人を襲いました。その人々は昔から、エジプトに通じる道沿いの、シュルの近くに住んでいたのです。

9 ダビデが襲った村々には、生存者は一人もいませんでした。彼らは、羊、牛、ろば、らくだ、それに着物などを奪って引き揚げました。

10 アキシュが、「今日は、どこを襲ったのか」と尋ねると、ダビデは、ユダの南部とか、エラフメエルの人々やケニ人を相手に戦ったなどと答えていました。

11 とにかく、生き残ってガテまで来る者は一人もなかったわけですから、実際にどこを襲ったのか、その真相は明らかになりようがなかったのです。ペリシテ人の中にまぎれ込んで暮らしている間、ダビデはこのようなことをくり返していました。

12 アキシュはダビデを信用し、今はもうイスラエル人はダビデをひどく憎んでいるに違いない、と思い込んでいました。そして、「ダビデはいつまでもここにいて、私に仕えてくれるだろう」と思ったのです。

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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 28

サウルと霊媒師

1 そのころ、ペリシテ人はイスラエルと戦争を始めようとして、軍を召集しました。アキシュ王はダビデとその部下に、「いっしょに出陣してほしい」と頼みました。

2 ダビデは快く承知しました。「いいですとも。仰せのとおりにしましょう。」

「やってくれるか。あなたには今後ずっと、私の護衛を受け持ってもらおう。」

3 同じころ、イスラエルではサムエルが死んで、国中が喪に服していました。サムエルの遺体は故郷の町ラマに葬られました。また、サウル王はイスラエルから霊媒やまじない師を追放していました。

4 さて、ペリシテ人はシュネムに、サウルの率いるイスラエル軍はギルボアに、それぞれ陣を構えました。

5-6 サウルはペリシテ人の大軍を見て、恐ろしさのあまりひどく取り乱し、どうすべきか主に伺いを立てましたが、主は、夢によってもウリム〔神意を伺う一種のくじ〕によっても、また預言者によっても答えませんでした。

7-8 サウルはどうしても伺いを立てたかったので、やむなく、家臣に霊媒のできる女を捜し出してくるよう命じました。エン・ドルに一人の霊媒師がいることがわかりました。サウルは王衣を脱ぎ、ふつうの身なりに着替えて、部下二人を連れ、夜、その女の家に出向きました。

「死んだ人間と話したいのだが、その人の霊を呼び出してくれないか。」

9 「私を殺すつもりかい。知ってるだろう、サウル王が霊媒やまじない師を、片っぱしから追放したことをさ。きっと、あなたたちは私を探りに来たんだね。」

10 そこでサウルは、裏切るようなことは絶対にしないと、厳粛な誓いを立てました。

11 とうとう女も承知しました。「わかったよ、いったいだれを呼び出せばいいんだい。」

「サムエルを呼び出してくれ。」

12 霊媒の女はサムエルの姿を見たとたん、大声で叫びました。「よくもだましてくれたね。あんたはサウル王じゃないか。」

13 「恐れる必要はない。さあ、何が見えるんだ。」

「神のような方が地から上って来ます。」

14 「どんな様子だ。」

「外套をまとった老人です。」

サムエルです。サウルはその前にひれ伏しました。

15 サムエルは尋ねました。「どうして私を呼び出したりして、煩わすのか。」

「私はもう、途方にくれているのです。ペリシテ人が攻めて来るのに、主は私をお見捨てになり、預言者によっても、夢によっても答えてくださいません。思いあぐねて、あなたをお呼びしたのです。」

16 「主があなたから離れ、敵となってしまわれたのに、なぜ私に尋ねるのだ。

17 主は、予告どおりのことをなさったまでだ。あなたから王位を取り去り、対抗するダビデにお与えになった。

18 こうなったのもみな、あなたがあの時、アマレクに激しい怒りを向けておられた主のご命令を踏みにじったからだ。

19 そればかりではない、明日、イスラエル軍は総くずれとなり、ペリシテ人の手で滅ぼされるだろう。あなたも息子たちも、私といっしょになるだろう。」

20 サウルは地面に棒のように倒れてしまいました。サムエルのことばを聞いて、恐怖のあまり卒倒したのです。それに丸一日、食べ物を何も口にしていなかったのです。

21 霊媒の女はサウルが錯乱しているのを見て言いました。「王様。私は、いのちがけでご命令に従ったのです。

22 今度はこちらの言うとおりにしてください。食べる物を差し上げますから、それで元気を取り戻してお帰りください。」

23 王は首を横に振りました。しかし、供の者たちもいっしょになってしきりに勧めたので、ついに折れ、起き上がって床に座りました。

24 その家には、太った子牛がいました。女は急いで子牛を料理し、小麦粉をこねてパン種を入れないパンを焼きました。

25 料理が運ばれると、一行は食事をし、夜のうちに立ち去りました。

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サムエル記Ⅰ

サムエル記Ⅰ 29

ペリシテ軍からの離脱

1 さて、ペリシテ軍はアフェクに集結し、イスラエル軍はイズレエルにある泉のほとりに陣を張りました。

2 ペリシテ軍の隊長たちは大隊や中隊を率いて進軍し、ダビデとその配下の者たちはアキシュ王を守ってしんがりを務めました。

3 しかしペリシテ人の指揮官たちは、「このイスラエル人どもは、いったいどうしたのです」と王にただし始めたのです。するとアキシュ王は、「イスラエルの王サウルの家来ダビデだ。私のもとに落ち延びて、一、二年になるが、今日まで一つもやましい点はなかった」と弁護しました。

4 しかし、指揮官たちは腹を立てるばかりです。「追い返してください! 彼らがいっしょに戦うはずはありません。せいぜい裏切るのが落ちです。戦場で向こうに寝返れば、彼は主君と手打ちする絶好のチャンスなのですよ。

5 イスラエルの女が踊りながら、『サウルは千人を殺し、ダビデは一万人を殺した』と歌ったのは、この人のことですから。」

6 とうとうアキシュは、ダビデたちを呼んで、こう言い渡さなければなりませんでした。「主に誓って言うが、あなたたちは、私がこれまで会った中でも、ことにすぐれた面々である。ぜひ行動を共にしてもらいたかったが、あの指揮官どもが承知しないのだ。

7 彼らを刺激してはまずい。ここは穏やかに引き返してくれないか。」

8 「いったい私たちが何をしたのでしょう。引き返せとはあんまりです。どうして、あなたの敵と戦わせていただけないのでしょうか。」

9 しかし、アキシュ王は首を振りました。「私が知る限り、あなたは神の使いのように完璧だ。だが、あの指揮官どもは、いっしょに戦場に臨むのを恐れているのだ。

10 明日の朝、早く起きて、夜明けとともに出立してくれ。」

11 そこで、ダビデは自分の部隊を率いてペリシテ人の地へ帰りました。一方、ペリシテ軍はイズレエルへと進軍しました。

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