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マタイの福音書

マタイの福音書 10

十二弟子

1 イエスは、十二人の弟子たちをそばに呼び寄せ、彼らに、汚れた霊を追い出し、あらゆる病気を治す権威をお与えになりました。

2-4 その十二人の名前は次のとおりです。シモン〔別名ペテロ〕、アンデレ〔ペテロの兄弟〕、ヤコブ〔ゼベダイの息子〕、ヨハネ〔ヤコブの兄弟〕、ピリポ、バルトロマイ、トマス、マタイ〔取税人〕、ヤコブ〔アルパヨの息子〕、タダイ、シモン〔「熱心党」という急進派グループのメンバー〕、イスカリオテのユダ〔後にイエスを裏切った男〕です。

伝道の心がまえ

5 イエスは、次のような指示を与え、弟子たちを派遣されました。「外国人やサマリヤ人のところに行ってはいけません。

6 イスラエル人のところにだけ行きなさい。この人たちは神の囲いから迷い出た羊です。

7 彼らのところに行って、『神の国は近づいた』と伝えなさい。

8 病人を治し、死人を生き返らせ、ツァラアトの人を治し、悪霊を追い出しなさい。ただで受けたのだから、ただで与えなさい。

9 お金は、たとえわずかでも持って行ってはいけません。

10 旅行袋や着替え、くつ、それに杖も持って行ってはいけません。そういうものは、あなたがたが助けてあげる人たちから世話してもらいなさい。それが当然のことです。

11 どんな町や村に入っても、神を敬う人を見つけ、次の町へ行くまで、その家に泊まりなさい。

12 泊めてもらう時は、その家の祝福を祈りなさい。

13 もし神を敬う家庭なら、その家は必ず祝福されるし、そうでなければ、祝福されないでしょう。

14 あなたがたを受け入れない町や家があったら、そこを立ち去る時、足のちりを払い落としなさい。

15 よく言っておきますが、さばきの日には、あの邪悪なソドムとゴモラの町(悪行のため、神に滅ぼされた町)のほうが、その町よりまだ罰が軽いのです。

16 いいですか。あなたがたを派遣するのは、羊を狼の群れの中へ送るようなものです。ですから、蛇のように用心深く、鳩のように純真でありなさい。

17 気をつけなさい。あなたがたは捕らえられて裁判にかけられ、会堂でむち打たれるからです。

18 わたしのために、総督や王たちの前で取り調べられるでしょう。その時、わたしのことを彼らと世の人々にあかしすることになります。

19 逮捕されたら、どう釈明しようかなどと心配することはありません。その時その時に適切なことばが与えられます。

20 釈明するのは、あなたがたではありません。あなたがたの天の父の御霊が、あなたがたの口を通して語ってくださるのです。

21 身内からさえ迫害が起こります。

22 わたしの弟子だというので、あなたがたはすべての人に憎まれます。けれども、最後まで耐え忍ぶ者は救われるのです。

23 一つの町で迫害されたら、次の町に逃げなさい。あなたがたがイスラエルの町を全部めぐり終えないうちに、わたしは戻って来るからです。

24 生徒は先生にまさることはなく、使用人は主人より上ではありません。

25 生徒は先生のようになれたら十分だし、使用人は主人のようになれたら十分です。主人のわたしがベルゼブル(サタン)と呼ばれるくらいなのだから、ましてあなたがたは、どんなひどいことを言われるでしょうか。

26 しかし、脅迫する者たちを恐れてはいけません。やがてほんとうのことが明らかになり、彼らがひそかに巡らした陰謀は、すべての人に知れ渡るからです。

27 わたしが今、暗闇で語ることを、明るいところで大声でふれ回りなさい。わたしがあなたがたの耳にささやいたことを、屋上から言い広めなさい。

28 体だけは殺せても、たましいには指一本ふれることもできないような人々を、恐れてはいけません。たましいも体も地獄に落とすことのできる神だけを恐れなさい。

29 たった一羽の雀でさえ、あなたがたの天の父の許しなしに地に落ちることはありません。

30 あなたがたの髪の毛さえ一本残らず数えられています。

31 ですから、心配しなくてもいいのです。あなたがたは神にとって、雀より、ずっと大切なものではありませんか。

32 もしあなたがたが、だれの前でも、『私はイエスの友だ』と認めるなら、わたしも、天の父の前で、あなたがたをわたしの友だとはっきり認めましょう。

33 しかし、もし人々の前で、『イエスなど知らない』と言うなら、わたしもまた天の父の前で、あなたがたを知らないと、はっきり言うでしょう。

34 わたしが来たのは、地上を平和にするためだ、などと誤解してはいけません。平和ではなく、むしろ争いを引き起こすために来たのです。

35 そうです。息子を父親に、娘を母親に、嫁をしゅうとめに逆らわせるためです。

36 家族の者さえ敵となる場合があるのです。

37 わたし以上に父や母を愛する者は、わたしを信じる者にふさわしくありません。また、わたしよりも息子や娘を愛する者は、わたしを信じる者にふさわしくありません。

38 さらに、自分の十字架を負ってわたしに従って来ない者は、わたしを信じる者にふさわしくありません。

39 自分のいのちを一生懸命守ろうとする者は、それを失いますが、わたしのためにいのちを捨てる者は、それを自分のものとします。

40 あなたがたを受け入れる人は、わたしを受け入れるのです。わたしを受け入れる人は、わたしをお遣わしになった神を受け入れているのです。

41 もし預言者を、神から遣わされた預言者だというので受け入れるなら、預言者と同じ報いを受けるでしょう。また、神を敬う正しい人たちを、彼らが神を敬うというので受け入れるなら、彼らと同じ報いを受けます。

42 また、この小さい者のひとりに、わたしに代わって冷たい水一杯でも与えるなら、よく言っておきますが、その人は必ず報いを受けるのです。」

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マタイの福音書

マタイの福音書 11

1 イエスは、十二人の弟子たちにこのような指示を与えると、ご自分も教え、宣べ伝えるために、彼らが行くことになっていた町々へお出かけになりました。

ヨハネとイエスの違い

2 さて、そのころ牢獄にいたバプテスマのヨハネは、キリストがさまざまな奇跡を行っておられることを聞きました。そこで、弟子たちをイエスのもとに送り、

3 「あなたはほんとうに、私たちの待ち続けてきたお方ですか。それとも、まだ別の方を待たなければならないのでしょうか」と尋ねさせました。

4 イエスは答えて言われました。「ヨハネのところに帰り、わたしの行っている奇跡について、見たままを話しなさい。

5 盲人は見えるようになり、足の立たなかった者が今は自分で歩けるようになり、ツァラアトの人が治り、耳の聞こえなかった人も聞こえ、死人が生き返り、そして、貧しい人々が福音を聞いていることなどを。

6 それから、こう伝えるのです。『わたしを疑わない人は幸いです。』」

7 ヨハネの弟子たちが帰ってしまうと、イエスは群衆に、ヨハネのことを話し始められました。「あなたがたはヨハネに会おうと荒野へ出かけて行った時、彼をどんな人物だと考えていましたか。風にそよぐ葦のような人だとでも思っていたのですか。

8 それとも宮殿に住む王子のように、きらびやかに着飾った人に会えるとでも思ったのですか。

9 あるいは、神の預言者に会えると期待していたのですか。そのとおり彼は預言者です。いや、それ以上の者です。

10 彼こそ、聖書の中で、『見よ。わたしはあなたより先に使者を送る。その使者は、人々にあなたを迎え入れる準備をさせる』(マラキ3・1)と言われている、その人です。

11 よく言っておきます。今までに生まれた人の中で、バプテスマのヨハネほどすぐれた働きをした人はいません。しかし、神の国で一番小さい者でも、ヨハネよりずっと偉大なのです。

12 ヨハネが教えを宣べ伝え、バプテスマ(洗礼)を授け始めてから現在まで、多くの熱心な人々が天国を目指して押し寄せました。

13 すべての律法と預言者(旧約聖書を指す)とは、メシヤ(救い主)を待ち望んできたからです。そして、ヨハネが現れました。

14 ですから、わたしの言うことを喜んで理解しようとする人なら、ヨハネこそ、天国が来る前に現れると言われていた、あの預言者エリヤだとわかるでしょう。

15 さあ、聞く耳のある人は聞きなさい。

16 あなたがたイスラエル人のことを、何と言えばいいでしょう。まるで小さな子どものようです。あなたがたは友達同士で遊びながら、こう責めているのです。

17 『結婚式ごっこをして遊ぼうと言ったのに、ちっともうれしがってくれなかった。だから葬式ごっこにしたのに、今度は悲しがってくれなかった。』

18 つまり、バプテスマのヨハネが酒も飲まず、また何度も断食していると、『あいつは気が変になっている』とけなし、

19 メシヤのわたしがごちそうを食べていると、『大食いの大酒飲み、最もたちの悪い罪人の仲間だ』とののしります。もっとも、賢いあなたがたのことですから、うまくつじつまを合わせるでしょうが、知恵が正しいかどうかは、行いによって証明されるのです。」

わたしのところに来なさい

20 それからイエスは、多くの奇跡を目のあたりに見ながら、それでも、神に立ち返ろうとしなかった町々を責められました。

21 「ああ、コラジンよ。ああ、ベツサイダよ。わたしがあなたがたの街頭で行ったような奇跡を、あの邪悪な町ツロやシドン(悪行のため、神に滅ぼされた町)で見せたなら、そこの人々は、とうの昔に恥じ入り、へりくだって悔い改めていたでしょうに。

22 いいですか、さばきの日にはツロとシドンのほうが、あなたがたよりまだましなものとされるのです。

23 ああ、カペナウムよ。大きな名誉を受けたあなたも、地獄にまで突き落とされるのです。あなたのところでしたすばらしい奇跡を、もしあのソドムで見せたなら、ソドムは滅ぼされずにすんだでしょうに。

24 いいですか、さばきの日には、ソドムのほうがあなたより、まだましなものとされるのです。」

25 そして、こう祈られました。「ああ、天地の主である父よ。自分を賢いとうぬぼれる者たちには、あなたの真理を隠し、それを小さな子どもたちに示してくださって、ありがとうございます。

26 父よ。これが、お心にかなったことでした。

27 あなたは、すべてのことを、わたしに任せてくださいました。わたしを知っておられるのは、父であるあなただけですし、あなたを知っているのは、子であるわたしと、わたしが教える人たちだけです。

28 重い束縛を受けて、疲れはてている人たちよ。さあ、わたしのところに来なさい。あなたがたを休ませてあげましょう。

29 わたしはやさしく、謙遜な者ですから、負いやすいわたしのくびきを、わたしといっしょに負って、わたしの教えを受けなさい。そうすれば、あなたがたのたましいは安らかになります。

30 わたしが与えるのは軽い荷だけだからです。」

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マタイの福音書

マタイの福音書 12

安息日をも支配するイエス

1 そのころのことです。イエスは弟子たちといっしょに、麦畑の中を歩いておられました。ちょうど、ユダヤの礼拝日にあたる安息日(神の定めた休息日)でしたが、お腹がすいた弟子たちは、麦の穂を摘み取って食べ始めました。

2 ところが、それを見た、あるパリサイ人たちが言いました。「あなたの弟子たちがおきてを破っている。安息日に刈り入れをするなど、もってのほかだ。」

3 しかし、イエスは言われました。「ダビデ王とその家来たちが空腹になった時、どんなことをしたか、聖書で読んだことがないのですか。

4 ダビデ王は神殿に入り、祭司しか食べられない供え物のパンを、みんなで食べたではないですか。ダビデ王でさえ、おきてを破ったわけです。

5 また、神殿で奉仕をする祭司は安息日に働いてもよい、と聖書に書いてあるのを読んだことがないのですか。

6 ことわっておきますが、このわたしは、神殿よりもずっと偉大なのです。

7 もしあなたがたが、『わたしは供え物を受けるより、あなたがたにあわれみ深くなってほしい』(ホセア6・6)という聖書のことばをよく理解していたら、罪もない人たちをとがめたりはしなかったはずです。

8 安息日といえども、天から来たわたしの支配下にあるのですから。」

9 このあと、イエスは会堂にお入りになりました。

10 ふとごらんになると、そこに、片手の不自由な男がいました。ここぞとばかり、パリサイ人たちは、「安息日に病気を治してやっても、おきてに違反しないでしょうか」と尋ねました。それは、イエスがきっと「さしつかえない」と答えるだろうから、そうしたら逮捕しようという計略でした。

11 ところが、イエスの答えは違いました。「あなたがたが、羊を一匹飼っていたとします。ところが、その羊が安息日に井戸に落ちてしまった。さあ、どうしますか。もちろん、すぐに助けてあげるでしょう。

12 人間の価値は、羊とは比べものになりません。だから安息日に良いことをするのは、正しいことなのです。」

13 それからイエスは、片手の不自由な男に、「手を伸ばしなさい」と言われ、彼がそのとおりにすると、手はすっかりよくなりました。

14 そこでパリサイ人たちは、どうにかしてイエスを逮捕し死刑にしようと、集まって陰謀を巡らしました。

15 しかし、それに気づいたイエスは、いち早く会堂を抜け出しました。すると、大ぜいの人がついて来たので、その中の病人をみないやし、

16 そして彼らに、この奇跡のうわさを言い広めないように注意しました。

17 こうして、イザヤの預言のとおりになったのです。

18 「わたしのしもべを見よ。

彼こそわたしの選んだ者。

わたしが喜ぶ、わたしの愛する者。

わたしは彼の上にわたしの霊を置き、

彼は国々をさばく。

19 彼は争わず、

叫ぶことも大声をあげることもない。

20 弱い者を踏み倒さず、

どんな小さな望みの火も消さない。

ついには、正義に勝利をもたらす。

21 彼の名こそ、全世界の希望となる。」(イザヤ42・1―4)

22 その時、悪霊につかれて、目も見えず、口もきけない人が連れて来られたので、イエスは彼の目を開け、口もきけるようになさいました。

23 これを見た人々は驚いて、「やはり、この人がメシヤ(救い主)ではないだろうか」と言い合いました。

24 しかし、このことを耳にしたパリサイ人たちは、「イエスが悪霊を追い出せるのは、自分が悪霊の王ベルゼブル(サタン)だからだ」とうそぶきました。

25 イエスは彼らの考えを見抜き、こう言われました。「内紛の絶えない国は、結局滅びます。町でも家庭でも、分裂していては長続きしません。

26 もしサタンがサタンを追い出すなら、自分で自分と戦い、自分の国を破壊することになるのです。

27 わたしがベルゼブルの力で悪霊を追い出していると言うが、あなたがたの仲間も、悪霊を追い出しているではありませんか。彼らは、いったい何の力で追い出しているのですか。あなたがたの非難があたっているかどうか、彼らに答えてもらいましょう。

28 ところで、もしわたしが神の霊によって悪霊を追い出しているとしたら、どうでしょう。神の国はもう、あなたがたのところに来ているのです。

29 強い者の家に押し入って、物を盗み出すにはまず、その強い者を縛り上げなければなりません。悪霊も同じことです。まずサタンを縛り上げなければ、悪霊を追い出せるわけがありません。

30 わたしに味方しない者はみな、わたしの敵なのです。

31-32 だから、あなたがたに言っておきます。どんなにわたしを悪く言おうと、またどんな罪を犯そうと、神は赦してくださいます。ただ一つ、聖霊を汚すことだけは例外です。この罪ばかりは、いつの世でも絶対に赦されることはありません。

33 木の良し悪しは、実で見分けます。良い品種は良い実をつけ、劣った品種は悪い実をつけるものです。

34 ああ、まむしの子らよ。あなたがたのような悪者の口から、どうして正しい、良いことばが出てくるでしょう。人の心の思いが、そのまま口から出てくるのですから。

35 良い人のことばを聞けば、その人の心の中にすばらしい宝がたくわえられていることがわかります。しかし、悪い人の心の中は悪意でいっぱいです。

36 言っておきますが、やがてさばきの日には、あなたがたは今まで口にしたむだ口を、一つ一つ釈明しなければならないのです。

37 あなたがたのことばしだいで、あなたがたの将来は決まります。自分のことばによって、正しい者とされるか、あるいは罪に定められるか、どちらかになるのです。」

証拠を求める人々

38 ある日、ユダヤ人の指導者とパリサイ人のうちの何人かがやって来て、「あなたがほんとうにメシヤなら、その証拠を見せてほしい」と頼みました。

39 しかしイエスは、お答えになりました。「邪悪な不信の時代の人々は、証拠を要求するのです。けれども、預言者ヨナに起こったこと以外は、何の証拠も与えられません。

40 つまり、ヨナが三日三晩大きな魚の腹の中で過ごしたように、メシヤのわたしも、三日三晩、地の中で過ごすからです。

41 さばきの日には、あのニネベの人々が、あなたがたをきびしく罰する側に立つでしょう。ニネベの人々はヨナの教えを聞いて、それまでの堕落した生活を悔い改め、神に立ち返ったからです。ところが、今ここに、ヨナよりもはるかにまさる者が立っているのに、あなたがたはその人を信じようとしません。

42 シェバの女王でさえ、あなたがたをきびしく罰する側に回るでしょう。彼女は、ソロモンから知恵のことばを聞こうと、あんなに遠い国から旅して来ることもいとわなかったのです。ここに、そのソロモンよりまさる偉大な者がいるのに、あなたがたは信じようとしません。

43 この邪悪な時代に生きる人たちは、ちょうど悪霊につかれた人のようです。せっかくその人から悪霊が出て行っても、しばらくの間、悪霊は別の住みかを求めて荒野をあちこち歩き回るだけです。結局、適当な場所が見つからないので、

44 『もとの家に帰ろう』と帰ってみると、その人の心はきれいに片づけてあり、しかも空っぽです。

45 そこで、しめたとばかり、もっとたちの悪い七つの霊を連れ込んで、住みついてしまうというわけです。こうなると、その人の状態は以前より、はるかに悲惨なものとなります。」

46 イエスが人々のひしめき合う家の中で話しておられた時、母と弟たちがやって来ました。イエスに話したいことがあったからです。

47 だれかが、「先生。お母様と弟さんたちがお見えです」と知らせると、

48 イエスはみんなを見回して、「わたしの母や兄弟とは、いったいだれのことですか」と言われました。

49 そして弟子たちを指さし、「ごらんなさい。この人たちこそわたしの母であり兄弟です。

50 天におられるわたしの父に従う人はだれでも、わたしの母であり、兄弟であり、姉妹なのです」と言われました。

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マタイの福音書

マタイの福音書 13

天国のたとえ話

1 その日のうちに、イエスは家を出て、湖の岸辺に降りて行かれました。

2-3 ところがそこも、またたく間に群衆でいっぱいになったので、小舟に乗り込み、舟の上から、岸辺に座っている群衆に、多くのたとえを使って教えを語られました。

「農夫が畑で種まきをしていました。

4 まいているうちに、ある種が道ばたに落ちました。すると、鳥が来て食べてしまいました。

5 また、土の浅い石地に落ちた種もありました。それはすぐに芽を出したのですが、

6 土が浅すぎて十分根を張ることができません。やがて日が照りつけると枯れてしまいました。

7 ほかに、いばらの中に落ちた種もありましたが、いばらが茂って、結局、成長できませんでした。

8 しかし中には、耕された良い地に落ちた種もありました。そして、まいた種の三十倍、六十倍、いや百倍もの実を結びました。

9 聞く耳のある人はよく聞きなさい。」

10 その時、弟子たちが近寄って来て尋ねました。「どうして、人々にはいつも、このようなたとえでお話しになるのですか。」

11 「あなたがたには神の国を理解することが許されていますが、ほかの人たちはそうではないからです。」イエスはこう答え、

12 さらに続けて説明なさいました。「つまり、持っている者はますます多くの物を持つようになり、持たない者はわずかな持ち物さえも取り上げられてしまいます。

13 だから、たとえを使って話すのです。彼らは、いくら見てもいくら聞いても、少しも理解しようとしません。

14 こうして、イザヤの預言のとおりになりました。

『彼らは、聞くには聞くが理解しない。

見るには見るが認めない。

15 その心は肥えて鈍くなり、

その耳は遠く、その目は閉じられている。

彼らは見もせず、聞きもせず、理解もせず、

神に立ち返って、わたしにいやされることがない。』(イザヤ6・9―10)

16 しかし、あなたがたの目は見ているから幸いです。また、あなたがたの耳は聞いているから幸いです。

17 よく言っておきますが、多くの預言者や神を敬う人たちが、今あなたがたの見聞きしていることを見たい、聞きたいと、どんなに願ったことでしょう。しかし、残念ながらできなかったのです。

18 さて、さっきの種まきのたとえ話を説明しましょう。

19 最初の道ばたというのは、踏み固められた土のことで、御国についてのすばらしい知らせを耳にしながら、それを理解しようとしない人の心を表しています。こういう人だと、悪魔がさっそくやって来て、その心から、まかれた種を奪い取っていくのです。

20 次に、土が浅く、石ころの多い地というのは、教えを聞いたその時は大喜びで受け入れる人の心を表しています。

21 ところが、その人の心は深みがないので、このすばらしい教えも深く根をおろすことができません。ですから、しばらくして信仰上の問題が起こったり、迫害が始まったりすると、熱がさめ、いとも簡単に離れて行ってしまうのです。

22 また、いばらの生い茂った地というのは、神のことばを聞いても、生活の苦労や金銭欲などがそれをふさいでしまい、しだいに神から離れていく人のことです。

23 最後に、良い地というのは、神のことばに耳を傾け、それを理解する人の心のことです。このような人こそ、三十倍、六十倍、百倍もの実を結ぶことができるのです。」

24 イエスは、別のたとえ話もなさいました。「神の国は、自分の畑に良い種をまく農夫のようなものです。

25 ある晩、農夫が眠っているうちに敵が来て、麦の中に毒麦の種をまいていきました。

26 麦が育つと、毒麦もいっしょに伸びてきました。

27 使用人は主人のところに駆けつけ、このことを報告しました。『ご主人様、大変です! 最良の種をまいた畑に、なんと毒麦も生えてきました。』

28 『敵のしわざだな。』主人はすぐに真相を見抜きました。使用人たちが、『毒麦を引き抜きましょうか』と尋ねると、

29 主人は、『いや、だめだ。そんなことをしたら、麦まで引き抜いてしまうだろう。

30 収穫の時まで、放っておきなさい。その時がきたら、まず毒麦だけを束ねて燃やし、あとで麦はきちんと倉庫に納めればよいのだ』と答えました。」

31 またイエスは、こんなたとえも話されました。「天国は、畑にまいたからし種のようなものです。

32 それはどんな種よりも小粒ですが、成長すると大きな木になり、鳥が巣を作れるほどになります。」

33 さらに、こんなたとえも話されました。「神の国は、女の人がパンを焼くのにも似ています。小麦粉に、ほんの少しのパン種(パンの製造に使用する酵母)を入れるだけで、パン生地全体がふくらんできます。」

34-35 群衆に話をする時、イエスはいつも、このようにたとえで語られました。それは、預言者によって言われたことが実現するためでした。「わたしはたとえを使って語り、世の初めから隠されている秘密を説き明かそう。」

36 こうしてイエスが群衆と別れ、家に入られると、弟子たちは、さきほどの毒麦のたとえの意味を説明してほしいと願いました。

37 イエスは、お答えになりました。「いいでしょう。良い麦の種をまく農夫とは、わたしです。

38 畑とはこの世界、良い麦の種というのは天国に属する人々、毒麦とは悪魔に属する人々のことです。

39 畑に毒麦の種をまいた者とは悪魔であり、収穫の時とはこの世の終わり、刈り入れをする人とは天使たちのことです。

40 この話では、毒麦がより分けられ、焼かれますが、この世の終わりにも同じようなことが起こります。

41 わたしは天使を送って、人をそそのかす者や悪人たちをより分け、

42 炉に投げ込んで燃やしてしまいます。悪人たちは、そこで泣いて歯ぎしりするのです。

43 その時、正しい人たちは、父の国で太陽のように輝きます。聞く耳のある人はよく聞きなさい。

44 神の国は、ある人が畑の中で見つけた宝のようなものです。見つけた人はもう大喜びで、だれにも知らせず、全財産をはたいてその畑を買い、宝を手に入れるに違いありません。

45 また神の国は、良質の真珠を探している宝石商のようなものです。

46 彼はすばらしい価値のある真珠を見つけると、持ち物全部を売り払ってでも、それを手に入れようとするのです。

47-48 また神の国は、漁師にたとえることもできます。漁師は、いろいろな魚でいっぱいになった網を引き上げると、岸辺に座り込んで網の中の魚をより分けます。食べられるものはかごに入れて、食べられないものは捨てるというふうに。

49 この世の終わりにも、同じようなことが起こります。天使がやって来て、正しい者と悪い者とを区別し、

50 悪い者を火に投げ込むのです。彼らはそこで泣きわめいて、くやしがります。

51 これでわかりましたか。」

弟子たちは、「はい」と答えました。

52 そこでイエスは、さらにこう言われました。「ユダヤ人のおきてに通じ、しかも、わたしの弟子でもある人たちは、古くからある聖書の宝と、私が与える新しい宝と、二つの宝を持つことになるのです。」

故郷の町ナザレでのイエス

53-54 これらのたとえを語り終えると、イエスはガリラヤのナザレに帰り、町の会堂で教えられました。すると、人々はみなイエスの知恵とその不思議な力に驚きました。「なんということだ。

55 あの人は、たかが大工の息子ではないか。母親はマリヤで、弟のヤコブも、ヨセフも、シモンも、ユダも、

56 妹たちも、おれたちはよく知っている。みんなここに住んでいるのだから。あのイエスがどれほどの人だというのか。」

57 こうして人々は、かえってイエスに反感を持つようになりました。「預言者はどこででも尊敬されますが、ただ自分の故郷、身内の者の間ではそうではないのです」と、イエスは言われました。

58 このような人々の不信仰のために、そこでは、ほんのわずかの奇跡を行われただけでした。

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マタイの福音書

マタイの福音書 14

殺されたヨハネ

1 そのころ、イエスのうわさを聞いたヘロデ王(ヘロデ・アンテパス)は、回りの者に言いました。

2 「あれはバプテスマのヨハネだ。ヨハネが生き返ったに違いない。そうでなければ、あんな奇跡ができるわけがない。」

3 実はこのヘロデは以前、兄のピリポの妻であったヘロデヤのことが原因でヨハネを捕らえ、牢獄につないだ張本人でした。

4 それは、ヨハネが、兄嫁を奪い取るのはよくないとヘロデを責めたからです。

5 その時ヘロデは、ヨハネを殺そうとも考えましたが、それでは暴動が起きる恐れがあったので思いとどまりました。人々がヨハネを預言者だと認めていたからです。

6 ところが、ヘロデの誕生祝いが開かれた席で、ヘロデヤの娘がみごとな舞を披露し、ヘロデをたいそう喜ばせました。

7 それで王は娘に、「ほしいものを何でも言うがよい。必ず与えよう」と誓いました。

8 ところがヘロデヤに入れ知恵された娘は、なんと、バプテスマのヨハネの首を盆に載せていただきたいと願い出たのです。

9 王は後悔しましたが、自分が誓ったことでもあり、また並み居る客の手前もあって、引っ込みがつきません。しかたなく、それを彼女に与えるように命令しました。

10 こうしてヨハネは、獄中で首を切られ、

11 その首は盆に載せられ、約束どおり娘に与えられました。娘はそれを母親のところに持って行きました。

12 ヨハネの弟子たちは死体を引き取って埋葬し、この出来事をイエスに知らせました。

13 この知らせを聞くと、イエスは舟をこぎ出し、ご自分だけで人里離れた所へ行こうとなさいました。ところが、大ぜいの群衆がそれと気づき、町々村々から、岸づたいにイエスのあとを追って行きました。

五つのパンと二匹の魚

14 舟から上がったイエスは群衆をごらんになり、あわれに思って、彼らの病気を治されました。

15 夕方になったので、弟子たちはイエスのところに来て、「先生。もうとっくに夕食の時間も過ぎています。こんな寂しい所では食べ物もないですし、みんなを解散させてはどうでしょう。村へ行けば、めいめいで食べる物を買えますから」と勧めました。

16 しかし、イエスはお答えになりました。「それにはおよびません。あなたがたで、みんなに食べる物をあげなさい。」

17 弟子たちはイエスに言いました。「先生、今手もとには、小さなパンが五つと、魚が二匹あるだけです。」

18 ところがイエスは、「そのパンと魚とを持って来なさい」と言われました。

19 それから群衆を草の上に座らせると、五つのパンと二匹の魚を取り、天を見上げて神の祝福を祈り求め、パンをちぎって、弟子たちに配らせました。

20 こうしてみんなが食べ、満腹したのです。あとで余ったパン切れを拾い集めると、なんと十二のかごにいっぱいになりました。

21 そこには、女性や子どもを除いて、男だけでも五千人ぐらいの人がいました。

22 このあとすぐ、イエスは弟子たちを舟に乗り込ませて向こう岸に向かわせ、また、群衆を解散させられました。

23 みんなを帰したあと、ただお一人になったイエスは、祈るために丘に登って行かれました。

24 一方、湖上は夕闇に包まれ、弟子たちは強い向かい風と大波に悩まされていました。

25 朝の四時ごろ、イエスが水の上を歩いて弟子たちのところに行かれると、

26 弟子たちは悲鳴をあげました。てっきり幽霊だと思ったのです。

27 しかし、すぐにイエスが、「わたしです。こわがらなくてよいのです」と声をおかけになったので、彼らはほっと胸をなでおろしました。

28 その時、ペテロが叫びました。「先生。もしほんとうにあなただったら、私に、水の上を歩いてここまで来いとおっしゃってください。」

29 「いいでしょう。来なさい。」言われるままに、ペテロは舟べりをまたいで、水の上を歩き始めました。

30 ところが高波を見てこわくなり、沈みかけたので、大声で、「主よ。助けてください」と叫びました。

31 イエスはすぐに手を差し出してペテロを助け、「ああ、信仰の薄い人よ。なぜわたしを疑うのです」と言われました。

32 二人が舟に乗り込むと、すぐに風はやみました。

33 舟の中にいた者たちはみな、「あなたはほんとうに神の子です」と告白しました。

34 やがて、舟はゲネサレに着きました。

35 イエスが来られたという知らせはたちまち町中に広まり、人々がどっと押しかけました。互いに誘い合い、病人という病人をみな連れて来て、

36 イエスに頼みました。「せめてお着物のすそにでもさわらせてやってください。」そして、さわった人たちはみな治りました。

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マタイの福音書

マタイの福音書 15

規則より大切なもの

1 パリサイ人やユダヤ人の指導者たちが、イエスに会いに、エルサレムからやって来ました。

2 彼らはイエスに、「どうしてあなたの弟子たちは、先祖の言い伝えを守らないのか。食事の前に手を洗わないのはどうしてか」と迫りました。

3 そこで、イエスは言われました。「それならお聞きします。あなたがたも自分たちの言い伝えのために、神の戒めを破っています。それはどういうわけですか。

4 たとえば、律法には、『あなたの父と母とを敬え。だれでも父や母をののしる者は死刑に処せられる』とあります。

5-6 ところが、どうでしょう。あなたがたは、両親が困っていようと何だろうと、『このお金は神にささげました』と言いさえすれば、もう両親のためにそのお金を使わなくてもよいと教えています。つまり、人間の作った規則を盾にとって、両親を敬い、そのめんどうをみなさいという神の戒めを破っているのです。

7 まさに偽善者です。イザヤが預言したとおりです。

8 『彼らは口先ではわたしを敬うが、

心はわたしから遠く離れている。

9 彼らがわたしを拝んでも、むだなことだ。

神のおきての代わりに、

人間の規則を教えているのだから。』(イザヤ29・13)」

10 それからイエスは、群衆を呼び寄せて言われました。「いいですか、よく聞きなさい。

11 禁じられている物を食べたからといって、それで汚れるわけではありません。人を汚すのは、口から出ることばであり、心の思いなのです。」

12 その時、弟子たちが来て言いました。「先生があんなことをおっしゃったので、パリサイ人たちはかんかんに怒っています。」

13 しかし、イエスは言われました。「わたしの父がお植えにならなかった木は、みな根こそぎ抜かれてしまいます。

14 だから、あの人たちのことは放っておきなさい。彼らは盲目なのです。おまけに、ほかの盲人の手引きまでして、結局、二人とも溝に落ちてしまうでしょう。」

15 すると、ペテロが尋ねました。「きよくないとされている物を食べても汚れない、と先生がおっしゃるのは、どうしてですか。」

16 イエスは言われました。「そんなことがわからないのですか。

17 口から入る物は何でも腹に入って、外へ出てしまいます。

18 ところが、悪いことばは悪い心から出てくるので、人を汚すのです。

19 つまり、悪い考え、殺人、姦淫、不品行、盗み、うそ、また悪口などは、心から出て、

20 人を汚すのです。しかし、食事の前に手を洗うという規則を破ったからといって汚れるわけではありません。」

21 イエスはその地方を去り、ツロとシドンに向かわれました。

数々の奇跡

22 この地方に住んでいるカナン人の女がイエスのところに来て、必死に願いました。「主よ。ダビデ王の子よ!お願いです。どうか、私をあわれと思ってお助けください。娘が悪霊に取りつかれて、ひどく苦しんでいるのです。」

23 しかし、イエスは堅く口を閉ざして、ひとこともお答えになりません。とうとう弟子たちが、「あの女に早く帰るように言ってください。うるさくてしかたがありません」と頼みました。

24 それでイエスは、「わたしが遣わされたのは、外国人を助けるためではありません。ユダヤ人を助けるためです」と説明なさいました。

25 それでも女は、イエスの前にひれ伏し、「主よ。どうかお助けください」と願い続けました。

26 イエスは、「子どもたちのパンを取り上げて、犬に投げてやるのはよくないことです」と言われました。

27 しかし、女はあきらめませんでした。「おっしゃるとおりです。でも、食卓の下にいる小犬でも、落ちたパンくずぐらいは食べさせてもらえます。」

28 そのことばにイエスは感心し、「あなたの信仰は見上げたものです。いいでしょう。願いをかなえてあげましょう」と言われました。その時から、彼女の娘は治りました。

29 さて、再びガリラヤ湖に移ります。イエスは丘に登り、腰をおろしておられました。

30 そこへ、大ぜいの人が、足の不自由な者、盲人、体の不自由な者、口のきけない者をはじめ、たくさんの病人を連れて来たので、イエスはその人たちをいやされました。

31 なんという驚くべき光景でしょう。口のきけなかった者が興奮して話しだし、歩けなかった者が歩きだし、盲人が見えるようになったのです。人々は驚き、心からイスラエルの神をほめたたえました。

32 イエスは、弟子たちを呼び寄せて言われました。「この人たちがかわいそうです。もう三日もわたしといっしょにいて、食べ物はとっくになくなっています。このまま帰らせたら、きっと途中で倒れてしまうでしょう。」

33 「でも、こんな寂しい所で、これほどたくさんの人です……。それだけの食べ物を、いったいどこで手に入れるのですか。」

34 「今、手もとにどれぐらい食べ物がありますか」「パンが七つと、小さい魚がほんの少しだけです。」

35 それを聞くと、イエスはみんなを地べたに座らせました。

36 そして、七つのパンと魚を取り、神に感謝をささげてからそれを裂き、弟子たちに渡して、一人一人に配らせました。

37-38 女性や子どもを除いても、四千人もの群衆でしたが、だれもが満腹するほど食べました。あとでパンくずを拾い集めると、なんと七つのかごがいっぱいになりました。

39 そこで、イエスは人々を家に帰し、舟に乗ってマガダン地方へ向かわれました。

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マタイの福音書

マタイの福音書 16

まちがった教え

1 ある日、パリサイ人やサドカイ人たちがイエスのところに来て、天からのすばらしい奇跡を見せてほしいと頼みました。メシヤだと自称するイエスの主張がほんとうかどうかを、試してやろうと思ったのです。

2-3 イエスの返事はこうでした。「あなたがたは、天気を予測するのが得意です。夕焼けになると、『明日は晴れだ』と言うし、朝焼けを見ると、『今日は荒れ模様だ』と言います。そんなに上手に空模様を見分けるのに、これほどはっきりした時代の兆候が読み取れないのですか。

4 今の邪悪な不信の時代は、不思議なしるしが天に現れることばかり求めています。しかし、ヨナの身に起こった奇跡以外に神からの証拠は与えられません。」そしてイエスは、彼らを残したまま去って行かれました。

5 一行は湖の向こう岸へ渡りましたが、食べ物を持って来るのを忘れていました。

6 イエスは、「パリサイ人とサドカイ人のパン種に気をつけなさい」と忠告しましたが、

7 弟子たちはパンを忘れてきたので、自分たちをしかっておられるのだろうと勘違いしました。

8 それに気づいたイエスは言われました。「ああ、信仰の薄い人たちよ。なぜそんなに、食べ物を持って来なかったことを気に病むのですか。

9 まだわからないのですか。五つのパンを五千人に食べさせた時、幾かごものパンが余ったではありませんか。

10 また四千人に食べさせた時も、たくさんのパンが余りました。

11 パンのことなど問題ではないことが、どうしてわからないのですか。もう一度、はっきり言いましょう。わたしは、『パリサイ人とサドカイ人のパン種に気をつけなさい』と言ったのです。」

12 それでやっと弟子たちにも、パン種とは、パリサイ人やサドカイ人のまちがった教えのことだとわかったのです。

わたしはだれか

13 ピリポ・カイザリヤに行った時、イエスは弟子たちに、「みんなは、わたしのことをだれだと言っていますか」とお尋ねになりました。

14 弟子たちは答えました。「バプテスマのヨハネだと言う人もいますし、エリヤだと言う人もいます。また、エレミヤだとか、ほかの預言者の一人だとか言う人もいます。」

15 「では、あなたがたは、どうなのですか。」

16 シモン・ペテロが答えました。「あなたこそキリスト(ギリシャ語で、救い主)です。生ける神の子です。」

17 「ヨナの息子シモンよ。神があなたを祝福してくださったのです。それを明らかにしたのは、人ではなく、天におられるわたしの父です。

18 あなたはペテロ(岩)です。わたしはこの大きな岩の上にわたしの教会を建てます。地獄のどんな恐ろしい力も、わたしの教会に打ち勝つことはできません。

19 あなたに天国のかぎをあげましょう。あなたが地上でかぎをかけるなら、天でも閉じられ、あなたが地上でかぎを開けるなら、天でも開かれるのです。」

20 このあとイエスは、ご自分がキリストであることをほかの人に話してはいけない、と弟子たちに注意なさいました。

21 その時からイエスは、ご自分がエルサレムに行くことと、そこでご自分の身に起こること、すなわち、ユダヤ人の指導者たちの手でひどく苦しめられ、殺され、そして三日目に復活することを、はっきり弟子たちに話し始められました。

22 ところが、ペテロはイエスをわきへ呼んでいさめました。「先生。とんでもないことです。あなたのようなお方に、そんなことが起こってなるものですか!」

23 しかし、イエスはふり向いて、「サタンよ。下がれ。そのようなことを言って、わたしをわなにかける気ですか。あなたは人間的な見方をして、神の見方を忘れている」とおしかりになりました。

24 それから、弟子たちに言われました。「だれでもわたしの弟子になりたければ、自分を捨て、自分の十字架を負って、わたしについて来なさい。

25 いのちを大事にする者は、いのちを失うことになります。しかし、わたしのためにいのちを投げ出す者は、それをもう一度自分のものにできるのです。

26 たとえ、全世界を自分のものにしても、永遠のいのちを失ってしまったら、何の得になるでしょう。いったい、永遠のいのちほど価値のあるものが、ほかにあるでしょうか。

27 メシヤのわたしは、やがて、父の栄光を帯びて、天使たちと共にやって来ます。そして、一人一人を、その行いによってさばくのです。

28 今ここにいる者の中には、生きているうちに、わたしが御国の力を帯びて来るのを、その目で見る者がいます。」

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マタイの福音書

マタイの福音書 17

栄光に輝くイエス

1 六日後、イエスは、ペテロとヤコブと、彼の兄弟ヨハネを連れて、人里離れた高い山の頂上に登られました。

2 すると、三人の目の前で、たちまちイエスの姿が変わりました。顔は太陽のように輝き、着物はまばゆいほど白くなりました。

3 そこへ突然、モーセとエリヤが現れて、イエスと親しく話し始めたではありませんか。

4 これを見て、ペテロは思わず口走りました。「ああ、先生。なんとありがたいことでしょう。こんなすばらしいところに居合わせるなんて! もし、よろしければ、幕屋(神がイスラエルの民と会う聖所)を三つお建てしましょう。あなたと、モーセとエリヤのために。」

5 ところが、そう言っているうちにも、光り輝く雲が現れて、三人をすっぽり包んでしまいました。そして雲の中から、「これこそ、わたしの愛する子。わたしはこれを心から喜んでいる。彼の言うことを聞きなさい」という声がしました。

6 この声を聞いた弟子たちは、恐ろしさのあまりわなわなと震え、ひれ伏しました。

7 イエスは近寄り、彼らにさわって言われました。「さあ、起きなさい。こわがることはありません。」

8 それで、彼らがようやく顔を上げると、そこにはもう、イエスのほかにはだれもいませんでした。

9 山を降りながら、イエスは、いま見たことを、ご自分が復活するまではだれにも話してはいけないとお命じになりました。

10 そこで、弟子たちが尋ねました。「どうしてユダヤ人の指導者たちは、メシヤが来る前に、エリヤが必ず戻って来ると主張しているのでしょうか。」

11 「彼らの言うとおりです。まずエリヤが来て、すべての準備をするのです。

12 実際、エリヤはもう来たのです。しかし人々は彼を認めず、ひどい目に会わせました。そればかりか、メシヤのわたしもまた、彼らの手で苦しめられるのです。」

13 その時、弟子たちは、イエスがバプテスマのヨハネのことを言っておられるのだと気づきました。

山を降りたイエス

14 彼らがふもとに着くと、大ぜいの群衆が待ちかまえていました。その時、一人の男が駆け寄り、イエスの前にひざまずいて叫びました。

15 「先生。息子をあわれと思ってお助けください。ひどいてんかん持ちで、火の中でも水の中でも、おかまいなしに倒れるのです。

16 それで、お弟子さんたちのところに連れて来てお願いしたのですが、だめでした。」

17 「ああ、なんと不信仰な人たちでしょう。いったいいつまで、あなたがたのことを我慢しなければならないのですか。さあ、その子をここに連れて来なさい。」

18 イエスがこう言って、その子に取りついている悪霊をおしかりになると、悪霊は出て行き、子どもはその場ですっかり治ってしまいました。

19 あとで弟子たちは、そっとイエスに尋ねました。「どうして、私たちには悪霊が追い出せなかったのでしょう。」

20 イエスはお答えになりました。「信仰が足りないからです。もしあなたがたに小さなからし種ほどの信仰があったら、この山に向かって『動け』と言えば、そのとおり山は動くのです。何でもできないことはありません。

21 ただし、こういった悪霊は、祈りと断食によらなければ、とても追い出せないのです。」

22-23 まだガリラヤにいたある日のこと、イエスはこんなことをお話しになりました。「わたしは裏切られ、人々の手に引き渡され、殺されますが、三日目には必ず復活します。」これを聞いて、弟子たちの心は悲しみと恐れとで、いっぱいになりました。

24 カペナウムに着いた時、神殿に納める税金を取り立てる役人がペテロのところへ来て、「あなたがたの先生は税金を納めないのか」と尋ねました。

25 「もちろん、納めますとも。」こう答えると、ペテロは急いで家に入り、このことを話そうとしました。ところがまだ話を切り出さないうちに、イエスのほうからお尋ねになりました。「ペテロ。あなたはどう思いますか。世の王たちは、だれから税を取り立てるでしょうか。自分の子どもたちからですか、それとも、ほかの人たちからですか。」

26 「ほかの人たちからです」とペテロは答えました。「では、王の子どもたちは税金を納める必要はないのです。

27 しかし、役人たちを怒らせたくはありません。今から湖へ行って、つり糸をたらしてみなさい。最初につれた魚の口から、わたしたち二人分の税金を払うだけのお金が見つかるはずです。それで払いなさい。」

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マタイの福音書

マタイの福音書 18

小さい子どものように

1 そこへ弟子たちがやって来て、「私たちのうち、だれが天国で一番偉いのでしょうか」と尋ねました。

2 するとイエスは、近くにいた小さい子どもを呼び寄せ、みんなの真ん中に立たせてから、話しだされました。

3 「よく聞きなさい。悔い改めて神に立ち返り、この小さい子どもたちのようにならなければ、決して天国には入れません。

4 ですから、小さい子どものように自分を低くする者が、天国では一番偉いのです。

5 また、だれでもこの小さい者たちを、わたしのために受け入れる者は、わたしを受け入れるのです。

6 反対に、わたしに頼りきっているこの子どもたちの信仰を失わせるような者は、首に大きな石をくくりつけられて海に投げ込まれたほうが、よっぽどましです。

7 悪がはびこるこの世はいまわしいものです。誘惑されるのは避けられないとしても、誘惑のもとになる人はいまわしいものです。

8 罪を犯させるものは、手だろうが足だろうが、切り取ってしまいなさい。五体満足で地獄へ行くより、片手片足になっても天国に入るほうが、よっぽどましです。

9 また、目が罪を犯させるなら、そんなものはえぐり出しなさい。両眼そろって地獄へ行くより、片目でも天国に入るほうが、よっぽどましだからです。

10 この小さい子どもたちの一人でも、見下げたりしないように気をつけなさい。言っておきますが、天国では、子どもたちを守る天使が、いつでもわたしの父のそば近くにいるのです。

11 メシヤのわたしは、神から離れ、迷っている者を救うために来たのです。

12 ある人が百匹の羊を持っていたとします。そのうちの一匹が迷い出ていなくなったら、その人はどうするでしょう。ほかの九十九匹はその場に残したまま、いなくなった一匹を捜しに、山へ出かけるでしょう。

13 そして、もし見つけようものなら、何ともなかったほかの九十九匹以上に、この一匹のために大喜びします。

14 同じように、わたしの父も、この小さい者たちの一人でも滅びないようにと願っておられるのです。

人を赦す者

15 信仰の仲間があなたがたに罪を犯した時は、一人で行って、その誤りを指摘してあげなさい。もし、相手が忠告を聞いて罪を認めれば、あなたはその人を取り戻したことになるのです。

16 しかし、もしあなたの言うことに耳を貸そうとしないなら、一人か二人の証人を立てて、もう一度相手のところへ行きなさい。あなたの言い分をすべて証明してもらうためです。

17 それでも忠告を聞き入れないなら、その問題を教会に持ち出しなさい。そして、教会があなたを支持してもなお、相手がそれを受け入れないなら、教会はその人と交わるのをやめなさい。

18 言っておきますが、あなたがたが地上で赦したり、禁じたりすることは、天でも同じようになされるのです。

19 このことも言っておきましょう。もし、あなたがたのうち二人の者が、何であれ、この地上で心を一つにして祈り求めるなら、天におられるわたしの父は、その願い事をかなえてくださいます。

20 たとえ二人でも三人でも、わたしを信じる者が集まるなら、わたしはその人たちの真ん中にいるからです。」

21 その時、ペテロがイエスのそばに来て尋ねました。「先生。人が私に罪を犯した場合、何回まで赦してやればいいでしょうか。七回でしょうか。」

22 イエスはお答えになりました。「いや、七回を七十倍するまでです。

23 神の国は、帳じりをきちんと合わせようとした王にたとえることができます。

24 清算が始まってまもなく、王から一万タラント(一タラントは六千デナリに相当。一デナリは当時の一日分の賃金)というばく大な借金をしていた男が引き立てられて来ました。

25 その男は借金を返すことができなかったので、王は、自分や家族、持ち物全部を売り払ってでも返済するように命じました。

26 ところが、男は王の前にひれ伏し、顔を地面にすりつけて、『ああ、王様。お願いです。もう少しだけお待ちください。きっと全額お返しいたしますから』と、必死に願いました。

27 これを見て王はかわいそうになり、借金を全額免除し、釈放してやりました。

28 ところが、赦してもらった男は王のところから帰ると、百デナリ貸してある人の家に出かけました。そして、彼の首根っこをつかまえ、『たった今、借金を返せ』と迫ったのです。

29 相手は、男の前にひれ伏して、『今はかんべんしてください。もう少ししたら、きっとお返ししますから』と、拝まんばかりに頼みました。

30 しかし、男は少しも待ってやろうとはせず、その人を捕らえると、借金を全額返すまで牢にたたき込んでしまいました。

31 このことを知った友人たちが王のところへ行き、事の成り行きを話しました。

32 怒った王は、借金を免除してやった男を呼びつけて、言いました。『この人でなしめ! おまえがあんなに頼んだからこそ、あれほど多額の借金も全部免除してやったのだ。

33 自分があわれんでもらったように、ほかの人をあわれんでやるべきではなかったのか!』

34 そして、借金を全額返済し終えるまで、男を牢に放り込んでおきました。

35 あなたがたも、心から人を赦さないなら、天の父も、あなたがたに同じようになさるのです。」

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マタイの福音書

マタイの福音書 19

1 これらのことを話し終えると、イエスはガリラヤを去り、ヨルダン川を渡って、ユダヤ地方に向かわれました。

2 すると、大ぜいの人があとを追って来たので、そこで病人を治されました。

結婚と離婚

3 イエスを試み、陥れようと、何人かのパリサイ人がやって来ました。そして、「あなたは離婚をお認めになりますか」と尋ねました。

4-6 「聖書を読んだことがないのですか。聖書には、神が初めに男と女を造られたので、人は両親から離れて永遠に妻と結ばれ、二人の者は一体となる、と書いてあるではないですか。彼らはもう二人ではなく、一人なのです。ですから、神が結び合わせたものを、だれも離すことはできません。」

7 「でも、モーセは、離縁状を渡しさえすれば、妻と別れてもよいと言いました。」なおも食い下がる彼らに、

8 イエスは答えて言われました。「モーセがそう言ったのは、あなたがたの心が強情なのを知っていたからです。しかしそれは、神がもともと望んでおられたことではありません。

9 言っておきますが、不倫以外の理由で妻を離縁し、ほかの女性と結婚する者は、姦淫の罪を犯すのです。」

10 「それなら、結婚しないほうがましです。」弟子たちがイエスに言いました。

11 「そうは言っても、それは、だれにでもできることではありません。ただ、それを許された者だけができるのです。

12 結婚しないように生まれついた人もいますし、人の手で結婚できないようにされた人もいます。またある人は、天国のために、自分から進んで独身を通します。わたしの言ったことを受け入れることのできる人は、受け入れなさい。」

13 その時、イエスに手を置いて祈っていただこうと、人々が小さい子どもたちを連れて来ました。ところが弟子たちは、「先生のおじゃまだ」としかりました。

14 しかし、イエスはそれをとどめて、「子どもたちを自由に来させなさい。止めてはいけません。天国は、この子たちのような者の国なのですから」と言われました。

15 そして、子どもたちの頭に手を置いて祝福し、そこを去って行かれました。

天国に入るには?

16 一人の青年がイエスのところに来て、こう質問しました。「先生。永遠のいのちがほしいのですが、どんな良いことをしたら、もらえるでしょうか。」

17 「良いことについて、なぜわたしに尋ねるのですか。ほんとうに良い方は、ただ神おひとりなのです。しかし、質問に答えてあげましょう。天国に入るには、神の戒め(おきて)を守ればいいのです。」

18 「どの戒めでしょうか。」「殺してはならない、姦淫してはならない、盗んではならない、うそをついてはならない、

19 あなたの父や母を敬いなさい、隣人を自分と同じように愛しなさい、という戒めです。」

20 「それなら、全部守っています。ほかに何が欠けているでしょうか?」

21 「完全な者になりたければ、家に帰って、財産を全部売り払い、そのお金を貧しい人たちに分けてあげなさい。天に宝をたくわえるのです。それから、わたしについて来なさい。」

22 青年はこれを聞くと、悲しそうに帰って行きました。たいへんな金持ちだったからです。

23 イエスは、弟子たちに言われました。「金持ちが天国に入るのは、なんとむずかしいことでしょう。

24 金持ちが天国に入るよりは、らくだが針の穴を通るほうがずっとやさしいのです。」

25 このことばに、弟子たちはすっかり面食らってしまいました。「それなら、この世の中で、救われる人などいるでしょうか。」

26 イエスは、弟子たちをじっと見つめて言われました。「人間にはできません。だが、神には何でもできます。」

27 その時、ペテロが質問しました。「私たちは何もかも捨てて、お従いしてきました。それで、いったい何がいただけるのでしょうか。」

28 イエスはお答えになりました。「メシヤ(救い主)のわたしが、やがて、御国の栄光の王座につく時、あなたがたも十二の王座について、イスラエルの十二の部族をさばくことになるのです。

29 わたしに従うために、家、兄弟、姉妹、父、母、妻、子、あるいは財産を捨てた者はだれでも、代わりにその百倍もの報いを受け、また永遠のいのちをもいただくのです。

30 ただ、今は先頭を行くように見える者が、その時には最後になり、今は最後にいるように見えても、その時には先頭になる者が多くいるのです。

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