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ルカの福音書

ルカの福音書 20

1 ある日、イエスが宮の中で人々を教え、福音を宣べ伝えておられると、祭司長や他の宗教的指導者たちが、イエスと対決しようとやって来ました。

2 彼らは、何の権威で商人たちを宮から追い出したのか、とイエスに詰め寄りました。

3 イエスはお答えになりました。「答える前に、まず、わたしから質問します。

4 バプテスマのヨハネは神に遣わされて来たのですか。それとも、ただ自分の考えを主張しただけですか。」

5 彼らは集まって、ひそひそ相談しました。「ヨハネの語ったことが神からの教えだと答えたら、なぜ信じなかったのかと言われるだろう。

6 かといって、神からでないと答えるわけにもいくまい。そんなことをしたら、今度は群衆が襲いかかって来るだろう。みな、ヨハネを預言者だと信じ込んでいるから。」

7 そこで彼らは、「わかりません」と答えました。

8 イエスは、「そうですか。では、わたしも答えません」とおっしゃいました。

9 それから、イエスはまた人々のほうを向き、次のようなたとえを話されました。「ある人がぶどう園を造り、それを数人の農夫に貸して外国へ行き、長いことそこに住んでいました。

10 やがて、収穫の季節になりました。主人は代理の者をやり、自分の分を受け取ろうとしました。ところが、農夫たちはどうしたでしょう。代理人を袋だたきにし、手ぶらで追い返したのです。

11 また別の代理人を送りましたが、彼もまた袋だたきにされ、さんざん侮辱されたあげく、手ぶらで追い返されました。

12 三人目の代理人も同じで、傷を負わされ、やっとの思いで逃げ帰りました。

13 考えあぐねた主人は、一人つぶやきました。『いったい、どうしたものか。そうだ、かわいい息子をやろう。息子なら、きっと農夫たちも一目おくに違いない。』

14 ところが、当の農夫たちは、主人の息子が来るのを見て、『おい、絶好のチャンスだぞ。あれは跡取り息子だ。さあ、あいつを殺そう。そうすれば、ぶどう園はおれたちのものだ』とささやき合いました。

15 そのことばどおり、農夫たちは息子をぶどう園の外に引きずり出し、殺してしまいました。さて、主人はどうするでしょう。

16 今度は自分で乗り込み、悪い農夫たちを皆殺しにし、ぶどう園はほかの人たちに貸すに決まっています。」この話を聞いていた人たちは、「そんな恐ろしいことがあるなんて、とても考えられません」と答えました。

17 しかしイエスは、人々の顔を見回しながら、おっしゃいました。「では、聖書に、

『建築士たちの捨てた石が、

最も重要な土台石となった』(詩篇118・22)

と書いてあるのは、どういう意味ですか。」

18 さらにことばを続け、「この石につまずく者はみな、打ち砕かれます。反対に、この石が落ちてくれば、だれもかれも粉みじんになります」と言われました。

19 祭司長や宗教的指導者たちは、この話を聞いて、その悪い農夫が自分たちを指していることに気づき、すぐにもイエスを捕らえたいと思いました。しかし群衆の暴動がこわくて、どうにもできません。

20 そこで、ローマ総督に逮捕の理由として報告できるようなことを、何とかしてイエスに言わせようとしました。こうして機会をねらっていた彼らは、良い人物を装った回し者をイエスのもとに送り、

21 こう質問させました。「先生。私どもは、あなたがどんなに正しい教師かよく承知しております。あなたはいつも真理を語り、分け隔てなく、神の道を教えておられます。

22 それで、ぜひお教えいただきたいのですが、ローマ政府に税金を納めるのは正しいことでしょうか。それとも正しくないことでしょうか。」

23 彼らの計略は見えすいていました。イエスは言われました。

24 「銀貨を見せなさい。ここに刻まれているのは、だれの肖像、だれの名前ですか。」「カイザル(ローマ皇帝)のです。」

25 「それなら、皇帝のものは、皇帝に返せばいいでしょう。しかし、神のものはみな、神に返さなければなりません。」

26 公衆の面前でイエスのことばじりをとらえようとするたくらみは、みごと失敗に終わりました。彼らはイエスの答えに恐れ入り、返すことばもありませんでした。

27 次にやって来たのは、人は死んでしまえばそれまでで、復活などありえないと主張していたサドカイ人(神殿を支配していた祭司階級。ユダヤ教の主流派)たちでした。

28 「モーセの律法には、もしある人が子どものないまま死んだら、その弟は残された未亡人と結婚しなければならず、二人の間にできた子どもは、法律的には死んだ者の子として家を継ぐ、と書いてあります。

29 ところで、七人兄弟がいたとします。長男は結婚しましたが、子どもがないまま死んだので、

30 次男がその未亡人と結婚しました。ところが、彼も子どもができずに死にました。

31 こうして、兄弟が次々にこの未亡人と結婚したのですが、七人とも子どもがないまま死にました。

32 最後に、未亡人も死にました。

33 そこでお尋ねしたいのですが、この女は復活の時、いったいだれの妻になるのでしょう。兄弟みなが彼女と結婚したのですが。」

34-35 イエスは言われました。「結婚とは、この地上に住む人たちのものです。死から復活したのちに、天国へ行く資格があると認められた人たちは、結婚などしません。

36 二度と死ぬこともありません。この点では、天使と変わりなく、また、死人の中から新しいいのちへと復活したのですから、神の子どもなのです。

37-38 しかし、あなたがたがほんとうに聞きたいのは、復活があるかないかということでしょう。モーセ自身は何と書き残していますか。燃えさかる柴の中に現れた神とお会いした時、モーセは神を、『アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神』(出エジプト3・6)と呼びました。主を彼らの神と呼んでいる以上、彼らは生きているはずです。神は死んだ者の神ではありません。神に対して、みなが生きているのです。」

39 その場にいた律法の専門家たちは、「先生。非の打ちどころのないお答えです」と言い、

40 それ以上、尋ねようとはしませんでした。

41 すると今度は、イエスが質問なさいました。「あなたがたはどうして、キリストをダビデの子だと言うのですか。

42-43 ダビデ自身が、聖書の詩篇の中でこう歌っています。

『神が私の主に言われた。

「わたしがあなたの敵を

あなたの足の下に置くまで、

わたしの右に座っていなさい。」』(詩篇110・1)

44 キリストはダビデの子であると同時に、ダビデの主なのです。」

45 人々がイエスのことばに耳を傾けていると、イエスは弟子たちに言われました。

46 「ユダヤ教の学者たちを警戒しなさい。彼らはぜいたくな着物を着て歩き回り、通りで人々からていねいなあいさつを受けるのが何より好きです。また会堂や宴会で、上座に着くのも大好きです。

47 うわべは、さも信心深そうに、長々と祈りますが、実際は、未亡人をだまして財産をかすめ奪おうとしています。こういう人々には、神から最もきびしい罰が下るのです。」

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ルカの福音書

ルカの福音書 21

1 さて、宮の中でのことです。イエスは、金持ちたちが次々と献金箱に献金を投げ込む様子を見ておられました。

2 そこへ貧しい身なりの末亡人がやって来て、レプタ銅貨(最小単位の銅貨)を二個そっと投げ入れました。

3 それを見たイエスは、「この女は、だれよりも多くささげたのです。

4 ほかの人たちはあり余る中からほんのわずかだけささげたのに、この女は、乏しい中から持っている全部をささげたからです」と言われました。

世の終わり

5 弟子たちの何人かが、宮のすばらしい石細工や壁の装飾に目を奪われ、感心していました。

6 するとイエスは、彼らに言われました。「今は賞賛の的になっているこれらのものが、一つも崩れずにほかの石の上に残らないほど完全に破壊され、瓦礫の山となる日がもうすぐ来ます。」

7 驚いた弟子たちが質問しました。「いつのことですか! その前に、何か前兆があるのでしょうか。」

8 イエスはお答えになりました。「だれにもだまされないようにしなさい。『私がキリストだ。今こそ時が来た』と言う者が大ぜい現れるからです。そういう人々を信じてはいけません。

9 また、戦争や暴動が始まったということを聞いても、あわてふためかないようにしなさい。戦争は必ず起こりますが、すぐに終わりが来るわけではありません。

10 民族は民族に、国は国に敵対して立ち上がり、

11 すさまじい地震が起こり、多くの国がききんに見舞われ、伝染病が流行し、恐ろしい異変が天に現れます。

12 しかし、これらのことが起こる前に、まず大きな迫害の時代が来ます。あなたがたは、わたしを信じているばかりに、会堂や牢獄、王や総督の前に引き立てて行かれます。

13 その結果、かえってメシヤ(救い主)のことが広く知られ、あがめられるようになるのです。

14 だから、人々の訴えにどう釈明しようかと心配してはいけません。

15 答えることは、わたしが教えてあげます。どんな反対者も反論できないことばと知恵です。

16 最も身近な両親、兄弟、親類、友人までもがあなたがたを裏切るようになるでしょう。中には殺される者もあります。

17 わたしの弟子だというので、みながあなたがたを憎むようになるでしょう。

18 しかし、あなたがたの髪の毛一本さえ失われることはありません。

19 忍耐して忍び通せば、いのちを得るのです。

20 しかし、エルサレムが軍隊に包囲されるのを見たら、滅びの時が来たと思いなさい。

21 ユダヤにいる人たちは山へ逃げなさい。エルサレムにいる人たちは市外へ逃げなさい。地方の人たちは都に逃げ込んではいけません。

22 神のさばきの日だからです。預言者が書いた聖書のことばどおりのことが起こるのです。

23 その日、妊娠している女と乳飲み子をかかえた母親はかわいそうです。この国に大きな苦難がふりかかり、神の怒りが下るからです。

24 人々は敵の手にかかって、むごい殺され方をするでしょう。また、捕虜となって多くの国々に連れ去られたり、追放されたりする人もいます。エルサレムは占領され、神の恵みの時が来て、外国人の勝利の期間が終わるまで、彼らに踏みにじられるのです。

25 それから、天に不思議な現象が起こります。太陽と月と星には不吉な前兆が現れ、地上では荒れ狂う海と高潮のために、諸国民はおじ惑います。

26 人々は、何かとてつもなく恐ろしいことが起こるのではないかという不安にかられ、意気阻喪します。不動と信じられていた天が揺れ動くのですから、むりもありません。

27 その時、地上にいる人々は、メシヤのわたしが雲に乗り、力と輝かしい栄光を帯びてやって来るのを見るでしょう。

28 いま言ったようなことが起こり始めたら、しっかりと立ち、天を見上げなさい。救いの時が近づいているのです。」

29 このあとイエスは、人々にたとえで話されました。

「いちじくの木やほかの木を注意して見ていなさい。

30 葉が出てくれば、ああ、もうすぐ夏だなと思うでしょう。

31 同じように、こうした現象が起こるのを見たら、神の国はもうそこまで来ていると考えなさい。

32 はっきり言いましょう。これらのことが全部起こってから、世の終わりが来るのです。

33 天と地とは消えてなくなります。けれどもわたしのことばは、永遠に真実なものとして残るのです。

34-35 気をつけなさい。わたしは不意に来ます。その時になって、あわてふためかないようにしなさい。遊び騒いだり、酒におぼれたり、この世の心配事のために駆けずり回ったりしている姿を見られないようにしなさい。

36 少しも油断してはいけません。こんな恐ろしい目に会わずにわたしの前に出られるように、熱心に祈っていなさい。」

37-38 イエスは毎日、宮で教えておられました。人々は朝早くから、話を聞こうと集まって来ました。そして夜になると、イエスはオリーブ山に戻って行かれました。

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ルカの福音書

ルカの福音書 22

イエスを殺す陰謀

1 パン種を入れないパンを食べる、ユダヤ人の過越の祭りが近づいていました。

2 祭司長や他の宗教的指導者たちは、何とかしてイエスを殺そうと、あれこれ陰謀を巡らしていました。群衆の暴動を引き起こさずにイエスを葬り去る方法がないものかと、やっきになっていたのです。

3 さて、十二人の弟子の一人イスカリオテのユダの心に、サタンが忍び込みました。

4 ユダは祭司長や神殿の警備隊長たちのところへ出かけ、イエスを彼らに売り渡すのに、一番よい方法を相談しました。

5 彼らは大喜びし、ユダに報酬を与える約束をしました。

6 それでユダは、群衆が回りにいない時に、ひそかにイエスを逮捕させようと、チャンスをうかがい始めました。

7 さて、過越の小羊を種を入れないパンといっしょに食べる、その日になりました。

8 イエスはペテロとヨハネを先に遣わして、過越の食事をする場所を探させました。

9 「どこへ行けば、よろしいでしょう。」

10 「エルサレムに入るとすぐ、水がめを運んでいる男に出会うから、そのあとについて行きなさい。

11 彼が入った家の主人に、『私どもの先生が、弟子たちといっしょに過越の食事のできる客間を見せていただきたい、と申しておりますが』と言いなさい。

12 主人は、用意万端ととのった二階の広間を見せてくれるでしょう。そこで食事の用意をしなさい。さあ、急いで。」

13 二人が町に行ってみると、何もかも言われたとおりです。こうして、食事の準備はできあがりました。

最後の晩餐

14 やがて時間になり、一同は、その広間でそろって食卓に着きました。

15 まず口火を切ったのはイエスです。「苦しみの始まる前に、ぜひ、いっしょに過越の食事をしたいと思っていました。

16 あなたがたに言いますが、神の国で過越が実現するまで、わたしは二度と過越の食事をとることはありません。」

17 それから、ぶどう酒の杯を取り、感謝の祈りをささげてから、こう言われました。「これを分け合いなさい。

18 わたしは神の国が来るまで、もうぶどう酒を飲むことはありません。」

19 次にパンを取り、神に感謝してから、それをちぎり、弟子たち一人一人に分け与えながら言われました。「これはあなたがたに与えるわたしの体です。わたしの記念として、これを食べなさい。」

20 食事のあと、杯を弟子たちに渡して言われました。「この杯は、神があなたがたを救ってくださるという新しい契約を保証するものです。つまり、あなたがたのたましいを買い戻すために、わたしが流す血を表します。

21 しかし、この食事の席にいっしょに座っている一人が、わたしを裏切ります。

22 わたしは死ななければなりません。それが神のご計画なのです。しかし裏切り者には、どんな恐ろしいのろいが待ち受けていることでしょうか。」

23 弟子たちは、そんなことをする者はいったいだれだろう、といぶかりました。

24 また彼らの間で、やがて実現する御国でだれが一番偉いかということで議論が起こりました。

25 イエスは、それを見て言われました。「この世では、王や高官たちが支配者として権力をほしいままにしています。

26 だが、あなたがたの間では違います。一番よく人に仕える人こそ、よく人を治める人になるのです。

27 この世では、主人が食卓に着き、召使に給仕をさせます。しかし、あなたがたの間では、このわたしが給仕をするのです。

28 それにしてもあなたがたは、わたしにふりかかったさまざまの試練の時に、よくいっしょに耐え抜いてくれました。

29 だから、父がわたしに御国をお任せくださったように、わたしも、あなたがたにすばらしい特権をあげましょう。

30 御国でわたしの食卓に着き、共に食事をする特権、また王座に座って、イスラエルの十二の部族をさばく特権です。

31 シモン、シモン。いいですか。サタンがあなたがたを麦のように、ふるいにかけることを願い出ました。

32 しかし、安心しなさい。あなたの信仰がなくならないように、祈ってあげました。だから、悔い改めて立ち直った時には、仲間の者たちもしっかり立てるように、力づけてやりなさい。」

33 するとシモンは言いました。「主よ、何をおっしゃるのです。牢獄までもついてまいります。ごいっしょに死ぬ覚悟もできております。」

34 「ペテロよ。残念ですが、はっきり言います。明日の朝、鶏が鳴くまでに、あなたは三度、わたしを知らないと言うでしょう。」

35 それから、弟子たちにお尋ねになりました。「救いの福音を伝えようと、わたしがあなたがたを派遣した時、わずかのお金も、旅行袋も、着替えも持たせませんでした。その時、旅先で何か不自由しましたか。」「いいえ、何もありませんでした。」

36 「しかし今は、手持ちの物があれば、旅行袋も財布も持って行きなさい。剣がなかったら、着物を売り払ってでも手に入れなさい。

37 『彼は罪人の一人に数えられた』(イザヤ53・12)という預言どおりのことが、わたしに起こるのです。わたしについて言われたことは、必ずそのとおりになるのです。」

38 「先生。剣なら二振りありますが。」「それで十分です。」

逮捕されたイエス

39 それから、イエスは弟子たちと連れ立って部屋を出て、いつものようにオリーブ山に行かれました。

40 「誘惑に負けないように、神に祈りなさい。」

41-42 こう言い残すと、イエスは、石を投げれば届くあたりまで歩いて行き、ひざまずいて祈り始められました。「父よ。許していただけるなら、どうぞこの恐ろしい杯を取り除いてください。ですが、わたしの思いどおりにではなく、あなたのお心のままになさってください。」

43 この時、天から天使が現れ、イエスを力づけました。

44 イエスは苦しみもだえながら、いよいよ力を込めて祈られました。大粒の汗が、まるで血のしずくのようにしたたり落ちました。

45 ようやく立ち上がり、弟子たちのところに帰って来ると、弟子たちは悲しみのあまり、疲れ果てて眠り込んでいました。

46 「どうして眠っているのですか。さあ、起きなさい。誘惑に負けないように、祈っていなさい。」

47 こう言い終わらないうちに、十二弟子の一人ユダに先導されて、大ぜいの群衆がやって来ました。ユダはイエスに駆け寄り、さも親しげに頰に口づけのあいさつをしました。

48 しかしイエスは、あわれむように、「ユダよ。口づけでメシヤを裏切るのですか」と言われました。

49 事態の急変に取り乱した弟子たちは、「戦いましょう、先生。やつらをたたき切ってやりましょう!」と騒ぎだしました。

50 そして一人が、大祭司のしもべに襲いかかり、右の耳を切り落としました。

51 「やめなさい。それ以上手向かってはいけません。」イエスはこう命じてから、そのしもべの傷口にさわって、いやされました。

52 次に、群衆の先頭にいた祭司長、宮の警備隊長、ユダヤ人の指導者たちに向かって言われました。「剣やこん棒で武装をして来なければならないほど、わたしは凶悪犯なのですか。

53 わたしは毎日宮にいたのに、なぜそこで捕らえなかったのですか。しかし、今はあなたがたの時、サタンが勝ち誇る時なのです。」

イエスを否認するペテロ

54 人々はイエスを捕らえ、大祭司の家に引っ立てました。遠くから、ペテロが恐る恐るあとをつけて行きました。

55 家の中庭では、兵士たちがたき火を囲んで暖まっています。ペテロもその中にまぎれて座り込みました。

56 そのうち、一人の女中が火のあかりでペテロに気づき、「この人、イエスといっしょだったわ!」と叫びました。

57 「と、とんでもない! そんな人は知らんよ。」ペテロはあわてて打ち消しました。

58 しばらくすると、ほかの男が、「いいや、おまえはやつらの仲間に違いない」と言い寄りました。「違う、違う。絶対そんなことはない。」ペテロは否定しました。

59 それから一時間ほどたって、また別の男が、「おまえは確かにイエスの弟子だ。その証拠に、二人ともガリラヤ人じゃないか」と言いました。

60 ペテロは夢中で否定しました。「何のことだ! さっぱりわからない。」ペテロがこう言い終わらないうちに、鶏の鳴き声が聞こえました。

61 その瞬間、イエスはふり向き、ペテロを見つめました。ペテロは、はっと我に返りました。「明日の朝、鶏が鳴くまでに、あなたは三度、わたしを知らないと言うでしょう」と言われたイエスのことばを思い出したのです。

62 ペテロは外へ走り出て、泣きくずれました。

63-64 さて、見張りの警備員たちは、イエスをからかい始めました。目隠しをしては、こぶしでなぐり、「おい、今なぐったのはだれだ。当ててみろよ、預言者様」とはやし立てるなど、

65 ありとあらゆる侮辱を加えました。

66 夜が明けそめるころ、ユダヤの最高議会が開かれました。祭司長をはじめ、国中の指導者が勢ぞろいしています。そこへイエスは引き出され、

67-68 尋問が始まりました。「ほんとうに、おまえはメシヤ(救い主)なのか。はっきり言いなさい。」イエスは言われました。「そうだと言ったところで、信じる気はないでしょう。釈明させるつもりも。

69 しかし、栄光のメシヤであるわたしが、全能の神の右の座につく時はもうすぐ来ます。」

70 議会は騒然となり、尋問の声も荒立ってきました。「なに!あくまで神の子だと言いはるつもりか!」「そのとおりです。」イエスはお答えになりました。

71 「これだけ聞けば十分だ! 彼の口から確かに聞いたのだから。」議員たちは叫びました。

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ルカの福音書

ルカの福音書 23

イエス、死刑の判決を受ける

1 衆議一決し、全議員がそろって、イエスを総督ピラトのもとに連れて行きました。

2 そして口々に訴えました。「この男は、ローマ政府に税金を納めるなとか、自分こそメシヤだの、王だのと言って、国民を惑わした不届き者です。」

3 ピラトはイエスに問いただしました。「ほんとうに、おまえはユダヤ人のメシヤで、王なのか。」「そのとおりです。」

4 ピラトは祭司長や群衆のほうを向き、「この男には何の罪もないではないか」と言いました。

5 これを聞いて人々は、必死になって叫びました。「この男はガリラヤからエルサレムまで、ユダヤ全国で民衆をたきつけ、暴動を起こそうとしたんですよ!」

6 そこでピラトは、「では、この男はガリラヤ人なのか」と尋ね、

7 人々がそうだと答えると、イエスをヘロデ王(ヘロデ・アンテパス)のもとへ連行するように命じました。ガリラヤはヘロデの支配下にあり、その時ヘロデは、ちょうどエルサレムに滞在中だったからです。

8 イエスに会えて、ヘロデは大喜びでした。前々からイエスのうわさを耳にし、一度、イエスが行う奇跡を見てみたいと思っていたのです。

9 ヘロデはイエスを前にして、次から次へと質問をあびせました。ところがイエスは口をつぐみ、何一つ答えません。

10 祭司長や他の宗教的指導者たちは、そばに立ち、激しい口調でイエスを訴えました。

11 ヘロデと部下の兵士たちは、さんざんイエスをばかにし、あざけったあげく、王が着るようなガウンを着せて、ピラトのもとに送り返しました。

12 それまで敵対していたヘロデとピラトがたいそう親しくなったのは、この日からです。

13 ピラトは、祭司長とユダヤ人の指導者たち、それに民衆もみないっしょに呼び出し、

14 判決を言い渡しました。「おまえたちは、この男を、ローマ政府への反乱を指導したかどで訴えた。それでくわしく調べてみたが、そのような容疑事実はない。この男は無罪だ。

15 ヘロデも同じ結論に達し、私のもとに送り返してきた。この男は死刑にあたるようなことは何もしていない。

16 だから、むちで打ってから釈放しようと思う。」

17-18 しかし、人々はいっせいに叫び立てました。「そいつを殺せ! バラバを釈放しろ!」

19 バラバとは、エルサレムで政府転覆を図った罪と殺人罪とで投獄されていた男でした。

20 ピラトは、なんとかしてイエスを釈放しようと、なおも群衆を説得しましたが、

21 彼らは聞き入れません。「十字架だ! 十字架につけろ!」と叫び続けるばかりです。

22 ピラトは、三度も念を押しました。「どうしてだ。この男がどんな悪事を働いたというのか。死刑を宣告する理由など見つからん。だから、むち打ってから釈放してやるつもりだ。」

23 それでも騒ぎはおさまりません。ますます大声で、イエスを十字架につけろと要求する群衆の声に、ついにピラトも負けてしまいました。

24 しかたなく彼らの要求どおりに、イエスに死刑を宣告し、

25 反逆罪と殺人罪で投獄されていたバラバを釈放しました。一方、イエスのほうは、すぐに人々の手に渡し、彼らの好きなようにさせました。

26 人々は、イエスを刑場に引いて行く途中、田舎からエルサレムに着いたばかりの、シモンというクレネ人にむりやり十字架を背負わせ、イエスのうしろから運ばせました。

27 大ぜいの民衆や、イエスのことを悲しむ女たちがあとからついて行きます。

28 イエスは女たちのほうをふり向き、とぎれとぎれに言われました。「エルサレムの娘たちよ。わたしのために泣いてはならない。自分と、自分の子どもたちのために泣きなさい。

29 なぜなら、子どもを持たない女のほうが幸いと思う日が、すぐにでも来るのです。

30 その時、人々は山に向かって、『私たちの上に倒れて、押しつぶしてくれ!』と叫び、丘に向かって、『私たちを埋めてくれ!』と頼むでしょう。

31 生木のわたしさえ、こんな目に会うとしたら、枯れ木同然の人たちには、いったい、どんなことが起こるでしょう。」

イエスの十字架の死と埋葬

32-33 イエスだけでなく、ほかに二人の犯罪人が、「どくろ」と呼ばれる場所で処刑されるために、引いて行かれました。刑場に着くと、三人は十字架につけられました。イエスが真ん中に、二人はその両側に。

34 その時、イエスはこう言われました。「父よ。彼らをお赦しください。彼らは、自分たちが何をしているのかわかっていないのです。」兵士たちがさいころを投げて、イエスの着物を分け合うのを、

35 民衆はそばに立ってながめていました。一方、ユダヤ人の指導者たちもイエスをあざけり、「他人ばかり助けて、このざまは何だ。ほんとうに神に選ばれたメシヤなら、自分を救ってみろ!」と言いました。

36 兵士たちは、酸っぱいぶどう酒を差し出しながら、

37 「ユダヤ人の王様なら、自分を救ったらどうだ!」とからかいました。

38 十字架のイエスの頭上には、「これはユダヤ人の王」と書いた罪状書きが掲げてありました。

39 イエスの横で十字架につけられていた犯罪人の一人が、「あんたはメシヤなんだってなあ。だったら、自分とおれたちを救ってもよさそうなもんだ。どうなんだ」とののしりました。

40-41 しかし、もう一人の犯罪人は、それをたしなめました。「この期に及んで、まだ神を恐れないのか! おれたちは悪事を働いたんだから、報いを受けるのはあたりまえだ。だが、このお方は悪いことは何もしなかったのだ。」

42 そして、イエスにこう頼みました。「イエス様。御国に入る時、どうぞ私を思い出してください。」

43 イエスはお答えになりました。「あなたは今日、わたしといっしょにパラダイス(天国)に入ります。」

44 その時です。正午だというのに、突然、あたりが暗くなり、午後三時までそんな状態が続きました。

45 太陽は光を失い、神殿の幕が、なんと真っ二つに裂けたのです。

46 その時イエスは、大声で、「父よ。わたしの霊を御手におゆだねします!」と叫んで、息を引き取られました。

47 刑を執行していたローマ軍の隊長は、不思議な出来事を見て、神への恐れに打たれ、「確かに、この人は正しい方だった」と言いました。

48 また、十字架刑を見に来ていた群衆も、このイエスの最期を見て、みな深い悲しみに沈んで、家へ帰って行きました。

49 一方、ガリラヤからイエスに従って来た女たちやイエスの知人たちは、遠くからじっと様子を見守っていました。

50-52 そのころ、ユダヤの最高議会の議員で、アリマタヤ出身のヨセフという人が、ピラトのもとに行き、イエスの遺体を引き取りたいと願い出ました。彼はメシヤが来るのをひたすら待ち望んでいた神を敬う人物で、他の議員たちの決議や行動には同意していませんでした。

53 ヨセフはイエスの遺体を十字架から降ろし、長い亜麻布に包んで、まだだれも葬ったことのない、岩をくり抜いた新しい墓に納めました。

54 それは、安息日の準備の日にあたる金曜日の、午後遅いころのことでした。

55 遺体が十字架から降ろされた時、ガリラヤから従って来た女たちは、ヨセフのあとについて行き、イエスが墓に納められるのを見届けました。

56 それから家に戻り、遺体に塗る香料と香油とを用意しましたが、すぐに安息日になったので、ユダヤのおきてに従って休みました。

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ルカの福音書

ルカの福音書 24

イエスは復活した

1 日曜日の明け方早く、待ちかねた女たちは香油を持って墓に急ぎました。

2 着いてみると、どうしたことでしょう。墓の入口をふさいであった大きな石が、わきへ転がしてありました。

3 中へ入って見ると、主イエスの体は影も形もありません。

4 「いったい、どうなってるのかしら。」女たちは途方にくれました。すると突然、まばゆいばかりに輝く衣をまとった人が二人、目の前に現れました。

5 女たちはもう恐ろしくて、地に伏したまま顔も上げられず、わなわな震えていました。その人たちは言いました。「なぜ生きておられる方を、墓の中で捜しているのです。

6-7 あの方はここにはおられません。復活なさったのです。まだガリラヤにおられたころ、何と言われましたか。メシヤは悪者たちの手に売り渡され、十字架につけられ、それから三日目に復活する、と言われたではありませんか。」

8 そう言われて女たちは、はっと思いあたりました。

9 そして、すぐさまエルサレムに取って返し、十一人の弟子やほかの人たちに一部始終を話しました。

10 そのとき墓へ行った女たちは、マグダラのマリヤとヨハンナ、ヤコブの母マリヤ、そのほか数人でした。

11 ところが、男たちには、この話がまるで物語のようで、とても現実のこととは思えません。だれも、まともに信じようとしませんでした。

12 しかしペテロは、それでも一応は確認しなければと墓へ行き、身をかがめて中をのぞき込みました。すると、どうでしょう。亜麻布のほかに何も見あたりません。それで、この出来事に驚いて家に戻りました。

13 この同じ日曜日のことです。二人の弟子が、エルサレムから十一キロほど離れたエマオという村へ急いでいました。

14 二人が道々話し合っていたのは、イエスの死のことでした。

15 そこへ突然、当のイエスが近づき、彼らと連れ立って歩き始めました。

16 しかし二人には、イエスだとはわかりません。神がそうなさったのです。

17 イエスが尋ねました。「何やら熱心にお話しのようですね。いったい何がそんなに問題なのですか。」すると二人は、急に顔をくもらせ、思わず足を止めました。

18 クレオパというほうの弟子があきれたように、「エルサレムにいながら、先週起こった、あの恐ろしい出来事を知らないとは。そんな人は、あなたぐらいのものでしょう」と言いました。

19 「どんなことでしょうか?」「ナザレ出身のイエス様のことをご存じないのですか。この方は、信じられないような奇跡を幾つもなさった預言者で、すばらしい教師でもあったのです。神からも人からも重んじられていたのですが、

20 祭司長やほかの宗教的指導者たちは、理不尽にもこの方をつかまえて、ローマ政府に引き渡し、十字架につけてしまったのです。

21-23 私たちは、この方こそ栄光に輝くメシヤで、イスラエルを救うために来られたに違いないと考えていたのですが。ところが、話はそれで終わらないのです。弟子仲間の女たちが、なんとも奇妙なことを言いだしたのです。処刑があった日から、今日で三日目になりますが、今朝がた早く、その女たちが墓へ行ったところ、イエス様のお体は影も形もなかったというではありませんか。しかもその場に天使が現れて、イエス様は生きておられると語ったとか……。

24 その話を聞いて、仲間のある者たちが墓へ駆けつけて確認したのですが、彼らも口をそろえて、墓は空っぽだったと証言しているのです。」

25 「ああ、どうしてそんなに、心が鈍いのですか。預言者たちが聖書に書いていることを信じられないのですか。

26 キリストは栄光の時を迎える前に、必ずこのような苦しみを受けるはずだと、預言者たちははっきり語ったではありませんか。」

27 それからイエスは、創世記から始めて、聖書(旧約)全体にわたって次々と預言者のことばを引用しては、救い主についての教えを説き明かされました。

28 そうこうするうち、エマオに近づきましたが、イエスはまだ旅を続ける様子です。

29 二人は、じきに暗くなるから、今晩はここでいっしょに泊まってくださいと熱心に頼みました。それでイエスもいっしょに家に入りました。

30 食卓に着くと、イエスはパンを取り、神に祝福を祈り求め、ちぎって二人に渡しました。

31 その瞬間、二人の目が開かれ、その人がイエスだとわかりました。と同時に、イエスの姿はかき消すように見えなくなりました。

32 二人はあっけにとられながらも、「そう言えば、あの方が歩きながら語りかけてくださった時も、聖書のことばを説明してくださった時も、不思議なほど私たちの心が燃えていたではないか」と語り合いました。

33-34 そして、すぐエルサレムへ取って返しました。戻ってみると、十一人の弟子たちやほかの弟子たちが迎え、「主は、ほんとうに復活された。ペテロがお会いしたのだからまちがいない」と話していました。

35 そこで二人も、エマオへ行く途中イエスと出会ったことや、パンをちぎられた時にはっきりイエスだとわかったことなどを話しました。

36 これらの話をしている時、突然イエスが現れ、みんなの真ん中に立たれたのです。

37 彼らは幽霊を見ているのだと勘違いし、ぶるぶる震えました。

38 「なぜそんなに驚くのですか。どうしてそんなに疑うのですか。

39 さあ、この手を、この足を、よくごらんなさい。わたしにまちがいないでしょう。さあ、さわってみなさい。これでも幽霊でしょうか。幽霊だったら、体などないはずです。」

40 イエスはそう言いながら、手を差し出して釘の跡を見せ、また、足の傷もお示しになりました。

41 弟子たちは、うれしいけれども、まだ半信半疑です。心を決めかねて、ぼう然としていました。それでイエスは、「何か食べ物がありますか」とお尋ねになりました。

42 焼き魚を一切れ差し上げると、

43 イエスはみんなの見ている前で召し上がりました。

44 イエスは言われました。「以前、いっしょにいた時、モーセや預言者の書いたこと、それに聖書の詩篇にあることは、必ずそのとおりになると話して聞かせたはずです。忘れてしまったのですか。」

45 イエスが弟子たちの心の目を開いてくださったので、彼らはやっと理解しました。

46 イエスは、さらに続けられました。「キリストは苦しめられ、殺され、そして三日目に復活することが、ずっと昔から記されていたのです。

47 悔い改めてわたしのもとに立ち返る人は、だれでも罪が赦されます。この救いの知らせは、エルサレムから始まり、世界中に伝えられるのです。

48 あなたがたはこのことの証人です。初めから何もかも見てきたのですから。

49 わたしは、父が約束してくださった聖霊をあなたがたに送ります。しかし、聖霊が来て、天からの力で満たしてくださるまでは、都にとどまっていなさい。」

50 それからイエスは、彼らをベタニヤまで連れて行き、手を上げて祝福してから、

51 彼らから離れて行かれました。

52 彼らは喜びに胸を躍らせて、エルサレムに戻り、

53 いつも宮にいて神を賛美していました。

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