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列王記Ⅱ

列王記Ⅱ の紹介

の紹介

本書は、二つの国家的悲劇を含む、およそ二百五十年間にわたる出来事を記しています。紀元前七二二年に、北王国イスラエルはアッシリヤに滅ぼされ、同五八七年に南王国ユダがバビロンに滅ぼされました。本書は、諸王の統治を、霊的意義に注目しながら記述しています。善王と悪王、戦争と平和、繁栄と衰退のいずれの時代でも、神は変わらずに生きて働き、預言者を遣わし、ご自分の考えを伝え、さばきが来ることを警告しておられます。

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列王記Ⅱ

列王記Ⅱ 1

イスラエルの王アハズヤと預言者エリヤ

1 アハブ王が死ぬと、モアブの国が独立を宣言し、イスラエルには貢ぎ物を納めないと言いだしました。

2 さて、イスラエルの新しい王アハズヤ(アハブの子)は、サマリヤにある宮殿の二階のベランダから落ちて、重傷を負いました。そこで、エクロンにあるバアル・ゼブブの神殿に使者たちを送り、傷が治るかどうか、異教の神に伺いを立てさせようとしました。

3 ところが、主の使いが預言者エリヤにこう告げたのです。「さあ、王の使者に会い、次のように言いなさい。『イスラエルには神がいないとでもいうのか。わざわざエクロンの神バアル・ゼブブに、王が治るかどうか伺いを立てるとは。

4-5 こんな行いをしたので、王は床を離れることができないまま死ぬ。』」

エリヤのことばを聞いた使者たちは、すぐ王のもとへ引き返しました。

「なぜ、こんなに早く帰って来たのか?」と尋ねる王に、使者は答えました。

6 「ある人が来て、すぐ王のもとへ帰り、こう語るようにと告げたのです。『主は、なぜ王がエクロンの神バアル・ゼブブに伺いを立てるのか、そのわけを知ろうとしておられる。イスラエルに神がおられないとでもいうのか。こんなことをしたからには、王は床から離れることはできず、必ず死ぬ』と。」

7 アハズヤは、「だれがそんなことを。どんななりをしていたのだ、その者は」と尋ねました。

8 使者たちが、「毛衣を着て、太い皮帯を締めていました」と答えると、アハズヤは、「うむ、それで間違いない。あの預言者エリヤだ」と言いました。

9 そこで王は、五十人の兵士に隊長をつけて、エリヤの逮捕に向かわせました。彼らは丘の上に座っているエリヤを見つけて声をかけました。「神の人よ、王の命令だ。いっしょに来てもらおう。」

10 「もし私が神の人なら、天から火が下って、あなたとあなたの五十人の部下を焼き尽くすはずだ」とエリヤが言ったとたん、天からの火が彼らを直撃し、彼らを一人残らず焼き殺してしまいました。

11 王はまた、別の五十人の兵士に隊長をつけ、「神の人よ。すぐ来るようにとの王の命令だ」と彼らに言わせました。

12 エリヤは再び、彼らに答えました。「もし私が神の人なら、天から火が下って、あなたとあなたの五十人の部下を焼き尽くすはずだ。」今度も、主の火が彼らを焼き殺してしまいました。

13 それでも、王はあきらめません。もう一度、五十人の隊を送り出しました。ところが今度の隊長は、エリヤの前にひざまずいて懇願したのです。「神の人よ。どうか、私どものいのちをお助けください。

14 お情けを下さり、前の者たちのように殺さないでください。」

15 その時、御使いがエリヤに、「恐れずに、いっしょに行きなさい」と命じたので、エリヤは王に会いに行きました。

16 エリヤは、王の前でも臆せずに言いました。「なぜあなたは、ご病気のことで、エクロンの神バアル・ゼブブに伺いを立てようと使者を送ったのですか。イスラエルに神がおられないとでもいうのですか。そんなことをなさったので、あなたは床から離れられないまま死にます。」

17 主がエリヤによって予告したとおり、アハズヤは死に、弟ヨラムが王位につきました。アハズヤには世継ぎがなかったからです。それは、ヨシャパテの子でユダの王ヨラムの第二年のことでした。

18 アハズヤのその他の業績は、『イスラエル諸王の年代記』に記録されています。

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列王記Ⅱ

列王記Ⅱ 2

天に上げられるエリヤ

1-2 さて、主がエリヤをたつまきで天に上げる時がきました。エリヤはギルガルを出立する時、エリシャに、「ここに残ってくれ。主が私に、ベテルへ行けと仰せなのだ」と言いましたが、エリシャは、「主にかけて誓いますが、私は決して先生から離れません」と答えました。そこで二人は、そろってベテルへ向かいました。

3 すると、ベテルの預言者学校の若い預言者たちが迎えに出て、エリシャに言いました。「今日、主がエリヤ先生をあなたから取り上げようとしておられるのをご存じですか。」

「もちろん知っているとも。でも、黙っていてください。」エリシャはきびしい口調で言いました。

4 すると、エリヤはエリシャに、「このベテルに残りなさい。主は私を、エリコへ遣わされる」と言いました。しかし、エリシャは、「主にかけて誓いますが、私は決して先生から離れません」と答えました。そこで二人は、そろってエリコへ出かけました。

5 エリコでも、預言者学校の生徒たちがエリシャに、「今日、主がエリヤ先生をあなたから取り上げようとしておられるのを、ご存じですか」と言いました。エリシャは答えました。「知っているとも。だが、そのことは黙っていてくれないか。」

6-7 エリヤはまたもエリシャに、「ここに残りなさい。主が私をヨルダン川へ送られる」と言いましたが、この時も、エリシャは前と同じように、「主に誓って、先生から離れません」と答えました。二人はそろって出かけ、ヨルダン川のほとりに立ちました。若い預言者五十人は、遠くから見守っていました。

8 エリヤが外套を丸めてヨルダン川の水を打つと、川の水が分かれたので、二人は乾いた土の上を渡って行きました。

9 向こう岸に着くと、エリヤはエリシャに言いました。「わしが天に行く前に、あなたにどんなことをしてあげようか。」すると、エリシャは言いました。「どうぞ、先生の二倍の預言の力をお授けください。」

10 「難しいことを注文するものだ。私が取り去られる様子を見ることができたら、願いはかなえられるだろう。だが、見られないならばだめだ。」

11 二人が話しながら歩いていると、突然、火の馬に引かれた火の戦車が、二人の間に割り込みました。そして、エリヤはたつまきに乗って天に上って行ったのです。

12 エリシャはその姿をじっと見つめ、「わが父! わが父! イスラエルの戦車と騎兵よ!」と叫び、エリヤの姿が見えなくなると、自分の着物を二つに引き裂きました。

13-14 それから、エリヤが脱いだ外套を拾い上げ、ヨルダン川のほとりに引き返しました。そして、彼がその外套でヨルダン川の水を打ち、「エリヤの神、主はどこにおられますか」と言うと、水が両側に分かれたので、彼は歩いて川を渡りました。

15 エリコの若い預言者たちはこれを見て、口々に「エリヤの霊がエリシャに下った」と叫び、エリシャを迎えに出て、ひれ伏しました。

16 「お許しをいただければ、五十人の屈強な者たちにエリヤ先生を捜しに行かせます。おそらく、主の霊が先生を運んで、どこかの山か谷に置き去りにされたのでしょうから。」

するとエリシャは言いました。「どうか、そんなことはしないでくれ。」

17 しかし、彼らがあまりにもしつこく言うので、ついにエリシャも根負けして、「そこまで言うなら、そうしなさい」と折れました。そこで五十人の男たちが三日間、手分けして捜しましたが、エリヤの姿はどこにも見あたりませんでした。

18 すごすご引き返して来ると、エリシャはまだエリコにいて、「だから、あれほど行くなと言っただろう」と彼らをしかりました。

水の奇跡

19 さて、エリコの町の人々がエリシャを尋ねて来て、言いました。「実は、困ったことがあるのです。この町は、ごらんのように、美しい自然に囲まれています。ところが水が悪くて、女たちは流産に悩まされています。」

20 エリシャは、「それはお困りですな。何とかしましょう。新しい器に塩をいっぱい入れて、持って来なさい」と言いました。彼らは言われたとおりにしました。

21 エリシャは町の井戸へ出かけ、塩を振りまいて、「主がこの水をきよめてくださった。これからはもう流産する人もないし、水にあたって死ぬ人もいない」と宣言しました。

22 はたして、エリシャの言ったとおり水はきれいになりました。

ばかにされたエリシャ

23 エリシャがエリコからベテルへの道を進んで行くと、ベテルの町から少年たちが出て来て、「やーい、はげ頭、はげ頭」と言ってあざけりました。

24 エリシャは彼らの方を振り向いて、主の名によってのろいました。すると、森の中から二頭の雌熊が出て来て、少年たちのうち四十二人を裂き殺しました。

25 このあと、エリシャはカルメル山へ行き、またサマリヤへ帰りました。

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列王記Ⅱ

列王記Ⅱ 3

モアブとの戦い

1 ユダの王ヨシャパテの第十八年に、アハブの子ヨラムがイスラエルの王となり、首都のサマリヤで十二年の間、治めました。

2 彼は主の前に悪を行いましたが、両親ほどではなく、父が造ったバアルにささげる石柱だけは取り除いたのです。

3 しかし一方で、イスラエルの民を偶像礼拝に導いたネバテの子ヤロブアムの罪を犯し続けました。

4 モアブの王メシャは羊を飼っており、毎年イスラエルに子羊十万頭と雄羊十万頭分の羊毛とを貢ぎ物として納めていました。

5 ところがアハブ王が死ぬと、モアブの王はイスラエルに背きました。

6-8 そこで、ヨラム王はイスラエル軍を召集する一方、ユダのヨシャパテ王に使いを送って言いました。「モアブの王が反旗を翻したので、戦いにお力添え願えないか。」

「喜んで力になろう。私の民も馬も、あなたの言うとおりにさせる。作戦計画を教えてほしい。」

「エドムの荒野の道から攻めることにしている。」

9 こうして、エドムからの援軍も加わった、イスラエルとユダの連合軍は、荒野の道を七日間回り道したため、兵士や彼らの荷を運ぶ家畜の飲み水が底をついてしまいました。

10 イスラエルの王は悲鳴を上げました。「ああ、どうしよう。主はわれわれを、モアブの王の餌食にしようと、ここに連れ出されたのだ。」

11 「預言者はいないのですか。もしいたら、どうすればいいかわかるのに。」

ユダの王ヨシャパテのことばに、イスラエルの王の家臣が答えました。「エリヤの助手をしていたエリシャがいます。」

12 ヨシャパテは、「それはいい。その者に聞いてみよう」と言いました。そこで、イスラエルとユダとエドムの王は、そろってエリシャを訪ねました。

13 エリシャはイスラエルの王ヨラムに言いました。「あなたとはかかわりになりたくありません。ご両親がひいきにしていた偽預言者のもとに行ったらいいでしょう。」

すると、ヨラム王は言いました。「いや、われわれをここに呼び出し、モアブの王の餌食になるように仕向けたのは主なのだ。」

14 エリシャは言いました。「主にかけて言っておきます。ユダのヨシャパテ王がいなかったら、こんなことに首をつっ込む気はさらさらなかったのですが、

15 しかたがない。竪琴を弾く者を連れて来てください。」竪琴が奏でられると、エリシャに主のことばが下りました。

16 「この乾いた谷に溝を掘りなさい。わたしがそこに水を満たす。

17 風も吹かず雨も降らないのに、谷は水であふれ、あなたがたも家畜も十分に飲むことができる。

18 しかし、これはまだ手始めにすぎず、わたしはモアブ軍を破り、あなたがたに勝利を与える。

19 あなたがたは城壁に囲まれた最上の町々を占領し、すべての肥沃な耕地を石で荒地にする。」

20 翌日、朝のいけにえがささげられるころ、水がエドムの方から流れて来て、あたり一面を満たしました。

21 そのころモアブ人は、連合軍が攻めて来ると聞き、老いも若きも、戦うことのできる男子を総動員して国境の守備を固めました。

22 ところが翌朝早く起きてみると、太陽が水面を真っ赤に照らしているではありませんか。

23 彼らは、「血だ! 連合軍が同士討ちをしたに違いない。さあ、出て行って戦利品を集めよう」と言いました。

24 こうして、彼らがイスラエル陣に突入すると、イスラエル軍が飛び出して来てモアブ軍を片っぱしから打ち始めました。たちまちモアブ軍は総くずれとなり、ここぞとばかり、イスラエル軍はモアブの地に攻め込み、手あたりしだいに町々を破壊し、

25 すべての肥沃な地に石を投げ、井戸をふさぎ、実のなる木を切り倒しました。キル・ハレセテの要害が最後まで残っていましたが、そこもついにイスラエル軍の手に落ちました。

26 モアブの王は勝ち目がないとわかると、七百人の剣客を率いて、エドムの王のところに突入しようとしましたが、それも失敗に終わりました。

27 そこで、世継ぎの長男を城壁の上で殺し、いけにえとしてささげました。これを見たイスラエル人は狼狽し、自分の国へ引き揚げて行きました。

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列王記Ⅱ 4

やもめを救ったエリシャ

1 ある日、エリシャのもとを預言者仲間の一人の妻が訪ねて来て、夫の死を告げました。「夫は主を愛していました。ところが亡くなる時、いくらかの借金があったので、貸し主が返済を求めてきて、もし返せなければ二人の子どもを奴隷にするというのです。」

2 エリシャは彼女に言いました。「はて、どうしてあげたらいいのか。家には、どんな物があるのか?」

彼女は答えました。「油のつぼが一つあるだけで、ほかには何もありません。」

3 「では、近所の人々から、空っぽのかめや鉢をたくさん借りて来なさい。

4 帰ったら戸に鍵をかけ、子どもたちと家に閉じこもって、つぼにある油をかめや鉢にどんどんつぎなさい。」

5 女は言われたとおり、子どもたちが借りて来たかめや鉢に油をついでいきました。

6 まもなく、どの入れ物も口まであふれるほど、いっぱいになりました。「もっともっと、かめを持っておいで」と女は子どもに言いました。子どもが、「もうないよ」と言うと、そのとたんに油が止まりました。

7 女からそれを聞くと、預言者エリシャは言いました。「さあ、その油を売って、借金を返しなさい。その余りで、子どもたちと十分に暮らしていけるはずです。」

シュネムの女の息子をよみがえらせる

8 ある日、エリシャがシュネムの町へ行くと、裕福な婦人が彼を食事に招きました。その後も、そこを通るたびに、彼は立ち寄って食事をするようになりました。

9 女は夫に話しました。「お通りになるたびに立ち寄られるあの方は、きっと神の預言者に違いありません。

10 あの方のために、屋上に小さなお部屋を造って差し上げたいと思います。中には、寝台、机、いす、それに燭台を置きましょう。そうすれば、おいでになるたびに、そこでゆっくりお休みになれますから。」

11-12 ある日、エリシャはその部屋で休んでいましたが、しもべのゲハジを呼び、「奥様にちょっとお話ししたいことがあると伝えてくれ」と頼みました。彼女が来ると、

13 エリシャはゲハジに言いました。「まず、いつも親切にしてくださることのお礼を言ってくれ。それから、何かして差し上げられることがないか聞いてほしい。王様か将軍にでも、何か伝えてもらいたいことがあるかもしれないから。」

ところが、彼女は答えました。「私は今のままで満足しております。」

14 それでもエリシャは、「彼女のために何かしてやれることはないだろうか」と、あとでゲハジに尋ねました。ゲハジは言いました。「あの女には子どもがありません。それに、ご主人もかなりの年ですし……。」

15-16 「ではもう一度、奥さんを呼んでくれ。」

彼女が来ると、エリシャは、入口に立っている彼女に言いました。「来年の今ごろ、あなたに男の子が生まれます。」

「ご冗談はよしてください。預言者ともあろうお方が、私をからかわれるのですか。」彼女は思わず答えました。

17 しかし、それはほんとうのことでした。女はやがてみごもり、エリシャの言ったとおり、翌年の同じころに男の子を産んだのです。

18 その子が大きくなったある日、刈り入れ作業をしている人たちとともに働いている父親のところに行った時、

19 子どもはしきりに頭痛を訴え、苦しみ始めました。父親はしもべに、「抱いて母親のところへ連れて行きなさい」と言いました。

20 その子は家に連れ戻され、母親のひざに抱かれていましたが、昼ごろに息を引き取りました。

21 彼女は子どもをかかえて屋上の間にある預言者の寝台に運び、戸を閉めました。

22 それから、夫に使いをやって、「どうぞ、しもべにろば一頭をつけて寄こしてください。急いで、あの預言者様のところへ行って来ます。」

23 彼は、「どうしてまた、今日、あの人のところに行くんだね? 特別な祝日でもないのに」と言いましたが、彼女は、「でも、どうしても行きたいのです」と答えました。

24 彼女はろばに鞍をつけると、しもべにこう言いつけました。「とにかく急いでおくれ。私の指示のないかぎり、手綱はゆるめてはなりません。」

25 エリシャは、カルメル山に近づいて来る彼女を遠くから見つけ、ゲハジに言いました。「見なさい。あのシュネムのご婦人がやって来る。

26 さあ、走って行って出迎え、何があったのか聞いてみるのだ。ご主人やお子さんはお元気かどうかと。」彼女はゲハジに、「ありがとうございます。別に変わりはございません」とだけ答えました。

27 ところが、山の上にいるエリシャのそばまで来ると、彼女はひれ伏して、彼の足にすがりつきました。ゲハジが引き離そうとすると、預言者は言いました。「そのままにさせておきなさい。何か大きな悩みがあるに違いない。それが何であるか、主はまだお告げになっていないのだ。」

28 女は言いました。「私に子どもが生まれると言われたのは、あなた様です。その時、からかわないでください、と申し上げたはずです。」

29 これを聞いたエリシャは、ゲハジに命じました。「大急ぎで、私の杖を持って行って、あの子の顔の上に置くのだ。途中、だれかに会ってもあいさつを交わしてはいけない。急ぎなさい。」

30 ところが、その子の母親は言いました。「主にかけて申し上げます。あなた様とごいっしょでなければ、決して家に帰りません。」そこで、エリシャも彼女といっしょにシュネムに向かいました。

31 ゲハジは先に行って、杖を子どもの顔の上に置きましたが、何の反応もなかったので引き返して来て、エリシャに、「あの子は死んだままです」と報告しました。

32 エリシャが着いてみると、なるほど子どもは死んでいて、寝台に寝かされています。

33 彼は中に入り、戸を閉めて主に祈りました。

34 それから小さいなきがらの上に体をかぶせ、自分の口をその子の口に、自分の目をその子の目に、自分の両手をその子の両手に重ねました。すると、子どもの体がだんだん温かくなってきました。

35 ここでエリシャは、いったん降り、部屋の中を何回か行ったり来たりしてまた寝台に戻り、再びその子の上に体をかぶせました。すると、その子は七回くしゃみをして、目を開いたのです。

36 預言者はゲハジを呼んで、「奥さんを呼んで来なさい」と命じました。彼女が入って行くと、エリシャは、「ほら、あなたのお子さんですよ」と言いました。

37 彼女はエリシャの足もとにひれ伏しました。それからその子を抱き上げると出て行きました。

かまの中の毒

38 エリシャがギルガルに戻ってみると、その地ではききんが起こっていました。ある日、若い預言者たちを教えている時、彼はゲハジを呼んで、「この人たちのために食事の用意をしなさい」と命じました。

39 若者の一人が野菜を取りに野へ行き、野生のうりを前掛けにいっぱい入れて帰って来ました。それに毒があるとも知らず、彼はそれを輪切りにして、かまに入れたのです。

40 ところが、みなが口にするや、「先生、大変です! この煮物には毒が入っています!」と大騒ぎになりました。

41 しかし、エリシャは少しもあわてず、「麦粉を少し持って来なさい」とだけ言いました。そして麦粉をかまに投げ入れ、「さあ、これで大丈夫だ。どんどん食べなさい」と言いました。煮物の毒はすっかり消えていたのです。

パンの奇跡

42 ある日、バアル・シャリシャ出身の人が、エリシャのところに、新穀を一袋と、初穂で焼いた大麦のパン二十個を持って来ました。エリシャはゲハジに、これを若い預言者たちに食べさせるよう指示しました。

43 ゲハジは、「これっぽちのものを、百人もの人に食べさせるのですか」とあきれ顔で言いました。しかし、エリシャは言いました。「さあ、黙って食べさせなさい。『みんなに十分なだけある。食べ残す者もあるくらいだ』と、主は言われるのだから。」

44 そのとおりにすると、はたして、主が言われたとおりになったのです。

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列王記Ⅱ

列王記Ⅱ 5

ナアマンとエリシャ

1 シリヤ(アラム)の王は、軍の最高司令官であるナアマン将軍を非常に重んじていました。ナアマンが軍隊を率いて、何度も輝かしい勝利を収めたからです。彼は押しも押されもしない偉大な英雄でしたが、なんと、ツァラアト(皮膚が冒され、汚れているとされた当時の疾患)にかかっていたのです。

2 かつてシリヤ軍がイスラエルに侵略した時、捕虜の中に若い娘がいて、ナアマンの妻の召使になっていました。

3 ある日、その少女が女主人に言いました。「だんな様は、サマリヤにいる預言者のところへ行かれたらよろしいのではないでしょうか。きっと、その方がツァラアトを治してくださいます。」

4 そこでナアマンは、少女のことばを王に話しました。

5 シリヤの王は、「その預言者のところへ行くがよい。イスラエルの王にあてて紹介状を書こう」と言いました。そこでナアマンは、贈り物として、金六千シェケル(六十八・四キログラム)と銀十タラント(三百四十キログラム)、それに着物十着を持って、イスラエルへ出発しました。

6 イスラエルの王への手紙には、こう書いてありました。「この書状をあなたに手渡す者は、私の家臣ナアマンです。ぜひとも、ナアマンのツァラアトを治してください。」

7 イスラエルの王は手紙を読むと、服を裂いて言いました。「シリヤの王め、ツァラアトの者をよこして、病気を治してくれと無理難題を吹っかけてきている。私は殺したり、生かしたりできる神だろうか。これは、侵略の口実を見つける罠に違いない。」

8 預言者エリシャは、イスラエルの王が苦境に立たされていることを知り、人を送って、次のように言いました。「なぜ、そんなに取り乱しているのですか。ナアマンをよこしてください。彼は、イスラエルには神の預言者がいることを知るでしょう。」

9 ナアマンは馬と戦車を従えて、エリシャの家の玄関に立ちました。

10 エリシャは使いの者をやって、言いました。「ヨルダン川へ行って、体を七回洗いなさい。そうすれば、ツァラアトは跡形もなくなり、完全に治ります。」

11 これを聞いたナアマンは、ひどく腹を立て、不きげんそうに言いました。「なんということだ。預言者がじきじきに出て来てあいさつし、患部に手をあて、彼の神の名を呼んでツァラアトを治してくれると思ったのに。

12 川で洗えだと? それなら、ダマスコのアマナ川やパルパル川のほうが、イスラエルの川よりよっぽどきれいじゃないか。どうしても川で洗わなければならないというのなら、故郷の川でやったほうがまだましだ。」彼は憤慨しながらそこを去りました。

13 その時、部下がこう説き伏せたのです。「もしあの預言者に、何か難しいことをせよと言われたら、そうなさるおつもりだったのでしょう。それなら、体を洗って、きよくなれと言われただけのことですから、そのとおりになさってみたらいかがですか。」

14 それももっともです。ナアマンはヨルダン川へ下って行き、言われたとおり、七回、水に身を浸しました。すると、彼の皮膚は幼子のようにつやつやしてきて、すっかり治ったのです。

15 そこで、ナアマン一行は預言者のところへ引き返し、うやうやしく彼の前に立ちました。ナアマンは感謝にあふれて言いました。「今こそ、イスラエルのほかに、世界のどこにも神はおられないことがわかりました。どうぞ、この贈り物をお受けください。」

16 「私の主にかけて、そのような物を頂くわけにはまいりません。」

ナアマンはしきりに勧めましたが、エリシャはどうしても受け取ろうとしません。

17 しかたなく、ナアマンは言いました。「では、これだけはお聞き届け願えないでしょうか。どうぞ、二頭のらばに載せられるだけの土を分けてください。国に持ち帰りたいのです。これからはもう、主のほかには、どの神にもいけにえをささげたくありません。

18 しかし、一つだけお許しいただきたいことがあります。私の主君がリモンの神殿に参拝する時、私の腕に寄りかかります。その時、私もいっしょに身をかがめますが、そのことを主がお許しくださいますように。」

19 「よろしい。安心してお帰りなさい」というエリシャの返事を聞いて、ナアマンは帰って行きました。

20 ところが、エリシャのしもべゲハジはひそかに考えました。「だんな様のお人好しにも困ったものだ。贈り物を一つも受け取らずに、あの方を帰してしまうんだから。よし、あの方のあとを追いかけ、何か頂いて来よう。」

21 ゲハジはナアマンのあとを追いました。ナアマンはゲハジが走って来るのを見ると、戦車から降り、走り寄って迎えました。

「何かあったのですか。」

22 「はい。主人がお伝えしたいことがあると、私を使いに出したのでございます。たった今、若い預言者が二人、エフライムの山地から来まして、彼らに何かみやげをと思ったものですから。よろしければ、銀一タラント(三十四キログラム)と着物二着を分けていただけませんか。」

23 「よろしいですとも。なんなら、いっそ銀二タラントをお持ちください。」ナアマンは強く勧め、高価な着物二着と銀二タラントを二人の家来に持たせ、ゲハジといっしょに行かせました。

24 エリシャの家のある丘まで来ると、ゲハジは着物と銀の袋を受け取り、二人を帰しました。そして、受け取ったものを家の中に隠したのでした。

25 何くわぬ顔で主人の前に出たゲハジに、エリシャは尋ねました。「ゲハジ、どこへ行っていたのか。」

彼は答えました。「別に、どこにもまいりません。」

26 エリシャは言いました。「ナアマンが戦車から降りておまえを迎えるのを、私は心の目で見ていたのだ。今は、銀や着物、オリーブ畑やぶどう畑、羊や牛、男女の奴隷を受け取る時だろうか。

27 そんなことをしたからには、ナアマンのツァラアトは、いつまでも、おまえとおまえの子孫に降りかかることになる。」

ゲハジはたちまちツァラアトに冒され、肌が雪のように白くなって、エリシャの部屋から出て行きました。

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列王記Ⅱ

列王記Ⅱ 6

川に落ちた斧

1-2 ある日、預言者学校の弟子たちが、エリシャのもとに来て言いました。「先生、ごらんのように、私たちの寄宿舎が手狭になりました。ヨルダン川のそばには材木がたくさんありますから、そこに新しい寄宿舎を建ててはいかがでしょう。」エリシャは、「そうしなさい」と言いました。

3 「どうか、先生もいっしょに行ってください」と一人が言ったので、「わかった。私も行こう」とエリシャは答えました。

4 こうして彼らはヨルダン川に着き、木を切り出しにかかりました。

5 ところが、木を切っていた一人が斧の頭を川に落としてしまったのです。

「先生、大変です。あの斧は借り物なのです。」

6 「どこに落としたのか。」彼がその場所を教えると、エリシャは一本の枝を切り、そこに投げ込みました。すると、斧の頭が水面に浮かび上がってきたのです。

7 「さあ、拾い上げなさい」と言われて、彼は手を伸ばしてそれを取り上げました。

目が見えなくなったシリヤ軍

8 シリヤの王がイスラエルと戦っていた時のことです。王は家臣たちに、「これこれの場所に兵を集めよう」と言いました。

9 すると、すぐさまエリシャはイスラエルの王に、「あの場所へは近寄られませんように。シリヤ軍が集結しようとしています」と使者を送って警告しました。

10 イスラエルの王は、エリシャの言うことがほんとうかどうか確かめようと偵察を出したところ、やはり、そのとおりでした。こうして、エリシャはイスラエルを救いましたが、このようなことが何度もあったのです。

11 シリヤの王は首をかしげ、家臣たちを呼んできびしく追及しました。「この中に裏切り者がいる。こちらの作戦を敵に通報している者がいるはずだ。」

12 すると家臣の一人が言いました。「王様、私どもではありません。イスラエルにいる預言者エリシャが、王様が寝室でこっそりおっしゃることまで、イスラエルの王に告げているのです。」

13 「そうか。では、彼の居場所を突き止めて捕まえよう。」

やがて、「エリシャがドタンにいる」という知らせが届きました。

14 そこで、ある夜、シリヤの王は戦車と馬で武装した大軍を差し向け、ドタンを包囲しました。

15 翌朝早く、預言者のしもべが起きて外に出ると、馬と戦車で固めた大軍がぐるりと町を包囲していました。若いしもべは思わず、「わあっ、ご主人様! ど、どうしたらよいでしょう」と大声で叫びました。

16 「恐れるな。私たちの軍勢は彼らよりも多く、強いのだから。」

17 こう言って、エリシャは主に祈りました。「どうか彼の目を開いて、見えるようにしてください。」すると、神が若いしもべの目を開いたので、火の馬と火の戦車がエリシャたちを取り巻くように山に満ちているのが見えました。

18 シリヤ軍が攻め寄せて来た時、エリシャは、「どうぞ、彼らを盲目にしてください」と主に祈りました。そのとおり、シリヤ軍の兵士たちは目が見えなくなりました。

19 エリシャは出て行って、彼らに言いました。「道を間違えているぞ! 攻撃する町はここではない! 私について来なさい。おまえたちが捜している人のところへ連れて行ってやろう。」こうして、彼らをサマリヤへ連れて行きました。

20 サマリヤに着くとエリシャは、「主よ。彼らの目を開いて、見えるようにしてください」と祈りました。目が見えるようになった時の、彼らの驚きようはありませんでした。サマリヤの真ん中に来ていたのです。

21 イスラエルの王は敵の兵士たちを見て、エリシャに尋ねました。「彼らを打ってもいいのですか。」

22 「捕虜を殺してはなりません。パンと水を与え、国に帰してやりなさい。」

23 そこで王は、彼らのために盛大なもてなしをしてから、シリヤ王のもとに帰しました。その後、シリヤの略奪隊によるイスラエル侵入はぴたりと止みました。

包囲されたサマリヤ

24 ところが、のちにシリヤ(アラム)のベン・ハダデ王は、全軍を召集してサマリヤを包囲しました。

25 そのため、サマリヤの町はひどい食糧難に見舞われたのです。包囲が長く続いたので、ろばの頭一つが銀八十シェケル(約一キログラム)、鳩の糞四分の一カブ(〇・三二リットル)が銀五シェケルで売られるほどになりました。

26-30 ある日、イスラエルの王が町囲みの城壁の上を歩いていると、一人の女が、「王様、お助けください」と叫び求めてきました。王は言いました。「主があなたを助けてくださらないなら、私に何ができよう。食べ物もぶどう酒もやることはできない。それで、いったいどうしたというのか。」

彼女は答えました。「実は、この女が私に、『今日はあなたの子どもを食べ、明日は私の子どもを食べましょう』と言ったのです。それで、二人して私の子どもを煮て食べました。次の日、私が、『さあ、今度はあなたの子どもの番よ』と言うと、この女は子どもを隠してしまったのです。」

王はあまりに悲惨な話に、王服を引き裂いて悲しみました。それを見ていた人々は、王が下に荒布をまとっているのを知りました。

31 王は誓って言いました。「今日、私がエリシャの首をはねないなら、神が私の首をはねてくださるように。」

32 イスラエルの王がエリシャを呼び出す使者を立てた時、エリシャは家の中に座って、イスラエルの長老たちと話し合っていました。ところが、使者が到着する前に、エリシャは長老たちにこう話しました。「あの人殺しが、私を殺そうと使者をよこしました。来ても、戸をしっかり閉め、中に入れてはいけません。本人がすぐあとからやって来るからです。」

33 彼がまだ話し終わらないうちに、使者が到着し、そのあとには王が続いていました。王は言いました。「主はこんなひどいことをなさった。もうこれ以上、主の助けなど期待できない。」

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列王記Ⅱ

列王記Ⅱ 7

1 エリシャは答えました。「いや、主はこうおっしゃっている。『明日の今ごろには、サマリヤの市場で、小麦粉一セア(七・六リットル)と大麦二セアが、それぞれ一シェケルで売られるようになる』と。」

2 これを聞いた王の侍従は、「たとえ主が天に窓をお作りになっても、そんなことが起こるはずはない」と言いました。そこでエリシャは言いました。「あなたは自分の目でその有様を見る。しかし、それを食べることはできない。」

包囲が解かれたサマリヤ

3 そのころ、町の門の外に四人のツァラアトに冒された人が座って、こう話し合っていました。「死ぬまで、ここにじっと座っていてもしかたない。

4 ここにいても飢え死にするだけだし、町に入っても同じことだ。それなら、いっそ出て行って、シリヤの陣営に投降しよう。助かればもうけものだし、殺されても、もともとだ。」

5 話がまとまり、夕方、そろってシリヤの陣営に行きましたが、驚いたことに、そこにはだれもいませんでした。

6 主がシリヤ軍に、戦車の向かって来る音と馬のいななき、大軍勢が攻め寄せる音を聞かせたからです。それで、彼らは口々に、「イスラエルの王がヘテ人やエジプト人を雇って攻めて来たに違いない!」と言い、

7 あわてふためいて、その夜のうちに、彼らの天幕も馬もろばも何もかも置き去りにして、いのちからがら逃げ出したのです。

8 ツァラアトに冒された人たちは陣営の端まで来ると、天幕を次から次へと回って食べたり飲んだりし、金や銀や衣服を持ち出して、それらを隠しました。

9 そうこうしているうち、彼らは互いに言いました。「こんなことをしていてはいけない。この良い知らせを、まだ、だれにも伝えていないではないか。明日の朝まで黙っていようものなら、きっと恐ろしい罰を受けるだろう。さあ、宮殿にいる人々に知らせよう。」

10 そこで四人は町に戻り、見張り人に、「シリヤ軍の陣営に行ってみると、人っ子ひとりおらず、馬やろばはつながれたままで、天幕もそっくりそのままだった」と報告しました。

11 見張り人は、大声でこの知らせを宮中の人々に伝えました。

12 王は起き上がると、家臣たちに言いました。「これは罠に違いない。シリヤ軍は、われわれが飢えているのを知って、わざと陣営をからにし、野に隠れているのだ。われわれをおびき出す作戦だ。うっかり出て行ったら、たちまち生け捕りにされ、町も占領されてしまうだろう。」

13 家臣の一人が答えました。「では、偵察を出して、様子を探らせてみてはいかがでしょう。残っている馬の中から、五頭だけ差し向けましょう。そのくらいなら、何が起ころうが、大した損失ではないでしょう。どうせここにいても、私たちとともに死ぬことになるのですから。」

14 そこで二台分の戦車用の馬が引き出され、王は敵陣偵察に二人の兵士を送りました。

15 彼らは大急ぎで、逃げたシリヤ軍のあとを追い、ヨルダン川まで行きましたが、道の至るところに衣服や武器がいっぱい捨ててあるではありませんか。彼らは帰って、このことを王に報告しました。

16 そうとわかると、サマリヤの人々は、われ先にシリヤ軍の陣営に殺到し、略奪をほしいままにしました。そのため主のことばどおり、その日のうちに、小麦粉一セアと大麦二セアが一シェケルで売られるようになったのです。

17 王は、「そんなことが起こるはずはない」と言ったあの侍従を、門の出入りの監視に当たらせました。ところが彼は、なだれのように殺到する人々に押し倒され、踏みつけられて、死んでしまいました。前の日、王がエリシャを捕らえに行った時、エリシャが語ったとおりでした。

18 預言者が王に、「明日になったら、小麦粉と大麦が安く売られるようになる」と言った時、

19 その侍従が、「たとえ主が天に窓をお作りになっても、そんなことが起こるはずはない」と答えたので、預言者は、「あなたは自分の目でそのようになるのを見るが、それを食べることはできない」と言ったのでした。

20 そのとおりのことが実現し、人々は門のところで彼を踏みつけ、殺してしまったのです。

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列王記Ⅱ

列王記Ⅱ 8

シュネムの女の家と畑

1 エリシャは、かつて子どもを生き返らせてやったあのシュネムの女に言いました。「家族を連れ、どこかほかの地に疎開しなさい。主がイスラエルに、七年間のききんを起こさせるからです。」

2 女は家族を連れてペリシテ人の地に移り、七年間そこに住みました。

3 ききんが終わるとイスラエルに戻り、自分の家と畑を返してくれるよう、王に願い出ました。

4 彼女が王のところに来た時、たまたま王は、エリシャのしもべゲハジと話している最中でした。王はゲハジに、「エリシャが行ったすばらしいことを聞かせてくれ」と頼んだのです。

5 ゲハジは、エリシャが子どもを生き返らせた時のことを話していました。ちょうどそこへ、その子どもの母親が入って来たのです。ゲハジは思わず叫びました。「王様! 今、その女がここにおります。先生が生き返らせたのは彼女の子です。」

6 王が、「確かに間違いないか」と尋ねると、彼女は、「そのとおりです」と答えました。そこで、王は家臣に命じました。「この女が所有していた物を、ぜんぶ返してやりなさい。留守の間の収穫に見合うだけの作物もだ。」

シリヤの王ベン・ハダデの死

7 そののち、エリシャはシリヤの首都ダマスコへ行きました。時に、シリヤの王ベン・ハダデ(二世)は病床に伏していましたが、「あのイスラエルの預言者が来た」と告げる者がありました。

8 それを聞いた王は、ハザエルに言いました。「その預言者に贈り物を持って行き、私の病気が治るかどうか、主に伺いを立ててもらってくれ。」

9 ハザエルは、贈り物として、土地の最上の産物をらくだ四十頭に載せて行き、エリシャに尋ねました。「ベン・ハダデ王が、病気が治るかどうか、お伺いを立ててほしいと申しております。」

10 「『治ります』と伝えなさい。しかし、主は私に、王はきっと死ぬと告げられた。」

11 そう言うとエリシャは、ハザエルが恥じ入るほどじっと彼の顔を見つめ、急に泣きだしました。

12 「先生、いったい、どうなさったのですか?」とハザエルが聞くと、エリシャは答えました。「あなたが、イスラエル人に恐ろしいことをしようとしているのがわかるのだ。あなたは要塞を焼き払い、若い男を殺し、赤ん坊を岩に投げつけ、妊婦の胎を切り裂くだろう。」

13 ハザエルは言いました。「ただ仕えるだけの飼い犬のような私が、そんな大それたことなどできるわけがありません。」しかし、エリシャは言いました。「いや、主は私に、あなたがシリヤの王になると示された。」

14 ハザエルが帰って来ると、彼の帰りを待ちかねていた王は尋ねました。「エリシャは何と申した。」彼は、「あなたは治ると申されました」と言いました。

15 ところが、翌日、ハザエルは水に浸した毛布を王の顔にかぶせて窒息死させ、自分が王に取って代わったのです。

ユダの王ヨラム

16 ユダの王ヨシャパテの子ヨラムが王位についたのは、イスラエルの王アハブの子ヨラムの第五年のことです。

17 ユダの王ヨラムは三十二歳で王となり、八年間エルサレムで治めました。

18 王はアハブやほかのイスラエルの王のように、主の前に悪を重ねました。イスラエルの王だったアハブの娘と結婚していたからです。

19 それにもかかわらず、主はしもべダビデに子孫を守ると約束していたので、ユダを滅ぼしませんでした。

20 ヨラム王の治世に、エドム人がユダに背き、自分たちの王を立てました。

21 ヨラムは反乱を鎮めようとしましたが、うまくいきませんでした。ヨルダン川を渡ってツァイルの町を攻撃したものの、あっという間にエドムの軍勢に囲まれました。夜陰に乗じて、どうにか敵の包囲は破りましたが、味方の軍勢は王を見捨てて逃げてしまいました。

22 それ以後、エドムは独立国になったのです。時を同じくして、リブナも反乱を企てました。

23 ヨラム王のその他の業績は、『ユダ諸王の年代記』に記録されています。

24 ヨラム王は死んで、ダビデの町(エルサレム旧市街)にある王室墓地に葬られました。

ユダの王アハズヤ

25 ヨラムの子アハズヤがユダの王となったのは、イスラエルの王アハブの子ヨラムの第十二年のことです。

26 アハズヤは二十二歳で王になりましたが、エルサレムで王位にあったのはわずか一年でした。彼の母のアタルヤは、イスラエルの王オムリの孫娘でした。

27 アハズヤはアハブ家の婿で、アハブ王の子孫と同じように主の前に悪を行いました。

28 ユダの王アハズヤは、イスラエル王のヨラムを助けてシリヤのハザエルと戦うために、ラモテ・ギルアデに出陣しました。ところが、その戦いでヨラムが負傷し、

29 イズレエルへ治療に帰ったので、その病床をアハズヤは見舞いに行きました。

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列王記Ⅱ

列王記Ⅱ 9

アハブ家を打つエフー

1 そのころ、エリシャは若い弟子を呼んで言いました。「この油のびんを持って、ラモテ・ギルアデに行くしたくをしなさい。

2 向こうに着いたら、ニムシの子ヨシャパテの子エフーを捜しなさい。捜しあてたら、呼び出して奥の部屋に案内し、

3 彼の頭に油を注ぐのだ。それから、『主はあなたに油を注いでイスラエルの王とされる』と言って、すぐさま逃げて来なさい。」

4 若い預言者は、言われたとおりラモテ・ギルアデへ行き、

5 ほかの将校たちと会議中のエフーを見つけました。

「将軍、申し上げることがあります」と、彼は言いました。

「だれにだ」と、エフーが言いました。

「あなたにです。」

6 エフーは席を立ち、家に入りました。若い預言者はエフーの頭に油を注いで、言いました。「イスラエルの主は言われる。『わたしはあなたに油を注いで、主の民イスラエルの王とする。

7 あなたはアハブの家を打たなければならない。こうして、イゼベルに殺された預言者や民のために復讐をするのだ。

8 これでアハブ家の者は、奴隷に至るまで滅びうせる。

9 わたしは、ネバテの子ヤロブアムの家や、アヒアの子バシャの家を滅ぼしたように、アハブの家を滅ぼす。

10 イズレエルで、犬がアハブの妻イゼベルを食らうが、だれも彼女を葬らない。』」

こう言い終わると、彼は一目散に逃げ帰りました。

11 エフーが仲間の将校たちのところに戻ると、一人が尋ねました。「あの気が変な男は、何をしに来たのだ。何か変わったことでもあるのか?」

「あなたがたは、あれがだれか、何を言ったか、よくわかっているはずだ」とエフーが言うと、

12 「いや、私たちは知らない。教えてほしい」と彼らは答えました。そこでエフーは、その男が言ったこと、また、主が自分に油を注いでイスラエルの王としてくださったことを話しました。

13 すると、彼らはすばやく上着を脱いで階段の上に敷き、ラッパを鳴らして、「エフーが王様になった!」と大声で叫びました。

14 こうして、ニムシの子ヨシャパテの子エフーは、イスラエルの王ヨラムに反旗を翻したのです。一方、ヨラムはイスラエルの全軍を率い、シリヤのハザエルの軍勢に対してラモテ・ギルアデの防衛に当たっていましたが、

15 傷を負ったので、イズレエルに帰って治療していました。エフーは、いっしょにいる者たちに言いました。「私が王になることを願っているなら、このことはイズレエルに知らせに行ってはならない。」

16 それから、エフーは戦車に飛び乗り、病床にいるヨラム王を見つけようとイズレエルへ急行しました。その時、ユダのアハズヤ王も、ヨラム王を見舞いに来ていました。

17 イズレエルのやぐらの上にいた見張りが、エフーの一隊が近づいて来るのを見て、「だれか来るぞ!」と叫びました。ヨラム王は、「騎兵一人を出して、敵か味方か調べさせよ」と命じました。

18 そこで一人がエフーを迎えに行き、言いました。「王が、あなたは敵か味方かと言っておられます。和平のために来られたのですか。」エフーは、「和平が何だ。つべこべ言わず、私について来い!」と答えました。一方、見張りは王に、「使者は行ったまま戻りません」と報告しました。

19 そこで王は、第二の使者を出しました。彼は馬に乗ってエフーのところに行き、彼らが友好を意図しているかどうか尋ねました。「友好が何だ。つべこべ言わず、私について来い!」

20 見張りは大声を張り上げました。「第二の使者も帰って来ません。ところで、あれはエフーに違いありません。狂暴に馬を走らせています。」

21 ヨラムは、「急いで、戦車の用意をせよ」と命じました。

ヨラム王とユダのアハズヤ王は、戦車に乗ってエフーを迎えに出ました。彼らがエフーに出会ったのは、ナボテの所有する畑でした。

22 ヨラムは尋ねました。「エフー、友人として来たのか。」エフーは答えました。「あなたの母イゼベルの悪が私たちを取り巻いている限り、どうして友情などありえましょう。」

23 ヨラムはきびすを返し、大声でアハズヤに、「裏切りだ! 反逆だ!」と叫んで逃げました。

24 エフーは力いっぱい弓を引き絞り、逃げるヨラムの両肩の間にねらいをつけました。放たれた矢はみごと心臓を射抜き、ヨラムは戦車の中にどっと倒れ、そのまま息絶えました。

25 エフーは侍従のビデカルに命じました。「王の死体をナボテの畑に投げ捨てろ。いつかおまえと馬に乗って、彼の父アハブ王の供をしていた時、主のお告げがあったからだ。

26 『わたしは、ナボテとその子らを殺した罪に、このナボテの地所で報復する。』だから、そのとおり、ナボテの畑に王の死体を投げ捨てるのだ。」

27 その間に、ユダ王のアハズヤはベテ・ハガンの道へ逃げました。エフーはアハズヤを追いかけ、「やつも討ち取れ」と家来に命じました。エフーの軍勢は、イブレアムに近いグルの坂道で、戦車に乗ったアハズヤに矢を射かけ、重傷を負わせました。王はやっとの思いでメギドまで逃げ延びたものの、そこでついに事切れました。

28 彼の家来たちは遺体を車に載せてエルサレムに運び、王室墓地に葬りました。

29 アハズヤがユダの王となったのは、イスラエルの王ヨラムの第十一年のことです。

30 イゼベルはエフーがイズレエルに来たと聞くと、目の縁に化粧をし、髪を結い直して、窓ぎわに座りました。

31 エフーが宮殿の門を入ると、彼女は大声で呼びかけました。「あーら、人殺しのエフーじゃない! ごきげんいかが。主君殺しのジムリ(イスラエルの王エラに謀反を起こして殺した)の子!」

32 エフーがイゼベルを見上げながら、「だれか私に味方する者はいないか」と叫ぶと、二、三人の宦官が顔を出しました。

33 彼が「その女を突き落とせ!」と言ったので、宦官たちはイゼベルを窓から突き落としました。回りの壁や馬はその返り血を浴びて真っ赤に染まり、彼女は馬に踏みつけられました。

34 エフーは宮殿に入って食事をしてから、「あの、のろわれた女を葬ってやれ。王の娘なのだから」と言いました。

35 しかし、人々が彼女の遺体を葬ろうと出て行くと、すでに頭蓋骨と両手両足しか残っていませんでした。

36-37 戻った者たちの報告に、エフーはこう言いました。「まさに、主のおことばどおりになった。主は預言者エリヤにお語りになった。『犬がイゼベルの肉を食らい、その死体は肥やしのようにまき散らされ、だれにも見分けがつかなくなる。』」

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