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士師記

士師記 の紹介

の紹介

本書は、カナン征服後の数百年間のことを記しています。その時代、人々は、士師とかさばきつかさとか呼ばれる指導者に従っていました。彼らの主な任務は、軍事的リーダーとして、敵を国から追い出すことでした。イスラエルの歴史上、この時期は悲劇のくり返しで、神に反逆したとたんに外国軍が侵入するというかたちで、神のさばきがありました。イスラエルの人々は、そのつど神に助けを叫び求め、士師が彼らを救うために遣わされました。本書には、こうした出来事が何回も見られます。人々は、神に反逆することが明らかに災いへの道だということをなかなか悟りませんでした。

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士師記 1

カナン人との戦い

1 ヨシュアの死後、イスラエルの民は主からの指示を仰ごうと尋ねました。「カナン人と戦うには、まずどの部族が出陣すればよいでしょうか。」

2 すると、「ユダ族が行きなさい。彼らに輝かしい勝利を約束しよう」と主は言いました。

3 そこで、ユダ族の指導者たちは、シメオン族に加勢を求めました。「私たちの割り当て地に住む者たちを追い払うのに力を貸してほしい。その代わり、あなたたちが戦う時には必ず応援するから。」そうして、シメオンとユダの軍隊は合流して出陣しました。

4-6 主の助けによって、彼らはカナン人とペリジ人を打ち破りました。このベゼクでの戦闘で、なんと一万人もの敵を打ったのです。アドニ・ベゼク王は逃げ出したものの、すぐ捕らえられ、手足の親指を切り取られました。

7 「わしもこうやって七十人もの王の親指を切り取り、わしの食卓から落ちるパンくずを食べさせたものだが、今、神はそのつけを回してこられたというわけか」と、ベゼク王は嘆きました。王はエルサレムへ連れて行かれ、そこで息を引き取りました。

8 ユダ族はエルサレムを占領し、住民を打ち、町に火をかけました。

9 そののちユダの軍隊は、低地に住むカナン人を攻めたばかりか、山地やネゲブのカナン人とも戦いました。

10 また、以前キルヤテ・アルバと呼ばれたヘブロンにいるカナン人に向かって進撃し、シェシャイ、アヒマン、タルマイなどの町を滅ぼしました。

11 さらにそののち、以前キルヤテ・セフェルと呼ばれたデビルを攻めました。

12 カレブは、「だれか、率先してデビルを攻撃する者はいないか。占領した者には、私の娘アクサを妻として与えるぞ」と全軍に呼びかけました。

13 カレブの弟ケナズの子オテニエルが、先陣を志願してデビルを占領し、アクサを花嫁に迎えました。

14 アクサは嫁ぐ時、夫にそそのかされて、贈り物としてもっと土地をくれるよう父に求めました。彼女がろばから降りると、カレブは尋ねました。「どうした。何か欲しいものでもあるのか。」

15 アクサは答えました。「ネゲブの地は十分に頂いたのですけれど、できれば泉も頂きたいのです。」そこでカレブは、上の泉と下の泉を彼女に与えました。

16 ユダ族が、アラデの南方ネゲブの荒野の新天地に移った時、モーセの義父の子孫であるケニ族の人々も同行しました。彼らは、「なつめやしの町」と呼ばれたエリコを離れ、以後ずっといっしょに生活しました。

17 そののちユダ軍はシメオン軍の加勢を得て、ツェファテの町に住むカナン人を打ち、彼らを滅ぼしました。今でも、その町はホルマ〔「絶滅」の意〕と呼ばれています。

18 ユダ軍はさらに、ガザ、アシュケロン、エクロンの町々と周辺の村々を手中に収めました。

19 主の助けがあったので、山地一帯の住民を滅ぼすことができたのです。ただ、谷の住民は鉄の戦車を持っていたので、征服できませんでした。

20 ヘブロンの町は、主の約束どおりカレブの手の中に落ちました。カレブは、そこに住むアナクの三人の息子を追い出しました。

21 ベニヤミン族は、エルサレムに住むエブス人を根絶やしにできませんでした。それでエブス人は、今でもイスラエル人といっしょに住んでいます。

22-23 ヨセフ族も、以前ルズと呼ばれたベテルの町を襲撃しました。主はヨセフ族とともにいました。まず、偵察隊が派遣され、

24 彼らは町から出て来た男を捕まえ、「町の城壁の出入口を教えてくれたらいのちを助けよう」と持ちかけたのです。

25 男が町に入る方法を話したので、ヨセフ族は町に攻め込み、全住民を打ちました。もちろん、その男と彼の家族だけは助かりました。

26 のちに、その男はヘテ人の地に町を建て、ルズと名づけました。今も知られているとおりです。

27 マナセ族は、ベテ・シェアン、タナク、ドル、イブレアム、メギドとその周辺の町々の住民を追い出すことに失敗しました。それでカナン人は、その地にとどまり続けました。

28 のちにイスラエルは強大になりましたが、カナン人を奴隷として働かせることはあっても、追い出すことはしませんでした。

29 ゲゼルに住むカナン人についても同じです。彼らは今もなお、エフライム族に混じって生活しています。

30 ゼブルン族も、キテロンとナハラルの住民を滅ぼすには至らず、奴隷として働かせました。

31-32 アシェル族は、アコ、シドン、マハレブ、アクジブ、ヘルバ、アフェク、レホブの住民を追い出しませんでした。それでイスラエル人は、今なお、原住民であるカナン人といっしょに住んでいます。

33 ナフタリ族は、ベテ・シェメシュとベテ・アナテの住民を追い出しませんでした。彼らは奴隷として、イスラエル人に混じって暮らし続けました。

34 ダン族の場合は、エモリ人に圧倒されて山地へ追いやられ、谷に降りることができませんでした。

35 しかし、のちにエモリ人は、ヘレス山、アヤロン、シャアルビムへと散在するにつれてヨセフ族に征服され、奴隷となりました。

36 エモリ人との境界線は、アクラビムの丘陵地帯から始まり、セラと呼ばれる地点を通り、そこから上の方に及びました。

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士師記 2

主の使いの宣言

1 ある日、主の使いがギルガルから上って来てボキムに到着し、イスラエルの民に告げました。「わたしはあなたがたを、あなたがたの先祖との約束に従って、エジプトからこの地へ連れて来た。また、あなたがたと結んだ契約を決して破らないと宣言した。

2 ただし、それには条件があったはずだ。この地の先住民と友好契約を結んではならないという条件だった。この地の異教の祭壇を取り壊せと命じたではないか。それにもかかわらず、なぜ従わなかったのか。

3 あなたがたが契約を破った以上、もはや無効だ。もう、あなたがたの地に住む諸国民を滅ぼすとは約束できない。それどころか、あの人々はあなたがたの悩みの種となり、彼らの神々は常に誘惑となるだろう。」

4 主の使いが語り終えると、人々は声を上げて泣きました。

5 それでこの地は、ボキム〔「人々が泣いた場所」の意〕と呼ばれるようになったのです。人々はそこで主にいけにえをささげました。

主に背く新しい世代

6 ヨシュアがイスラエルの全軍を解散させると、各部族はそれぞれ新しい領地を目指して移動し、各自の所有地を手に入れました。

7-9 神の人ヨシュアは百十歳で世を去り、エフライム山中、ガアシュ山の北にあるティムナテ・ヘレスの自分の領地に葬られました。ヨシュアが生きている間、人々は主に忠実でした。彼の死後も、主がイスラエルに行った驚くべきわざを目撃した長老たちの存命中は、その態度に変わりはありませんでした。

10 ところが、ヨシュアと同世代の人々がみな世を去ると、あとの世代は彼らの神を主として礼拝せず、主がイスラエルのために行ったわざさえ関心を示さなくなったのです。

11 彼らは主に禁じられたことを次から次に行い、異教の神々を拝むことさえしました。

12-14 イスラエル人をエジプトから連れ出し、先祖たちが慕い礼拝してきた神、主を捨ててしまったのです。そればかりか、近隣諸国の偶像にひれ伏し拝んだので、主の怒りが全イスラエルに対して燃え上がりました。主に背を向け、バアルやアシュタロテのような偶像を拝むイスラエル人を、主は敵のなすままに任せたのです。

15 今や、彼らが敵と戦おうと出て行っても、主が行く手をはばむことになりました。こうなることは、主が前もって警告し、はっきり告げていたことでした。それでもなお、かつてない苦境に立たされた彼らを、

16 敵の手から救い出すために、主は士師(王国設立までの軍事的・政治的指導者)を起こしました。

17 しかしイスラエルは、その士師にさえ耳を貸そうとせず、ほかの神々を拝んで、主への信仰を捨て去りました。なんと早く、彼らは主の命令に従うことを拒み、先祖が歩んだ信仰の道から離れてしまったことでしょう。

18 どの士師も生涯を通して、イスラエルの民を敵の手から救い出しました。苦しみに押しつぶされそうな人々のうめきを聞き、主があわれんだからです。こうして主は、士師のいる間はイスラエルを助けました。

19 しかし、士師が死ぬと、人々はたちまち正しい道を捨て、先祖たちよりもいっそう堕落してしまったのです。人々は再び異教の神々に祈りをささげ、地にひれ伏して礼拝するようになりました。イスラエルの民はかたくなで、周辺諸国の悪習慣から抜け出すことができませんでした。

20 それで、主の怒りが再びイスラエルに対して燃え上がりました。「この民は、わたしが彼らの先祖と結んだ契約を踏みにじったので、

21 ヨシュアが死んだ時まだ征服していなかった民を、これ以上追い出すのはやめよう。

22 むしろ彼らを用いて、イスラエル人がほんとうに先祖にならってわたしに従うかどうか試すことにしよう。」

23 このように主は、これらの民を滅ぼすことを許さず、彼らをすぐにこの地から追い出さずに残したのです。

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士師記 3

1-3 カナンで戦ったことのない、イスラエルの新しい世代を試すために、主がこの地に残しておいた諸国の民は次のとおりです。主はイスラエルの若者たちに、敵を征服することによって信仰と従順を学ぶ機会を与えようとしたのです。ペリシテ人の五つの町、カナン人、シドン人、バアル・ヘルモン山からレボ・ハマテまでのレバノン山系に住むヒビ人。

4 これらの民は新しい世代にとっての試金石となりました。モーセが与えた主の命令に、新しい世代が従うかどうかがはっきりするからです。

5 それでイスラエル人は、カナン人、ヘテ人、ヒビ人、ペリジ人、エモリ人、エブス人に混じって生活しました。

6 しかし、異民族を滅ぼすどころか、イスラエル人の若者は彼らの娘を妻にめとり、イスラエル人の娘たちも異民族の息子に嫁いだのです。やがてイスラエルの民は、異教の神々を拝むようになりました。

オテニエル

7 このように彼らは、彼らの神、主を裏切って、主の目に悪を行い、バアルやアシェラなどの偶像を拝んだのでした。

8 それで、主の怒りが燃え上がりました。イスラエルはメソポタミヤの王クシャン・リシュアタイムに征服され、八年間その支配に服することになったのです。

9 しかし、イスラエルが主に叫び求めると、主は救いの手を差し伸べ、カレブの甥オテニエルを遣わしました。

10 主の霊が彼を支配していたので、彼はイスラエルの改革と粛清を断行しました。その結果、オテニエルの率いるイスラエル軍がクシャン・リシュアタイム王の軍勢と対戦した時、主はイスラエルに加勢し、彼らに完全な勝利を収めさせたのです。

11 こうして、オテニエルが治めた四十年の間は平和が続きました。

エフデ

ところが彼が世を去ると、

12 イスラエルの民は再び罪を犯すようになりました。すると主はモアブの王エグロンに加勢し、彼らにイスラエルの一部を占領させました。

13 エグロン王と同盟を結んだのは、アモン人とアマレク人でした。同盟軍はイスラエルを破り、「なつめやしの町」と呼ばれたエリコを手に入れました。

14 こうしてその後十八年の間、イスラエルの民はエグロン王の圧制に苦しむことになったのでした。

15 イスラエル人が主に叫び求めると、主は、ベニヤミン人ゲラの子で左ききのエフデを救助者として立てました。エフデは、モアブの都に年貢を届ける務めに任じられていました。

16 彼は出発を前にして、長さ一キュビト(約四十四センチ)の両刃の短剣を作り、右ももに皮ひもでくくりつけて服の下に隠しました。

17-19 エグロン王はたいへん太っていました。貢ぎ物を渡すと、エフデは帰路につきました。ところが、町を出てギルガルの石切り場まで来た時、彼は同行の者を先に帰し、一人で王のもとへ戻ったのです。エフデは王に言いました。「王よ、内々に申し上げたいことがございます。」王はすぐに、お付きの者たちに座を外させ、二人きりになりました。

20 涼しい屋上の部屋に座っている王に歩み寄りながら、エフデは言いました。「実は、神のお告げがございまして……。」

王は、お告げを受けようと立ち上がりました。

21 すかさずエフデは左手を伸ばし、隠し持った短剣を抜き放ち、王の腹めがけて突き刺したのです。

22-23 短剣は柄までくい込んではらわたが流れ出し、刃は脂肪にふさがれて抜けなくなりました。すばやくエフデは部屋の戸に錠をかけ、階段伝いに逃げました。

24 戻って来た家来は部屋の戸に錠がかかっているので、王は用を足しているのだろうと思い、しばらく待っていました。

25 ところが、いつまで待っても王が戸を開けないので、心配になって開けてみると、なんと王は床に倒れて死んでいました。

26 その間にエフデは、石切り場を駆け抜けてセイラへ逃げました。

27 そして、エフライムの山地にたどり着くと、ラッパを吹き鳴らして兵を集め、全軍を指揮下に置いたのです。

28 「私に続け。主はモアブに勝たせてくださるぞ!」エフデは全軍に呼びかけました。エフデは進軍し、モアブに通じるヨルダン川の渡し場を押さえて、人っ子ひとり通らせないようにしました。

29 それからモアブを襲い、屈強のモアブの勇士、約一万人を打ち、一人も逃しませんでした。

30 モアブはその日のうちに征服され、そののちイスラエルには八十年の間、平和が続きました。

シャムガル

31 エフデの次に士師になったのは、アナテの子シャムガルでした。彼は牛の突き棒で、ペリシテ人を一度に六百人も打ち、イスラエルを災いから救いました。

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士師記 4

デボラ

1 エフデが世を去ると、イスラエルの民はまた主に罪を犯しました。

2-3 それで主は、ハツォルにいたカナン人の王ヤビンにイスラエルを征服させたのです。王の軍の将軍はシセラで、ハロシェテ・ハゴイムに住んでいました。彼は鉄の戦車九百台をかかえ、二十年間イスラエル人を悩まし続けたので、イスラエル人はついに主に助けを求めました。

4 そのころイスラエルの指導者で民を神に立ち返らせる務めを負っていたのは、ラピドテの妻、女預言者デボラでした。

5 彼女は、エフライム山中のラマとベテルの間にある「デボラのなつめやしの木」と呼ばれる場所にいて、人々はそこに行って争い事を裁いてもらっていたのです。

6 ある日デボラは、ナフタリの地のケデシュに住むアビノアムの子バラクを呼び寄せ、言い渡しました。「イスラエルの神、主があなたに、ナフタリとゼブルンの両部族から一万人を動員せよとおっしゃっています。その一万の兵を率いてタボル山へお行きなさい。

7 もちろん戦う相手は、ヤビン王の軍勢、シセラ将軍の指揮のもとで戦車を擁する大軍です。主は、『敵をキション川に引き寄せるから、そこで打ち破れ』とおっしゃいます。」

8 バラクは彼女に言いました。「わかりました。ご命令のとおりにしましょう。しかし、あなたにもごいっしょ願いたいのです。」

9 「いっしょに行きましょう。ただし今のうちに言っておきますが、シセラを倒す栄誉はあなたではなく、一人の女が受けることになりますよ。」こう言って、デボラはバラクとともにケデシュへ向かいました。

10 バラクがゼブルンとナフタリの人々から義勇兵を募ると、一万人がケデシュに結集しました。デボラもいっしょでした。

11 さて、モーセの義兄弟ホバブの子孫のケニ人でヘベルという人が、氏族の者から離れて、ケデシュ近郊のツァアナニムの樫の木の近くに天幕を張っていました。

12 将軍シセラは、バラクの率いるイスラエル軍がタボル山に陣を敷いたとの知らせを受けて、

13 鉄の戦車九百台を備えた全軍を動員し、ハロシェテ・ハゴイムからキション川へと進みました。

14 その時、デボラはバラクに言いました。「さあ、今こそ攻撃のチャンスですよ。主が先頭に立っておられます。もうシセラのいのちはあなたの手に渡されています。」そこでバラクは、一万人を率いてタボル山を下り、戦いに臨みました。

15 主がシセラの兵と戦車隊をパニックに陥れたので、敵は総くずれとなり、シセラは戦車から飛び降り、走って逃げ出しました。

16 バラクの軍隊は、敵兵と戦車をハロシェテ・ハゴイムまで追いつめ、ついに打ち滅ぼし、生き残った兵は一人もいませんでした。

17 ところがシセラだけは、ケニ人ヘベルの妻ヤエルの天幕に逃げ込みました。ハツォルの王ヤビンとヘベルの一族との間は友好関係にあったからです。

18 ヤエルはシセラを迎えに出て、「まあ、シセラ様、どうぞお入りくださいませ。ここならもう安心、ご心配には及びません」と言いました。そして天幕に入ったシセラに、毛布をかけて休ませました。

19 シセラは、「頼む、水をくれないか。のどがからからだ」と訴えました。ヤエルは牛乳を与え、また、毛布をかけてやりました。

20 シセラは、「お願いだ、天幕の入口で見張っていてくれ。もし、だれかが私を捜しに来ても、『ここにはいない』と追っ払ってほしい」と頼みました。

21 しかしヤエルは、先のとがったテントの杭と槌を手に取るや、眠っているシセラに忍び寄り、こめかみ目がけて打ち込んだのです。杭は地面をも刺し通し、シセラの息の根を止めました。疲労困憊して眠りこけていたからです。

22 バラクがシセラを捜して追って来た時、ヤエルは迎えに出て、「どうぞこちらへ。あなたがお捜しの方をお目にかけます」と言いました。案内されるままに中へ入ると、杭がこめかみに突き刺さったまま死んでいるシセラの姿がありました。

23 こうして、その日のうちに、主はカナンの王ヤビンの軍勢を打ち破らせたのです。

24 その時以来、イスラエルの勢力はしだいに王ヤビンを圧するようになり、ついにヤビンとその民を絶ち滅ぼしました。

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士師記 5

デボラの歌

1 デボラとバラクは、この大勝利をたたえて歌いました。

2 「主をほめたたえよ。

イスラエルの指導者が雄々しく先頭を行くと、

民は喜んで従った。

そうだ、主をほめたたえよ。

3 王よ、君主よ、耳を傾けよ。

イスラエルの神、主にささげる私の歌声に。

4 主がセイルからわれわれを導き出し、

エドムの平原を進まれた時、

地は震え、天は雨を降らせた。

5 イスラエルの神、主の前では、

シナイ山さえ揺れ動いた。

6 シャムガルの日々に、ヤエルの日々に、

街道は荒れ果て、

旅人は細いわき道を通った。

7 デボラがイスラエルの母となるまでは、

イスラエルの人口は減り続けた。

8 イスラエルが新しい神々を選んだ時、

すべてが衰えた。

いったい、どこのだれが盾や槍を持たせてくれるというのか。

イスラエルの兵四万のうちから武器は消えた。

9 喜んで自らをささげるイスラエルの指導者たちの姿に、

どれほど私は喜んだことか。

主をほめたたえよ。

10 全イスラエルよ、貧しい者も富む者も賛美の列に加われ。

さあ、白いろばに乗り、豪華な敷物に座る者も、

歩くほかない貧しい者も。

11 村の楽隊は井戸の回りに集まり、

主の勝利を歌う。

くり返しくり返し、

主がどれほど、農民の軍隊イスラエルをお助けくださったかを。

主の民は、城門を通って行進した。

12 目を覚ませ、デボラ。

高らかに歌え。

起きよ、バラク。

アビノアムの子よ、とりこを引き連れて進め。

13-14 生き残った者は堂々と

タボル山から下りて来た。

主の民は、大敵を向こうに回して降りて来た。

エフライムから、ベニヤミンから

マキルから、ゼブルンからやって来た。

15 イッサカルの指導者は

デボラやバラクともども谷へと下った。

谷を突進することが、主のご命令だから。

ルベン族は出て行かなかった。

16 なぜ、おまえは牧場の柵内の家に座し、

羊飼いの笛をもてあそんでいたのか。

そうだ。ルベン族は落ち着きを失っている。

17 なぜ、ギルアデはヨルダン川の向こうでとどまったのか。

なぜ、ダンは舟から下りて来なかったのか。

なぜ、アシェルは海辺に座り込み、

波止場でのんきにかまえていたのか。

18 しかし、ゼブルンとナフタリの両部族は

いのちを賭して戦場に赴いた。

19 カナンの諸王はメギドの泉のほとりタナクで抗戦したが、

勝利は得られなかった。

20 天の星さえもシセラと戦った。

21 キションの逆巻く流れが彼らを押し流したのだ。

わが心よ、勇ましく進め。

22 聞け、敵軍のひづめが地を踏み鳴らす音を。

見よ、軍馬が跳ね回る姿を。

23 だが、主の使いはメロズの町にのろいをかけた。

『その住民を激しくのろえ。

主の民を助けにも来ず、

敵と戦いもしなかった者たちめ』と。

24 祝福あれ、ケニ人ヘベルの妻、ヤエルに。

天幕に住む女のうち、

彼女ほど祝福された者はない。

25 水を求めるシセラに

ヤエルは高価なコップで牛乳を勧めた。

26 天幕の杭と職人の槌とを手に取るや、

シセラのこめかみを刺し通し、

その頭を砕いた。

杭が頭を刺し通すまで打ち続けた。

27 ついにシセラはヤエルの足もとに倒れて死んだ。

28 シセラの母は、窓から外を眺めながら、

息子の帰りを待っていた。

『なぜ、あの子の戦車はなかなか戻らないのか。

なぜ、あの車の音が聞こえないのか。』

29 女官たちは答え、母もくり返した。

30 『戦利品が多くて分配に手間取るのでしょう。

勇士はおのおの、一人か二人の娘をあてがわれ、

シセラ様は豪華な織物を手にし、

贈り物をどっさり携えてお帰りになるでしょう。』

31 主よ、敵をみなシセラのように滅ぼしてください。

主を愛する者を太陽のように輝かせてください。」

そののち、イスラエルには四十年間、平和が続きました。

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士師記 6

ギデオン

1 やがてイスラエルの民は、またもや他の神々を拝み始めました。それで主は、敵を起こしてイスラエルを懲らしめたので、彼らはミデヤン人に七年間苦しめられることになりました。

2 ミデヤン人はとても残忍だったので、イスラエル人は山に難を避けて、洞窟やほら穴に身を隠しました。

3-4 また、イスラエル人が種をまくと、ミデヤン人やアマレク人をはじめ、近隣の国から略奪者が来て農作物を荒らしたり、ガザに至るまで各地を荒らし回り、食糧を全部奪い取ったのです。羊、牛、ろばも奪って行きました。

5 彼らはおびただしい数のらくだの群れを連れて来て、その地を荒らし尽くすまで動きませんでした。

6 そのためイスラエルは、ミデヤン人のために衰え果ててしまいました。

7 ついに、たまりかねた人々は、主に助けを求めて叫びました。

8 主は一人の預言者を遣わして応えました。「イスラエルの神、主は、あなたがたをエジプトでの奴隷生活から救い出してくださった。

9 また、エジプト人やあなたがたを苦しめる者たちの手から助け出し、敵を一掃して、この地を与えてくださったのだ。

10 その神様が、『わたしは、あなたがたの神である主だ。あなたがたの回りを取り囲むエモリ人の神々を拝んではならない』とお命じになったではないか。それなのに、あなたがたは聞き従わなかった。」

11 ある日、主の使いが現れ、アビエゼル人ヨアシュの農地内にあるオフラの樫の木の下に座っていました。ヨアシュの子ギデオンは、酒ぶね〔ぶどうを絞ってぶどう酒を作るために、岩に掘られた箱形の穴〕の中で小麦を打っていました。ミデヤン人から身を隠していたのです。

12 主の使いはギデオンの前に立ち、「勇士よ、主はあなたとともにおられる」と告げました。

13 ギデオンは答えました。「初めてお目にかかりますが、どうか教えてくれませんか。主が共におられるのなら、なぜ、こんなことが次から次へと起こるのですか。先祖から聞かされました。主がエジプトから導き出してくださった時には、驚くべきみわざがたくさん行われたと。なのに、今はどうです。そんなみわざのかけらもないではありませんか。もう主は私たちを見捨てて、ミデヤン人にしたい放題をさせ、踏みつけられるに任せておられるのです。」

14 すると主は、ギデオンに向かって言いました。「わたしがあなたを強くする。行きなさい。イスラエルをミデヤン人から救い出すのだ。わたしがあなたを遣わす。」

15 ギデオンは答えました。「主よ、とんでもありません。私がイスラエルを救うことなど、できるわけありません。私の家はマナセ族の中で最も弱く、それに私は家で一番年下なのです。」

16 主は彼に言います。「神であるわたしがついているのだ。だからあなたは、たちどころにミデヤンの大軍を打ち破ることができる。」

17 「もしそれがほんとうなら、その証拠にしるしを見せてください。今、語りかけてくださっているあなたが主であることを見せてほしいのです。

18 でも、少し待っていてくださいませんか。あなたに贈り物を差し上げたいのです。」

「わかった。あなたが戻るまで待っていよう。」

19 ギデオンは大急ぎで家に駆け込んで子やぎを一匹焼き、一エパ(約二十二リットル)の粉で種を入れないパンをこしらえました。次いで肉をかごに詰め、スープをなべに入れて、樫の木の下にいる御使いのところに持って来て差し出しました。

20 すると、御使いはギデオンに言いました。「肉とパンをあそこの岩の上に置いて、スープをかけてみなさい。」ギデオンが言われたとおりにすると、

21 御使いは手にしていた杖で肉とパンにさわりました。すると、たちまち岩から火が燃え上がり、肉とパンを焼き尽くしてしまったのです。その瞬間、御使いの姿は見えなくなりました。

22 ギデオンは、ほんとうにそれが主の使いであったと知って、思わず叫びました。「ああ、主なる神様! 私は面と向かって主の使いを見てしまいました。」

23 すると、主の声がありました。「大丈夫だ、心配しなくていい。あなたは死にはしない。」

24 ギデオンはそこに祭壇を築き、「主との平和の祭壇」と名づけました。この祭壇は、今もアビエゼル人の地オフラにあります。

25 その夜、主はギデオンに、父親の一番上等の雄牛を、父親の持っているバアルの祭壇のところへ引いて行き、祭壇を引き倒し、そばにある女神アシェラの木像を切り倒すように命じました。

26 「さあ、わたしのために、高い所に石を積んで祭壇を築き直しなさい。次に、さっきの雄牛を焼き尽くすいけにえとして祭壇にささげ、壊した木像をくべて火をたきなさい。」

27 そこでギデオンは、十人の使用人を駆り出して、命じられたとおりにしました。ただ、家族や町の人々の目をはばかって、夜中にそれを行いました。もし見つかれば、どんな目に会うかわかっていたからです。

28 翌朝早く、町がにぎわい始めるころ、人々は、バアルの祭壇が取り払われ、そばのアシェラの偶像も壊されて、代わりに新しく築かれた祭壇の上に雄牛のいけにえがささげられているのを見つけました。

29 「いったい、どこのだれがやったのだ。」人々は調べ回り、ついにヨアシュの子ギデオンのしわざであることを突き止めました。

30 人々はヨアシュに怒りをぶつけました。「息子を出せ! あんなやつは殺してやる! よくもバアル様の祭壇をめちゃめちゃにして、おまけにアシェラ様の像まで壊してくれたな。」

31 しかしヨアシュは、たけり狂う人々を前にして言い返しました。「バアル様は、おまえたちに助けてもらわなきゃならないのか。なんとだらしない神様なのだ。おまえたちはこんな情けないバアル様のために、いのちを投げ出そうというのか。もしほんとうの神様なら、ご自分の祭壇を壊した者など、さっさとやっつけておしまいになればいいのだ。」

32 この時からギデオンは、「エルバアル」とあだ名されるようになりました。「バアルは自分の面倒ぐらい見るがよい」という意味です。

33 それからしばらくして、ミデヤン人、アマレク人、その他の近隣諸国が連合してイスラエルに対抗しようと兵を挙げ、その軍勢はヨルダン川を渡り、イズレエルの谷に陣を敷きました。

34 すると、主の霊がギデオンをとらえたので、ギデオンが召集ラッパを吹き鳴らすと、アビエゼルの男たちが結集しました。

35 マナセ、アシェル、ゼブルン、ナフタリにも使者を送り、戦士を募ると、みな応じました。

36 ギデオンは神に願い出ました。「お約束どおり、イスラエルを救うために私を立ててくださるおつもりなら、

37 今夜、打ち場に羊の毛を置いておきますから、明日の朝、羊の毛だけが露でしめり、土が乾いているようにしてください。そうすれば、あなたがついていてくださるのだと確信できます。」

38 すると翌朝、そのとおりのことが起こりました。ギデオンが早く起きて羊の毛をしぼると、鉢いっぱいの水がしたたり落ちたのです。

39 ギデオンはまた主に願いました。「どうか、お怒りにならないでください。もう一度だけ試させていただきたいのです。今度は反対に、羊の毛だけを乾かして、地面全体をしめらせてください。」

40 主はギデオンの願いどおりにされました。その夜、羊の毛は乾いたままで、地面は露で覆われていたのです。

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士師記

士師記 7

ミデヤン軍との戦い

1 それで、エルバアル、すなわちギデオンの率いる軍勢は朝早く出立し、ハロデの泉まで進みました。ミデヤンの連合軍はその北の方、モレの山沿いの谷に陣を敷いていました。

2 その時、主はギデオンにこのように告げました。「兵が多すぎる。このままでミデヤンと戦わせるわけにはいかない。イスラエルの民が自力で勝ったつもりになって、わたしに対して誇ってしまうかもしれないからだ。

3 臆病風に吹かれている者は、すぐに家に帰らせなさい。」すると、兵のうち二万二千人が去り、戦闘意欲のある者だけ一万人が残りました。

4 しかしなお主はギデオンに、「まだ多すぎる。全員を連れて泉のほとりに下りなさい。だれがあなたとともに行くべきで、だれが行くべきでないか、はっきりと示そう」と言います。

5-6 ギデオンは一同を水辺に集合させました。すると主の声があって、「水の飲み方で全員を二組に分けなさい。手で水をすくい、口にあてて飲む者と、かがみ込んで犬のように口を水につけて飲む者とを振り分けなさい。」すると、手で水をすくって飲んだのは三百人だけで、ほかの者はみな、水に口をつけて飲んだのです。

7 そこで主はギデオンに言われました。「わたしは、手ですくって飲んだ三百人でミデヤン人を征服しよう。残りの者はすべて家へ帰らせなさい。」

8-9 ギデオンは、彼らが持っている兵糧用のつぼと角笛(ラッパ)を供出させてから、三百人だけを残し、あとの者は帰宅させました。

さて、ミデヤン人の陣営はギデオンたちの所から眼下に見下ろせる谷にありました。その夜、主はギデオンに命じました。「起きなさい! ミデヤンの陣地に突入しなさい! 必ず勝利するから。

10 しかし心配なら、部下のプラを連れて敵陣に侵入し、

11 敵の間でどんな会話が交わされているか、自分の耳で確かめるがいい。勇気百倍になって攻撃に出られるはずだ。」

ギデオンはプラを連れ、闇にまぎれて敵の前哨基地にもぐり込みました。

12-13 ミデヤン人、アマレク人、そのほか東方諸国の兵士がいなごのように谷に群がり、らくだも浜辺の砂のように数えきれないほどでした。一つの天幕まで近づくと、ちょうど一人の男が、彼の見た恐ろしい夢を仲間に話しているところでした。「全くいやな夢を見たよ。どでかい大麦のパンのかたまりが、この陣地めがけて転がり落ちて来るのさ。それで、テントをぺしゃんこにしてしまうのだ。」

14 「そりゃ、こうに違いないよ。イスラエル軍にヨアシュの子のギデオンというのがいてな、そいつがわれわれ連合軍を全滅させようとしてるんだ。」

15 これを聞いたギデオンは、その場に立ち尽くしたまま、主を礼拝しました。すぐさまイスラエルの陣営に取って返し、こう叫びました。「集まれ! 主はわれわれの手にミデヤンの大軍を渡してくださるのだ!」

16 彼は三百人を三隊に分け、めいめいに角笛とつぼを持たせました。つぼには、たいまつが隠してありました。

17 「よいか。敵の最前線に着いたら、私がするとおりにするのだ。

18 私と私の部隊の者が角笛を吹いたら、ほかの部隊の者も敵陣をぐるりと取り囲んで、いっせいに角笛を吹き鳴らせ。そして、『主のために、ギデオンのために戦うぞ!』と叫ぶのだ。」

19-20 ギデオンの率いる百人が、ミデヤン軍の前線に忍び込んだ時は真夜中で、ちょうど歩哨の交替が終わったところでした。この時とばかり、彼らはラッパを吹き鳴らし、つぼを打ち砕きました。暗闇の中で、たいまつがぱっと燃え上がります。ほかの二百人も同じようにしました。右手に持ったラッパを吹き鳴らし、左手にたいまつを掲げながら大声で叫んだのです。「主のために、ギデオンのために戦うぞ!」

21 敵の大軍は大混乱に陥り、右往左往し、悲鳴を上げて逃げ出しました。イスラエル軍は、ただ立って見ているだけで十分でした。

22 大混乱の中で、主はミデヤン軍全体が同士打ちするようにさせたので、そこは修羅場と化し、生き延びた者たちは闇の中をツェレラ近くのベテ・ハシタや、タバテに近いアベル・メホラの境界まで逃げて行きました。

23 ギデオンは、ナフタリ、アシェル、マナセの軍隊を呼び寄せ、逃走中のミデヤン軍を追撃して滅ぼすよう命じました。

24 また、エフライムの山地全域に使者を送り、エフライム人にベテ・バラにあるヨルダン川の渡し場を押さえさせ、ミデヤン軍の退路を閉ざしました。

25 彼らはミデヤン軍の二人の将軍、オレブとゼエブを捕らえ、オレブは、今では「オレブの岩」と呼ばれるようになった岩の上で殺され、ゼエブも、「ゼエブの岩」と呼ばれるようになった酒ぶねの中で殺されました。こうしてイスラエル軍は、ヨルダン川の西側にいたギデオンのもとに二人の首を届けました。

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士師記

士師記 8

ギデオンの追撃

1 ところが、エフライム人の指導者たちはギデオンに詰め寄り、激しく彼を責めました。「ミデヤン人との初陣で、なぜわれわれに声をかけてくれなかったのだ。」

2-3 「あなたがたには、神様がちゃんと、ミデヤンの将軍オレブとゼエブを捕らえさせてくださったではないですか。それに比べたら私のしたことなど取るに足りません。この戦いの最後を飾ったのはあなたがたですよ。そのほうが、戦いをしかけるよりも大仕事だったのではありませんか。」ギデオンの答えに、彼らはようやく怒りを収めました。

4 それから、ギデオンと三百人の兵士はヨルダン川を渡りました。かなり疲れていましたが、追撃の手はゆるめません。

5 ギデオンは、スコテの人々に食べ物をくれるよう頼みました。「われわれは、ミデヤン人の王ゼバフとツァルムナを追いかけているが、くたくたのうえ空腹なんです。」

6 しかし、スコテの指導者たちからは冷淡な返事が戻ってきただけでした。「まだゼバフとツァルムナを捕らえたわけではないだろう。食べ物を恵んだのに負けられでもしたら大変なことになる。あいつらはここへ来て、われわれを殺すに違いないから。」

7 そこでギデオンは、こう警告しました。「主が二人を捕らえさせてくださったあかつきには、ここに戻って来て、野のいばらやとげで、おまえたちの身を引き裂いてくれよう。」

8 それからペヌエルに上り、食糧を求めたところ、ここでも同じ返事でした。

9 そこで、ギデオンはペヌエルの人々にも警告しました。「この戦いに決着がついたら、戻って来てこのやぐらをたたき壊してやる。」

10 そのころゼバフ王とツァルムナ王は、残りの兵一万五千とともにカルコルにたてこもっていました。これが生き残ったすべてで、すでに連合軍の兵士は十二万人が戦死していたのです。

11 ギデオンは、ノバフとヨグボハの東にある隊商路を迂回して、ミデヤンの陣営を急襲しました。

12 二人の王は逃げ出しましたが、ギデオンが追いかけて捕らえたので、敵軍は総くずれとなりました。

13 戦いがすんで、ギデオンはヘレスの坂道を通って帰路につきましたが、

14 その時、スコテから一人の若者を捕らえて来て、町の七十七名の名前を挙げさせました。

15 そこで、ギデオンはスコテに取って返し、こう言いました。「よくも、ゼバフ王やツァルムナ王を捕らえられないだろうとあざけってくれたな。それに、疲れて空腹をかかえていたわれわれに、パン一つ与えなかった。よく見るがいい。これがゼバフとツァルムナだ。」

16 ギデオンは町の重要人物を捕らえ、野生のいばらやとげを取って彼らを打ち、

17 またペヌエルにも赴いて町のやぐらを破壊し、男子全員を殺しました。

18 それからギデオンは、ゼバフ王とツァルムナ王に問いただしました。「おまえたちがタボル山で殺した者たちはだれに似ていたか。」

「あなたと同じような服を着ていました。まるで王子のようでした。」

19 「ああ、私の兄弟に違いない。誓ってもいい。彼らを殺さずにいてくれたら、おまえたちを助けてやったのに。」

20 ギデオンは長男エテルに、二人を殺すように命じました。しかし、エテルはまだ少年だったので、恐ろしくて剣を抜くことができません。

21 ゼバフとツァルムナはギデオンに懇願しました。「あなた自身が手を下してください。われわれも、あなたのような大人に殺されたほうがいい。」そこで、ギデオンがとどめを刺し、二人のらくだの首にかけてあった飾りをはずしました。

22 その時、イスラエルの人々は叫びました。「ばんざい!あなたもご子息も、子々孫々に至るまで私たちを治めてください。あなたが私たちをミデヤン人からお救いくださったのですから。」

23-24 しかし、ギデオンは答えました。「私は王にはならない。息子もそうだ。主があなたがたを治める王だ。そこで、一つ聞いてほしいことがある。敵から分捕った耳輪を私に渡してもらえないか。」ミデヤン軍はイシュマエル人だったので、金の耳輪をつけていたのです。

25 「喜んで」と彼らは答え、上着を広げると、一人一人、分捕り物の耳輪を投げ込みました。

26 集まった金の耳輪は全部で千七百シェケル(約二十キログラム)にも上りました。このほかにも、投げ込まれた三日月形の飾り、垂れ飾り、王衣、らくだの首飾りなどがありました。

27 ギデオンはそれらの金で、エポデ〔そでなしの上着。普通は祭司が着るが、ここでは金の装飾がついて重く、壁にかけた〕を作り、自分の町オフラに置きました。ところが、イスラエル人はみな、それを拝んで淫行にふけるようになり、ギデオンとその一族にとって悪への落とし穴となりました。

28 以上が、ミデヤン人がイスラエル人に屈服するに至った経過です。ミデヤン人は二度と立ち直れず、ギデオンが生きている四十年間は、イスラエルに平和が続きました。

ギデオンの死

29 ギデオンは自分の家に帰ってそこに住みました。

30 彼には息子が七十人もいました。大ぜいの妻がいたからです。

31 また、シェケムにも内縁の妻が一人おり、アビメレクという男の子がいました。

32 年老いたギデオンはついに世を去り、アビエゼル人の地オフラにある、父ヨアシュの墓に葬られました。

33 ギデオン亡きあと、イスラエル人はたちまちバアルやバアル・ベリテの偶像崇拝に陥りました。

34 周囲のすべての敵から救い出してくださった彼らの神、主を、もう心に留めようとはしなかったのです。

35 人々はギデオンの数々の功績を忘れ、その一族を手厚く待遇することも怠りました。

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士師記

士師記 9

アビメレクの暴虐

1 ある日、ギデオンの息子アビメレクは、シェケムに住む母方のおじたちを訪ねて言いました。

2 「シェケムのすべての首長のところへ行って話していただけませんか。ギデオンの七十人の息子に支配されるのがよいか、それとも、皆さんの身内である私に支配されるのがよいか尋ねてほしいのです。」

3 おじたちは町の首長を訪ね、アビメレクの考えを伝えて相談しました。すると、母親がこの町の者だということで、彼らはアビメレクを受け入れたのです。

4 事が決まると、彼らはバアル・ベリテの偶像にささげた金を、仕度金としてアビメレクに渡しました。彼はさっそくその金で、自分の言いなりになりそうなならず者たちを雇いました。

5 そして、彼らを率いてオフラにある父の家に行き、そこにある石の上で、腹違いの兄弟七十人を殺してしまったのです。ただ、最年少のヨタムだけは隠れていたため生き延びました。

6 シェケムとベテ・ミロの住民は、シェケムの要塞のそばにある樫の木の下に集まって相談し、アビメレクをイスラエルの王にまつり上げました。

7 これを知ったヨタムは、ゲリジム山の頂上に立ち、シェケムの人々に大声で叫びました。「神に祝福されたければ、私の言うことを聞いてくれ。

8 昔、木々が自分たちの中から王を選ぶことにした。最初に、オリーブの木に王になってくれと頼んだが、

9 断られてしまった。『私は神と人とを祝福するためのオリーブ油を作り出すのが楽しいんだよ。ただ木々の上にそよいでいるだけだなんて、まっぴらだ。』

10 それで木々たちは、いちじくの木に、『あなたこそわれわれの王だ』と言った。

11 しかし、いちじくの木も断った。『甘い実をならすのをやめてまで、ほかの木の上に頭をもたげようとは思わない。』

12 それで、ぶどうの木に、『どうか私たちを治めてください』と頼んだ。

13 しかし、ぶどうの木も断った。『私は神と人とを楽しませるぶどう酒を作り出すのをやめてまで、ほかの木より偉くなろうなんて思わない。』

14 そこで、とうとういばらに、『あなたが王になってくれないか』と懇願した。

15 いばらは答えた。『ほんとうにそう思うのなら、私の陰に身を低くしてもらおう。それがいやなら、私から火が燃え上がって、レバノンの大杉まで焼き尽くしてしまうから。』

16 さあ、はっきりしてもらいたい。アビメレクを王にしたことは正しいことだったかどうか。それが、ギデオンとその家族を正しく扱ったことになるかどうか。

17 私の父はあなたたちのために戦い、命がけでミデヤン人から救い出した。

18 それなのに、あなたたちは父に反逆し、息子七十人を石の上で殺すようなまねをした。そのうえ、女奴隷の子アビメレクを、身内というだけで王にした。

19 これがギデオンとその家族とに対する正しい態度であるなら、あなたたちもアビメレクも末長く幸福だろう。

20 だが、もし正しくないなら、アビメレクはシェケムやベテ・ミロの住民と、互いを滅ぼし合うことになるだろう。」

21 そののちヨタムは、アビメレクを恐れてベエルに逃げ、そこに住みつきました。

22-23 三年が過ぎたころ、神がアビメレク王とシェケムの住民との間にもめ事を起こさせたので、シェケムの住民は、アビメレクに反旗をひるがえしました。

24 その結果、アビメレクと、ギデオンの七十人の息子殺害に加担した者たちとに、殺人に対する報復がなされることになったのです。

25 シェケムの住民は、峠の小道のわきに、アビメレクを待ち伏せする者を潜ませました。ところがその者たちが、手当たりしだいに通行人を襲って略奪したので、やがてこの陰謀はアビメレクの知るところとなりました。

26 当時、エベデの子ガアルが兄弟といっしょにシェケムに移住し、町の要職に就いていました。

27 その年の収穫祭が、シェケムの彼らの神の宮で催されていた時のことです。ぶどう酒の酔いが回ると、人々は口々にアビメレクの悪口を言い始めました。

28 ガアルは大声で言いました。「アビメレクが何だっていうんだ。どうしてあいつが王にならなきゃならないのだ。あんなやつにペコペコしていられるか。やつも仲間のゼブルも、私たちが仕えるような者たちなのか。

29 みんな、私に託してくれるなら、あんなやつ、あっという間に片づけてやる。アビメレクよ! せいぜい強い者を集めて出て来い! いつでも相手になってやる。」

30 町長のゼブルはガアルの暴言を聞くと、怒りに震えました。

31 さっそくアルマにいるアビメレクに使者を遣わして、こう言わせたのです。「エベデの子ガアルが、身内の者といっしょにシェケムに来ています。彼らは今、町中をあなたに背かせようとやっきになっています。

32 夜のうちに兵を率いて野へ行き、隠れていてください。

33 朝早く、日が昇るころ、町に突入するのがよろしいでしょう。ガアルとその一味が手向かって来たら、それこそ、思いどおりに打ち負かすことができます。」

34 アビメレクとその部隊は夜中に出動し、四隊に分かれて、シェケムの町を取り囲みました。

35 翌朝、ガアルが町の長老と話し合うために町の門のところに座った時、アビメレクの部隊は、いっせいに攻撃を開始しました。

36 それを見たガアルは、ゼブルに叫びました。「見ろ、あの山を! 大ぜい駆け降りて来るぞ。」

「いや、山の影が人のように見えるだけですよ。」

37 「なに、私の目がふし穴だと言うのか。よく見ろ! 確かに人がこっちへ来る。ほかの一組は、メオヌニムの樫の木の方から来るぞ。」

38 するとゼブルは向き直り、勝ち誇って言いました。「あれほど大口をたたいたのは、どこのどなたですか。『アビメレクがどうした! なんであんなやつを王にした!』とわめいたのはだれでしたかね。あなたが見くびってののしった者たちが、町を取り囲んだではありませんか。さあ、早く戦ったらどうです。」

39 そこで、ガアルはシェケムの住民を率いて、アビメレクと一戦を交えました。

40 しかし、たちまち打ち負かされ、町の門のところまで死傷者があふれかえりました。

41 アビメレクはその後もアルマにとどまり、ゼブルはガアルとその一族をシェケムから追放し、二度と住まわせないようにしました。

42 翌日、シェケムの住民は再び戦おうと出て行きましたが、そのことをアビメレクに通報する者があったので、

43 彼は兵を三隊に分け、野で待ち伏せました。そして、住民が勇んで出て来たところを襲いかかったのです。

44 アビメレクとともにいた部隊は、彼らが引き返せないように町の門を占拠し、ほかの二隊は野で彼らを打ち殺しました。

45 戦闘は一日中続き、ついにアビメレクは町を占領し、住民を殺して町を破壊しました。

46 これを見て、近くのミグダルの町の住民は、バアル・ベリテの宮に続くとりでに逃げ込みました。

47-48 このことを聞いたアビメレクは、兵を率いてツァルモン山に登り、斧で木の枝を切り、束ねて背負うと、「私のやるようにしなさい」と彼らに命じました。

49 そこで彼らはめいめい急いで枝を切って束ね、かついでとりでの町に引き返しました。そしてアビメレクのするとおり、たきぎをとりでの回りに積み上げ、火をつけたのです。それで、とりでの中にいた約千人の男女が焼け死にました。

50 次にアビメレクは、テベツの町を攻撃し、占領しました。

51 しかし、町にはとりでがあったので、住民はみな、そこに逃げ込み、バリケードを築いて立てこもり、屋根に見張りを立てました。

52 そこで、アビメレクがとりでを焼き打ちにしようと近づいた時、

53 屋根の上にいた一人の女が石臼を投げたのです。それがアビメレクの頭上に落ち、頭蓋骨を打ち砕きました。

54 「殺してくれ!」苦しむアビメレクは、よろい持ちの若者に向かってうめきました。「女の手にかかって死んだなど言われてたまるか。」ほかにどうしようもなく、その若者は剣でアビメレクを刺し通しました。これがアビメレクの最期でした。

55 彼の兵たちは、アビメレクが死んだのを見て散り散りになり、家へ帰ってしまいました。

56-57 こうして神は、ギデオンの七十人の息子殺害の罪を、アビメレクとシェケムの人々に報いたのです。同時に、生き残ったギデオンの末子ヨタムののろいも実現したのです。

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