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創世記 20

ゲラル滞在

1 さて、アブラハムは南のネゲブ地方へ移り、カデシュとシュルの間に住みました。そして彼がゲラルの町にいた時、

2 妻サラを妹だと言ったので、アビメレク王は彼女を王宮に召し入れました。

3 ところがその夜、神が夢で王に現れました。「あなたは夫のある女を召し入れた。そのために死ななければならない。」

4 しかしアビメレクは、まだ彼女に近づいてはいませんでした。「とんでもないことです、主よ。

5 自分の妹だと言ったのは、あの男のほうです。それに彼女自身も、『ええ、彼は兄です』と言ったのです。私には、やましさなど全くありません。」

6 「それはよくわかっている。だから、あなたが罪を犯さないようにしたのだ。彼女に指一本ふれさせないように、わたしが仕向けたのだ。

7 さあ、彼女を夫のもとに返しなさい。彼は預言者だから、あなたのために祈ってくれるだろう。そうすればあなたは助かる。だが、彼女を返さなければ、あなたもあなたの一族も、いのちはない。」

8 翌朝、王は早く起き、宮殿で働く者を全員を集めました。王からこれらのことを聞いた者たちはみな、恐ろしさに震え上がりました。

9-10 このあと、王はアブラハムを呼び寄せました。「いったいなんということをしてくれたのか。もう少しで、私も国も、たいへんな罪を犯すところだった。こんな仕打ちを受ける覚えはさらさらない。私があなたに何をしたというのか。どうして、こんなひどいことを考えついたのだ。」

11-12 アブラハムは答えました。「実を言うと、この町は神を恐れない町だと思ったのです。ですから、きっと私を殺して妻を奪うだろうと思いました。それに、彼女が妹だというのはうそではありません。腹違いの妹で、私の妻となったのです。

13 そんなわけで、神の命令で故郷を発つ時、妻には、『これからどこへ行っても、おまえは私の妹だということにしてほしい』と頼んでおいたのです。」

14 アビメレク王は、羊と牛と男女の奴隷をアブラハムに与え、妻のサラを返しました。

15 王は、「さあ、私の領地を見てごらんなさい。どこが気に入りましたか。どこでも好きな所に住んでかまいません」とアブラハムに言うと、

16 サラのほうを向いて続けました。「あなたの『お兄さん』に、弁償金として銀貨一千枚を差し上げることにしよう。それで万事収めてもらえないだろうか。これで、間違いはなかったと認められるだろう。」

17 アブラハムは神に、王と王妃をはじめ、一族のすべての女性の病が治るようにと祈ったので、彼女たちはまた子どもを産むようになりました。

18 というのは、アビメレクがアブラハムの妻を召し入れた罰で、みな子どもができないようにされていたのです。

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創世記

創世記 21

イサクの誕生

1-2 さて神は、約束どおりのことをなさいました。サラは子どもを身ごもり、年老いたアブラハムの息子を産んだのです。その時期も、神が言われたとおりでした。

3 アブラハムはその子をイサク〔「笑い声」の意〕と名づけました。

4-5 そして、生まれて八日目に、神から命じられたとおり、割礼を受けさせました。この時、アブラハムは百歳でした。

6 サラは言いました。「神様は、私を笑えるようにしてくださった。私に赤ちゃんができたと知ったら、皆さんがいっしょに喜んでくれるでしょうね。

7 まるで夢のようだわ。年老いた主人のために、赤ちゃんを産んだのですもの。」

ハガルとイシュマエル

8 子どもは日を追って大きくなり、やがて乳離れする時になりました。アブラハムは息子の成長を祝ってパーティーを開きました。

9 ところが、エジプト人の女ハガルがアブラハムに産んだイシュマエルが、弟イサクをからかい半分にいじめているのを見ました。それを見つけたサラは、

10 アブラハムに訴えました。「どうかあの女奴隷と子どもを追い払ってください。跡継ぎはイサクと決まっています。」

11 アブラハムは困り果てました。イシュマエルも自分の子どもなのです。

12 すると神は、アブラハムを力づけました。「あの子と女奴隷のことは心配しなくてよい。サラの言うとおりにしなさい。わたしの約束は間違いなくイサクによって成就する。

13 しかし、ハガルの子もあなたの息子だ。必ずやその子孫の国を大きくしよう。」

14 翌朝早く、アブラハムは、さっそく食べ物を用意し、水を入れた皮袋をハガルに背負わせると、息子といっしょに送り出しました。二人はベエル・シェバの荒野まで来ましたが、どこといって行く先はありません。ただあてもなくさまようばかりです。

15 やがて飲み水も底をつきました。もう絶望です。彼女は子を灌木の下に置き、

16 自分は百メートルほど離れた所に座りました。「とても、あの子が死ぬのを見ていられない。」そう言うと、わっと泣きくずれました。

17 その時、天から神の使いの声が響きました。神が子どもの泣き声を聞かれたのです。「ハガルよ、どうしたのだ。何も恐れることはないのだよ。あそこで泣いているあの子の声を、神様はちゃんと聞いてくださった。

18 さあ早く行って子どもをしっかり抱きしめ、慰めてやりなさい。あの子の子孫を必ず大きな国にすると約束しよう。」

19 こう言われて、ふと気がつくと、なんと井戸があるではありませんか。神がハガルの目を開いたので、彼女は井戸を見つけることができたのです。彼女は喜んで水を皮袋の口までいっぱいにし、息子にも飲ませました。

20-21 神に祝福されて、少年はパランの荒野でたくましく成長し、やがて弓矢の達人になりました。そして、母親がエジプトから迎えた娘と結婚しました。

アビメレクとの契約

22 このころのことです。アビメレク王と軍の司令官ピコルとが、アブラハムのところに来て言いました。「あなたは何をしても神様に守られておられる。それは、だれが見てもはっきりしています。

23 そこで、折り入ってお願いしたい。私や息子、孫たちを裏切ったりせず、今後もわが国と友好関係を保っていくことを、神の名にかけて誓っていただきたい。あなたにはこれまで、ずいぶんよくしてきたはずだから、あなたも正義を尽くしてほしい。」

24 「いいですとも、誓いましょう」とアブラハムは答えました。

25 またアブラハムは、王の部下たちが井戸を奪い取ったことで、アビメレクに抗議しました。

26 「はて、それは初耳です。いったいだれがそんなことを。その時すぐ言ってくださればよかったのに。」

27 こうして契約を結ぶことになり、アブラハムはそのしるしに、羊と牛を王に与えて、いけにえとしました。

28-29 ところが、アブラハムが雌の子羊を七頭別にとっておいたのを見て、王は尋ねました。「これはどういうわけか。」

30 「この子羊は王様への贈り物です。これを二人の間の証拠として、この井戸が私のものだということをはっきりさせようと思いまして。」

31 そののち、この井戸はベエル・シェバ〔「誓いの井戸」の意〕と呼ばれるようになりました。王とアブラハムが、そこで契約を結んだからです。

32 その後、王と司令官ピコルは、国へ帰りました。

33 アブラハムは井戸のそばに柳を一本植え、そこで主に祈りました。永遠の神に契約の証人となっていただくためです。

34 こうしてアブラハムは、ペリシテ人の地に長く住むことになりました。

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創世記

創世記 22

イサクをささげる

1 こののち、神はアブラハムの信仰と従順を試しました。

「アブラハム。」

「はい、神様。」

2 「あなたのひとり息子を連れてモリヤへ行きなさい。そう、愛するイサクを連れて行くのだ。そして、わたしが指定する山の上で、完全に焼き尽くすいけにえとしてイサクをささげなさい。」

3 アブラハムは明くる朝早く起きると、祭壇で燃やすたきぎを作り、ろばに鞍をつけて出かけました。息子イサクと若い召使二人もいっしょです。

4 三日目、指定された場所が遠くに見える所まで来ました。

5 「おまえたち二人は、ろばとここで待っていなさい。わしと息子はあそこへ行き、礼拝してすぐに戻って来るから」と、アブラハムは召使に言いました。

6 アブラハムは、完全に焼き尽くすいけにえ用のたきぎをイサクに背負わせ、自分は刀と火打ち石を持ちました。二人はいっしょに歩いて行きました。

7 「お父さん、たきぎもあるし、火打ち石もあるけれど、いけにえにする子羊はどこ?」

8 「わが子イサク、大丈夫だ。神様がちゃんと用意してくださるよ。」二人はどんどん先へ進みました。

9 やがて、命じられた場所に着きました。アブラハムはさっそく祭壇を築き、たきぎを並べました。あとは火をつけるばかりです。いよいよイサクをささげる時がきたのです。イサクを縛り上げ、祭壇のたきぎの上に横たえました。

10-11 アブラハムは刀をしっかりと握りしめ、その手を頭上高く振りかざしました。その時です。息子の心臓めがけて刀を振り下ろそうとした、まさにその時、主の使いの声が天から響きました。

「アブラハム! アブラハム!」

「はい、神様。」

12 「刀を置きなさい。その子に手をかけてはならない。もうわかった。おまえが何よりも神を第一としていることが、よくわかった。最愛の息子でさえ、ささげようとしたのだから。」

13 こう言われてふと見ると、雄羊が一頭、木の枝に角を引っかけて、もがいているではありませんか。「これこそ神様が用意してくださったいけにえだ。」そう思ったアブラハムは羊を捕まえ、息子の代わりに、完全に焼き尽くすいけにえとしてささげました。

14 このことがあってから、アブラハムはそこをアドナイ・イルエ〔「神は用意してくださる」の意〕と呼びました。現在でも、そう呼ばれています。

15 このあと、主の使いがもう一度アブラハムに、天から呼びかけました。

16 「あなたはよくわたしの言うことを聞いた。愛する息子をさえ惜しまずに、わたしにささげようとしたのだ。神であるわたしは誓う。

17 想像もできないほどあなたを祝福し、子孫を増やそう。空の星、海辺の砂のように、数えきれないほど大ぜいに。あなたの子孫は敵を征服し、

18 世界中の国々に祝福をもたらす。それはみな、あなたがわたしの言うことに従ったからだ。」

19 こうして二人は召使のところへ戻り、ベエル・シェバにある自分たちの家へ向かいました。

ナホルの息子たち

20-23 このあと、兄弟ナホルの妻ミルカにも子どもが八人生まれたという便りが、アブラハムに届きました。子どもたちの名前は次のとおりです。長男ウツ、次男ブズ、アラムの父ケムエル、ケセデ、ハゾ、ピルダシュ、イデラフ、それに、リベカの父ベトエル。

24 ナホルにはまた、レウマというそばめの子が四人いました。テバフ、ガハム、タハシュ、マアカです。

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創世記

創世記 23

サラの死

1-2 さて、サラはカナンの地ヘブロンにいた時、百二十七歳で死にました。アブラハムが嘆き悲しんだことは言うまでもありません。

3 激しく泣いたあと、やがて静かに立ち上がり、妻のなきがらを前に、居合わせたヘテ人に頼みました。

4 「ご存じのように、私はよその国から来た者です。妻が死んでも、いったいどこに葬ったらよいのか……。ほんの少しでけっこうですから、墓地にする土地を売っていただくわけにはまいりませんか。」

5-6 「あなたは神に重んじられている方です。遠慮はいりません。どうぞ、この辺で最上の墓地を選んでください。信仰心のあつい、りっぱなあなたの奥様を葬るお役に立てるなら、私たちにとっても名誉です。」

7 なんというありがたい申し出でしょう。アブラハムは深々と頭を下げて言いました。

8 「ご親切に言ってくださり、お礼の申しようもありません。もしよろしかったら、ツォハルの息子さんのエフロンにお口添え願えないでしょうか。

9 あの人の畑のはずれにある、マクペラのほら穴を売っていただきたいのです。もちろん、ふさわしい代金をお支払いします。そうすれば、わが家代々の墓地ができます。」

10 ちょうど、エフロンもそこに居合わせました。アブラハムの願いを聞くと、彼はさっと立ち上がり、町中の人々の前で、はっきり言いました。

11 「わかりました。あのほら穴と畑地は、あなたに差し上げましょう。さあ、みんなも聞いただろう。お金はけっこうです。ご自由に奥様を葬ってください。」

12 アブラハムはもう一度人々におじぎをし、

13 一同の前でエフロンに答えました。「ただだなんて、それはいけません。ぜひ売ってください。代金をお支払いしたいのです。埋葬はそれからにさせてください。」

14-15 「そこまでおっしゃるなら……。ざっと銀貨四百枚ほどの値打ちはあると思います。そのくらいの金額なら、私たちの間では問題はないでしょう。それでよろしければ、どうぞ奥様を葬ってください。」

16 アブラハムは言い値どおり、銀貨四百枚を払いました。それが通り相場でした。

17-18 こうして、マムレに近いマクペラにあったエフロンの畑地とそのはずれのほら穴は、アブラハムのものとなりました。そこに生えている木もすべてです。町の門で、ヘテ人の証人を前に正式に契約を交わし、アブラハムの財産と認められたのです。

19-20 こうして、その土地の所有権はヘテ人からアブラハムに移り、彼はその墓地にサラを葬りました。

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創世記

創世記 24

イサクの結婚

1 アブラハムは神の祝福を豊かに受けて、何不自由なく暮らしていましたが、もうかなりの高齢になっていました。

2 そんなある日、アブラハムは家を管理させていた最年長の召使に言いました。

3 「天と地を治める神、主にかけて誓ってくれ。私の息子をカナン人の娘と結婚させてはならない。

4 私の故郷に住む親類のところへ行き、嫁を見つけて来てはくれまいか。」

5 「そうおっしゃいましても、何分、あまりにも遠い所でございます。ここまで嫁に来ようという娘さんがいるかどうか……。もし見つからなかったら、どういたしますか。イサク様をあちらへお連れして、ご親類の方たちといっしょに住むようにいたしましょうか。」

6 「いいや、だめだ。どんなことがあっても、それだけはできない。

7 天の神様から、私はご命令を受けたのだ。あの土地と親族から離れるようにと。それに、私と私の子孫にこの土地を与えるというお約束もある。そう言われる以上、神様が天使を遣わして、どうすればよいか教えてくださるはずだ。息子の嫁はきっと見つかる。

8 だが、どうしてもうまくいかない場合は……しかたがない、その時は一人で帰って来なさい。ただ、どんなことがあっても、息子をあそこへ連れて行くことだけはならない。」

9 召使は、指示どおりにすると心から誓いました。

10 さっそく、旅行の準備にかからなければなりません。まず、らくだを十頭選びました。また、贈り物として最上の物を幾つかより分けました。それを全部らくだに積み終えると、一行はナホル(アブラハムの兄弟)の住むアラム・ナハライム地方(現在のイラクの一地域)へ向かったのです。

11 いよいよ目的地に着くという時、アブラハムの召使は、町はずれの泉のそばにらくだを座らせました。ちょうど夕方で、女たちが水くみに来る時刻でした。

12 彼は祈りました。「私の主人アブラハムの神様、どうぞご主人様に恵みをお与えください。また、私がこの旅の目的を果たせますよう、お助けください。

13 いま私は、この泉のかたわらで、娘たちが水をくみに来るのを待っています。

14 そこで、こうしていただけないでしょうか。娘たちに水を下さいと頼むつもりですが、その時もし、『ええ、どうぞ。らくだにも飲ませましょう』と言ってくれたら、その娘さんこそイサク様の妻となるべき娘だ、ということにしてください。そうすれば、主人アブラハムへの神様のお恵みを知ることができます。」

15-16 このように祈っていると、リベカという美しい娘が水がめを肩にのせ、泉にやって来ました。そして、水がめに水をいっぱい入れました。彼女の父親はベトエルと言い、アブラハムの兄弟ナホルと妻ミルカの息子でした。

17 アブラハムの召使はさっそく彼女に走り寄って、水を飲ませてほしいと頼みました。

18 「どうぞ、どうぞ」と、その娘はすぐに水がめを下ろし、彼が飲み終わるのを見はからって、

19 こう言いました。「そうそう、らくだにもたっぷり飲ませてあげましょう。」

20 彼女は水をおけにあけると、また小走りでくみに行き、

21 すべてのらくだに飲ませたのでした。召使は、はたして彼女が自分の探していた娘なのかどうか見きわめようと、無言のまま、じっと彼女のかいがいしい仕事ぶりを見守っていました。

22 そして、らくだが水を飲み終わる頃合に、金の鼻輪と、金の腕輪を二つ、彼女に渡して尋ねました。

23 「つかぬことを伺いますが、お父様のお名前は何とおっしゃるのですか。それに、できれば今夜、お宅に泊めていただくわけにはまいりませんでしょうか。」

24 「父はベトエルです。ナホルとミルカの息子ですよ。もちろん、ご遠慮はいりません。どうぞお泊まりください。

25 らくだのためのわらや餌も十分ありますし、お客様用のお部屋もございます。」

26 老召使は立ったまま頭を垂れ、その場で主を礼拝しました。

27 「主人アブラハムの神様、ありがとうございます。なんというお恵みでしょう。主人への約束を、こんなにもすばらしい方法でかなえてくださるとは。主人の親族にこんなに早く会えるとは思ってもみませんでした。何もかもあなたのお引き合わせです。ほんとうにありがとうございます。」

28 一方、娘は家へ駆け戻り、家族に客のことを話しました。

29-30 話を聞いたリベカの兄ラバンは、鼻輪と腕輪を見ると、大急ぎで泉に駆けつけました。老人はまだそこにいて、らくだのそばに立っていました。

31 「ここにおいででしたか。お話は伺いました。これも、主の特別の祝福に違いありません。さあさあ、こんな町はずれに立っていないで、どうぞ家へおいでください。部屋はお越しを待つばかりになっていますし、らくだを休ませる場所もあります。」

32 勧めに従い、老召使はラバンについて行きました。ラバンは、らくだにわらと餌を与え、供の者たちにも足を洗う水を出しました。

33 やがて夕食の時間になりました。いよいよ話を切り出す時です。老召使は言いました。「お食事を頂く前に、ぜひともお聞き願いたいことがあります。どういうわけで私がここにまいったか、その用向きをお話ししなければなりません。」

「かまいませんとも。そのご用向きを伺いましょう」と、ラバンが促します。

34 「実は、私の主人はアブラハムと申しまして、

35 主に特別な祝福を頂いております。土地の人々からも大いに尊敬されるりっぱな人です。家畜も多く、金銀をはじめ、多くの財産もあります。奴隷も大ぜいおり、らくだやろばもたくさんいます。

36 奥様はたいへん年を取ってからお子さんに恵まれ、主人は全財産をこの息子さんに譲りました。

37 ところで、主人が申しますには、息子イサク様をカナンの地の女と結婚させてはならない、というのでございます。

38 どうしてもこの遠い国まで来て、ご兄弟の親族の中から花嫁を連れて帰れというご命令で。

39 私は万一の場合を考えまして、『もし、いっしょに来るという娘さんが見つからなかったらどういたしましょう』と尋ねました。

40 すると主人は、そんな心配はいらない、と申します。『必ず見つかる。これまで私は主のお心に背いたことはない。大丈夫、主が天使を遣わして、必ずうまくいくようにしてくださる。だから、私の親類から嫁を見つけて来なさい。

41 必ずそうすると誓ってもらう。それでも万一、娘をこんな遠くにはよこせないと断られたら、その時はしかたがない。そのまま一人で帰って来てよい』と、そう申すのでございます。

42 そのようなわけで、今日の午後、泉にたどり着いた時、私はこう祈りました。『主人アブラハムの神様、もしも私が使命を無事に果たせるようにお助けくださるのでしたら、どうぞこのようにしてください。

43 私はちょうど泉のそばにおりますから、水をくみに来る娘さんに、「水を飲ませてください」と頼みましょう。

44 そして、もし娘さんが、「ええ、どうぞ。らくだにも飲ませましょう」と答えたら、その娘さんこそ、神様がご主人の息子の嫁として選んだ人だ、ということにしてください。』

45 こうお祈りしている最中に、リベカさんがいらしたのです。水がめを肩に載せ、泉に降りると、なみなみと水をくんでいらしたので、『すみませんが、水を飲ませてください』とお願いしました。

46 うれしいことに、リベカさんはすぐ水がめを下ろして、飲ませてくださるではありませんか。そればかりではありません。『そうそう、らくだにもたっぷり飲ませましょう』と言って、そのとおりなさったのです。

47 私ははやる気持ちをぐっと抑えて尋ねました。『失礼ですが、どなたの娘さんですか?』『ナホル家の者です。父はベトエルといい、ナホルとミルカの息子です』とおっしゃるのを聞いて、もう間違いないと思いました。それでさっそく、鼻輪と腕輪を差し上げたわけです。

48 私は頭を垂れ、主人アブラハムの神様のすばらしいお引き合わせに、心からお礼を申し上げました。こんなにも早く、主人のご兄弟と縁続きの娘さんにお会いできるとは、思いもよらなかったものですから。

49 と、こういうわけなのです。いかがなものでしょう。率直にお気持ちを聞かせていただけないでしょうか。私の主人の願いをお聞き届けくださるなら、願ってもないことです。いずれにしましても、ご返事を頂ければ、私は進む方向を決めることができます。」

50 「神様があなたを送って来られたのは明らかですから、私たちが何を言えましょう」とラバンとベトエルは答え、ベトエルが続けました。「とすれば、お断りするわけにもまいりません。

51 どうぞ娘リベカを連れて行ってください。神様のお示しになったとおり、ご主人の息子さんの妻となさってください。」

52 答えを聞くと、アブラハムの召使はひざまずいて主を礼拝しました。

53 それから、純金や純銀の台にはめ込んだ宝石や美しい衣装を取り出して、リベカに与え、母親と兄にも、たくさんの高価な贈り物をしたのです。

54 ようやく一段落ついたところで夕食をとり、その晩、老召使は供の者たちといっしょに泊まりました。そして次の朝早く、彼は言いました。「どうもお世話になりました。そうゆっくりもできませんので、主人のところへ帰らせていただきたいのですが。」

55 「それはまた急なお話で……。せめて十日ばかりはよろしいではありませんか。リベカもいろいろ準備があることですし、これから先、もう会えないかもしれません。ゆっくり名残を惜しんでからにしていただくわけにはいきませんか。」母親と兄は、何とか引き止めようとします。

56 しかし召使は、「おことばを返すようですが、やはり帰らせてください。主のおかげで用向きも無事に果たせたことですし、一刻も早く帰って主人に報告したいのです。」

57 「そうまでおっしゃるのですか。では、こうしたらいかがでしょう。娘を呼んで本人の気持ちを直接聞きましょう。」

58 二人はリベカを呼んで尋ねました。「どうだ、今すぐこの方といっしょに行くかね。」

「はい、まいります。」

59 本人が承知した以上、断る理由もありません。リベカが小さい時からの乳母をつけて送り出すことにしました。

60 別れる時、彼らはリベカを祝福しました。「妹よ。数えきれないほど多くの国民の母となるように。おまえの子孫が、すべての敵に打ち勝つように。」

61 こうしてリベカと使用人の少女たちは、らくだに乗り、老召使といっしょに出発しました。

62 一方、このころイサクはネゲブに住んでいましたが、ちょうどベエル・ラハイ・ロイから帰って来たところでした。

63 夕暮れの野を散歩しながら物思いにふけっていた時です。ふと目を上げると、向こうかららくだの一行が来るのが見えます。

64 リベカもイサクに気づき、すぐにらくだから降りました。

65 リベカは老召使に尋ねました。「あそこにいらっしゃる方はどなたですの? 私たちを迎えにいらしたのかしら。」「おお、あれが若だんな様でございますよ。」そう言われて、彼女はあわててベールをかぶりました。

66 老召使はイサクにこれまでの一部始終を話しました。

67 イサクはリベカを、亡き母サラが使っていたテントに連れて行きました。こうして二人は結婚したのです。イサクは妻を心から愛し、母親を亡くした悲しみも、妻を得たことで慰められました。

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創世記

創世記 25

アブラハムの再婚と子どもたち

1-2 さて、アブラハムは再婚しました。新しい妻はケトラという名で、子どもも何人か生まれました。ジムラン、ヨクシャン、メダン、ミデヤン、イシュバク、シュアハです。

3 ヨクシャンには、シェバとデダンという二人の息子が生まれました。デダンの子孫は、のちにアシュル人、レトシム人、レウミム人となりました。

4 ミデヤンの子はエファ、エフェル、エノク、アビダ、エルダアです。

5 アブラハムは全財産をイサクに譲りました。

6 しかし、そばめの子どもたちを放っておいたわけではありません。それぞれに贈り物を与えて東の国へ行かせ、イサクから遠く引き離したのです。

アブラハムの最期

7-8 アブラハムは幸せな老後を過ごし、天寿を全うして、百七十五歳で死にました。

9-10 息子イサクとイシュマエルは父を、マムレに近いマクペラのほら穴に葬りました。アブラハムがヘテ人ツォハルの息子エフロンから買い求めた、あの土地、アブラハムの妻サラを葬った所です。

11 アブラハムの死後、神の祝福はイサクに向けられました。イサクはネゲブのベエル・ラハイ・ロイの近くに移り住みました。

イシュマエルの子孫

12-15 サラの女奴隷だったエジプト人ハガルとアブラハムとの子イシュマエルにも、子どもが生まれました。生まれた順に名前をあげると、次のとおりです。ネバヨテ、ケダル、デベエル、ミブサム、ミシュマ、ドマ、マサ、ハダデ、テマ、エトル、ナフィシュ、ケデマ。

16 この十二人は十二の氏族の先祖となり、各氏族にはそれぞれの名がつけられました。

17 イシュマエルは百三十七歳で死に、先に死んだ一族の仲間入りをしました。

18 イシュマエルの子孫たちは、東はハビラから、西はエジプトとの国境を北東のアッシリヤ方面に少し行ったシュルに至る地域に住み、兄弟同士で戦争に明け暮れていました。

エサウとヤコブ

19 イサクの子孫たちはどうでしょう。

20 イサクが、パダン・アラムに住むアラム人ベトエルの娘で、ラバンの妹リベカと結婚したのは、四十歳の時でした。

21 イサクは、リベカに子どもが与えられるようにと、主に祈りました。結婚して何年もたつのに、なかなか子どもが生まれなかったからです。主はその祈りを聞き、ようやく彼女は妊娠しました。

22 ところが、まるで二人の子がお腹の中でけんかしているように動き回るのです。「こんなことでは、この先どうなるのかしら」と不安になったリベカは、主に祈り、お心を尋ねました。

23 神は答えられました。「あなたのお腹にいる二人の子は、二つの国へと分かれ、互いにライバルとなる。一方がより強くなり、兄は弟に仕えるようになる。」

24 言われたとおり、ふたごが生まれました。

25 最初の子は、体中が赤い毛で覆われ、まるで毛皮を着ているようだったので、エサウ〔「毛」の意〕と名づけました。

26 次に生まれた弟は、エサウのかかとをつかんでいました。そこでヤコブ〔「つかむ人」の意〕と呼ばれました。ふたごが生まれた時、イサクは六十歳でした。

長男の権利

27 やがて子どもたちは成長し、野性味のあるエサウは腕のいい猟師となりましたが、ヤコブのほうは穏やかな性格で、家にいるのを好みました。

28 イサクのお気に入りは兄のエサウです。イサクの好きな鹿肉をよく取って来たからです。リベカは、弟ヤコブのほうをかわいがりました。

29 ある日、ヤコブがシチューを作っているところへ、エサウが疲れきった様子で猟から帰って来ました。

30 「ああ、腹ぺこで死にそうだ。その赤いシチューを一口くれないか」と言ったので、このことから、エサウは「エドム」〔「赤いもの」の意〕とも呼ばれるようになりました。

31 「ああ、いいよ。兄さんの持っている長男の権利と引き換えなら。」

32 「今にも飢え死にしそうなんだよ。長男の権利なんか何の役に立つんだい。」

33 「それなら兄さん、その権利を僕に譲るって誓ってくれよ。」

言われたとおりエサウは誓い、長男の権利を弟に売りました。

34 わずかばかりのパンと豆のシチューと引き換えにしたのです。エサウは、腹を満たすことしか頭にありませんでした。長男の権利など、軽く考えていたのです。

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創世記

創世記 26

ゲラルに滞在するイサク

1 ところで、そのころ、国中がひどいききんに見舞われました。アブラハムの時代にあったのと同じような大ききんです。それでイサクは、ペリシテ人の王アビメレクが住むゲラルの町に移りました。

2 神はそこでイサクに現れました。「エジプトへ行ってはいけない。

3 この国にとどまりなさい。わたしがついているから心配はいらない。あなたを祝福しよう。あなたの父アブラハムに約束したとおり、この地をあなたとその子孫に与えよう。

4 あなたの子孫を空の星のように増やし、この地をすべて与える。彼らは世界中の国々の祝福のもととなる。

5 アブラハムがわたしの命令とおきてに従ったからだ。」

6 イサクはゲラルに滞在することにしました。

7 しかし、リベカのことを町の男たちに何と説明したらいいでしょう。思案のあげく、イサクは「彼女は妹だ」と言うことにしました。もし妻だと言えば、だれかが彼女に目をつけ、手に入れたいと思った時、自分が殺されるかもしれないからです。それほどリベカは美しかったのです。

8 しかし、それからしばらくして、ペリシテ人の王アビメレクは、たまたま、イサクがリベカを愛撫しているのを窓越しに見てしまいました。

9 アビメレク王はすぐさまイサクを呼びつけました。「あの女はおまえの妻ではないか。なぜ妹だなどとうそをついたのだ!」

「いのちが惜しかったのです。だれかが私を殺して妻を奪おうとするのではないかと、心配だったものですから。」

10 「全く、よくもあんなうそがつけたものだ。もしだれかがあなたの妻と寝たら、どうするつもりだったのか。そうなったら、さばかれるのはわれわれのほうなのだ。」

11 そこでアビメレク王は布告しました。「イサクとその妻とに危害を加える者は死刑に処す。」

12 その年、イサクの畑は大豊作でした。まいた種の百倍も収穫があったのです。まさに神からの祝福です。

13 それからは裕福になる一方で、たちまち資産家になりました。

14 羊ややぎのおびただしい群れ、ばく大な数の牛、そして大ぜいの召使、全部イサクのものでした。ペリシテ人はおもしろくありません。

15 それで、いやがらせに、彼の井戸を片っぱしから埋めてしまいました。彼の父アブラハムの使用人たちが掘った井戸すべてを埋めたのです。

16 アビメレク王はイサクに、この国から立ち去ってほしいと頼みました。「どこかよその土地に行ってくれないか。あなたは非常に裕福で、今ではもう、われわれなど歯が立たないほどの力を持っている。」

井戸をめぐる争い

17 イサクは町を出て、ゲラルの谷間に住みつきました。

18 そして父アブラハムの井戸、父の死後ペリシテ人が埋めてしまったあの井戸を、もう一度掘ったのです。井戸の名前も、父親が以前つけたのと同じ(ベエル・シェバ)にしました。

19 イサクの羊飼いたちも、ゲラルに新しい井戸を一つ掘り、勢いよく水があふれる水源を発見しました。

20 すると、土地の羊飼いたちが来て、井戸は自分たちのものだと主張しました。「ここはおれたちの土地だ。だから井戸もおれたちのものだ」と、イサクの羊飼いたちに言いがかりをつけたのです。イサクはその井戸を、「エセク」〔「言い争いの井戸」の意〕と名づけました。

21 イサクの羊飼いたちは別の井戸を掘りましたが、その井戸の所有権をめぐって、また争いが起きました。今度はそれを「シテナ」〔「怒りの井戸」の意〕と名づけ、

22 あきらめて、また新しい所で掘りました。今度は、土地の者たちとの争いがありませんでした。そこで彼らはそれを「レホボテ」〔「広々とした場所の井戸」の意〕と名づけ、言いました。「とうとう主は、広々とした場所を与えてくださった。もう大丈夫だ。これからはここで繁栄していくのだ。」

23 さて、イサクがベエル・シェバに行った時のことです。

24 その夜、主が現れて言いました。「わたしはあなたの父アブラハムの神である。恐れてはいけない。わたしはあなたとともにいてあなたを祝福する。子孫を増やし、大きな国にしよう。わたしに聞き従ったアブラハムに約束したとおりに。」

25 イサクは祭壇を築き、主を礼拝しました。そして、そこに住むことにし、彼の使用人たちは井戸を掘りました。

アビメレクとの契約

26 ある日、イサクのところにゲラルから客が来ました。アビメレク王が、顧問のアフザテと軍の司令官ピコルとを連れて来たのです。

27 「どういうご用ですか。あんなひどい仕打ちをして、私を追っ払ったのに、どうしてここまで来たのですか。」

28 「まあ、そう言わないでください。ほかでもありません、あなたは実に恵まれた人だ。神様に祝福されていることがよくわかります。それで、お互いに条約を結びたいと思ったわけです。

29 私たちに危害を加えないと約束してください。私たちも今まで、あなたに危害を加えなかったし、むしろ好意的にしてきたつもりです。あの時だって、武力をふるったわけではないし、納得のうえで国を出てもらいました。それはそれとして、今、あなたは神様に祝福されているのです。」

30 そこでイサクは、ごちそうを作って一行をもてなしました。食事を共にするのは、契約を結ぶ備えでもあったのです。

31 翌朝起きるとすぐ、彼らは不可侵条約を結び、厳粛な誓いを交わしました。こうして一行は、イサクに見送られて国へ帰りました。

32 ちょうどその日、イサクの使用人たちが来て、「ようやく水が出ました」と報告しました。井戸を掘っているところだったからです。

33 そこでイサクは、その井戸を「シブア」〔「誓いの井戸」の意〕と名づけました。そこにできた町も「ベエル・シェバ」〔「誓い」の意〕と呼ばれるようになり、今もその名のままです。

エサウの結婚

34 ところで、エサウは四十歳でヘテ人ベエリの娘エフディテと結婚し、またヘテ人エロンの娘バセマテも妻にしました。

35 この結婚は、両親のイサクとリベカには悩みの種となりました。

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創世記

創世記 27

祝福をだまし取るヤコブ

1 イサクは年をとり、目がほとんど見えなくなりました。そんなある日、長男のエサウを呼びました。

「エサウかい?」

「はい。何ですか、お父さん。」

2-4 「私ももう年だ。いつお迎えが来るかわからない。これから鹿を取って来てくれないか。私の好きな鹿肉料理を知ってるな。あの、実にうまい、何とも言えない味の料理だ。あれを作って持って来てくれ。そして、死ぬ前に長男のおまえを祝福したいのだ。」

5 ところが、二人の話をリベカが立ち聞きしていたのです。

6-7 エサウが鹿を取りに出かけてしまうと、彼女は次男ヤコブを呼び、一部始終を話しました。

8-10 「さあヤコブ、言うとおりにするのです。群れの中から上等の子やぎを二頭引いておいで。それで私がお父さんの好きな料理を作るから、お父さんのところへ持ってお行き。食べ終わったら、お父さんは亡くなる前に、エサウではなく、おまえを祝福してくださるでしょう。」

11-12 「だけどお母さん、そんなに簡単にはいきませんよ。だいいち、兄さんは毛深いのに、僕の肌はこんなにすべすべです。お父さんがさわったら、すぐにばれてしまいます。そのあげく、お父さんはだまされたと思って、祝福するどころか、のろうに決まってます。」

13 「もしそんなことになったら、私が代わりにのろいを受けます。今は言うとおりにしなさい。さあ、何をぐずぐずしてるの。早く子やぎを引いておいで。」

14 ヤコブは言われたとおりにしました。連れて来た子やぎで、リベカは夫の好物の料理を作りました。

15 それから、家に置いてあったエサウの一番良い服を出して、ヤコブに着せました。

16 また、やぎの毛皮を手にかぶせ、首の回りにも毛皮を巻きました。

17 あとは、おいしそうなにおいのしている肉料理と焼きたてのパンを渡して、準備完了です。

18 ヤコブは内心びくびくしながら、それらを持って父親の寝室に入りました。

「お父さん。」

「だれだね、その声はエサウかい? それともヤコブかい?」

19 「長男のエサウです。お父さんのおっしゃるとおりにしました。ほら、お父さんが食べたがってたおいしい鹿の肉ですよ。起き上がって、座って食べてください。そのあとで、僕を祝福してください。」

20 「それはまた、ずいぶん早く鹿を捕まえたものだな。」

「ええ、主がすぐ見つけられるようにしてくださったのですよ。」

21 「それはそうと、こちらへおいで。おまえがほんとうにエサウかどうか、さわって確かめよう。」

22 そばへ行ったヤコブをイサクは手でなで回しながら、ひとり言のようにつぶやきます。「声はヤコブそっくりだが、この手はどう考えてもエサウの手だ。」

23 イサクはすっかりだまされてしまいました。そして、エサウになりすましたヤコブを祝福しようとしました。

24 「おまえは、ほんとうにエサウかい?」

「ええ、もちろん私ですよ。」

25 「では鹿肉料理を持っておいで。それを食べて、心からおまえを祝福しよう。」

ヤコブが料理を持って来ると、イサクは喜んで食べ、いっしょに持って来たぶどう酒も飲みました。

26 「さあここへ来て、私に口づけしてくれ。」

27-29 ヤコブは父のそばへ行き、頬に口づけしました。イサクは息子の服のにおいをかぎ、いよいよエサウだと思い込みました。「わが子の体は、主の恵みをたっぷり頂いた大地と野の快い香りでいっぱいだ。主がいつも十分な雨を降らせ、豊かな収穫と新しいぶどう酒を与えてくださいますように。たくさんの国がおまえの奴隷となるだろう。おまえは兄弟たちの主人となる。親類中がおまえに腰をかがめ、頭を下げる。おまえをのろう者はみなのろわれ、おまえを祝福する者はすべて祝福される。」

30 イサクがヤコブを祝福し、ヤコブが部屋を出て行くのと入れ替わるように、エサウが狩りから戻って来ました。

31 彼もまた父の好物の料理を用意し、急いで持って来たのです。「さあさあ、お父さん、鹿の肉を持って来ましたよ。起き上がって食べてください。そのあとで、約束どおり私を祝福してください。」

32 「何だと? おまえはいったいだれだ。」

「ええっ? 私ですよ。長男のエサウですよ。」

33 なんということでしょう。イサクは見る間にぶるぶる震えだしました。「では、ついさっき鹿の肉を持って来たのはだれだったのだ。私はそれを食べて、その男を祝福してしまった。いったん祝福した以上、取り消すことはできない。」

34 あまりのショックに、エサウは気が動転し、激しく泣き叫びました。「そんな、ひどいですよ、お父さん。私を、この私を祝福してください。ね、どうかお願いします、お父さん。」

35 「かわいそうだが、それはできない。おまえの弟が私をだましたのだ。そして、おまえの祝福を奪ってしまった。」

36 「ヤコブときたら、全く名前どおりだ。『だます者』〔ヤコブという名には『つかむ人』(25・26)以外に、この意味もある〕とは、よく言ったものだ。あいつは長男の権利も奪った。それだけでは足りず、今度は祝福までも盗んだってわけか。お父さん、念のため聞きますが、私のためには祝福を残してくれていないのですか。」

37 「すまんが、私はあれを、おまえの主人にしてしまった。おまえばかりではない。ほかの親類の者もみな、あれの召使になるようにと祈った。穀物やぶどう酒が豊かに与えられるとも保証してしまったし……、ほかにいったい何が残っているというのだ。」

38 「それでは、私にはもう何一つ祝福が残っていないとおっしゃるのですか。あんまりだ、お父さん。何とかならないのですか。どうか、どうか私も祝福してください。」

イサクは何と言ってよいかわかりません。エサウは声を上げて泣き続けました。

39-40 「おまえは一生苦労が絶えないだろう。自分の道を剣で切り開いていかなければならないのだから。ただ、しばらくは弟に仕えることになるが、結局はたもとを分かち、自由になるだろう。」

家を出るヤコブ

41 このことがあってからエサウは、ヤコブのしたことを根に持つようになりました。「お父さんも先は長くはない。その時がきたら、ヤコブのやつを必ず殺してやろう。」

42 ところが、このたくらみは感づかれてしまいました。直ちに、母リベカのところにその報告がきました。リベカは急いでヤコブを呼びにやり、エサウがいのちをねらっていることを教えました。

43 「いいね、ハランのラバン伯父さんのところへ逃げるのです。

44 ほとぼりが冷めるまで、しばらくお世話になるといいわ。

45 そのうち兄さんも、あなたのしたことを忘れるでしょう。そうなったら知らせるから。一日のうちに息子を二人とも失うなんて、とても耐えられません。」

46 そして、夫のイサクにうまく話を持ちかけました。「私はこのあたりの娘たちには我慢なりません。もういやけがさしました。もし、ヤコブがこの土地の娘と結婚することになったら、生きているかいもありません。」

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創世記

創世記 28

1 そこで、イサクはヤコブを呼び寄せ、祝福して言いました。

2 「おまえはカナン人の女と結婚してはいけない。パダン・アラムに、ベトエルといってな、おまえのおじいさんの家がある。すぐにそこへ行きなさい。ラバン伯父さんの娘と結婚するのだ。

3 全能の神様がおまえを祝福し、たくさんの子どもを授けてくださり、たくさんの部族を持つ大きな国にしてくださるように。

4 おじいさんのアブラハムに約束されたすばらしい祝福が、おまえと子孫に受け継がれるように。私たちは今ここでは外国人だが、おまえの代になって、この地を手に入れることができるように祈る。神様がおじいさんに約束されたように。」

5 こうしてイサクは、ヤコブをパダン・アラムのラバンのもとへ送りました。アラム人ベトエルの子ラバンは、リベカの兄で、ヤコブの伯父に当たります。

6-8 エサウは、父親がこの土地の娘たちを快く思っていないこと、そして両親が、ヤコブの結婚相手をカナン人の女からではなくパダン・アラムで見つけるために、ヤコブを祝福したうえで送り出したことを知りました。ヤコブも両親の言いつけどおり出発したといいます。

9 それでエサウは、伯父イシュマエルの家へ行き、今いる妻のほかに、さらに妻をめとりました。アブラハムの子イシュマエルの娘で、ネバヨテの妹マハラテでした。

10 さて、ヤコブはベエル・シェバを出発し、ハランへ向かいました。

11 とある場所まで来ると、日がとっぷり暮れたので、野営することにしました。あたりに転がっている石を枕に、ごろんと横になりました。

12 その晩のことです。ヤコブは不思議な夢を見ました。目の前に天までも届く階段がそびえ、神の使いが上ったり下りたりしているのです。

13 ふと見ると、神がそばに立っておられます。「わたしは神、アブラハムの神、あなたの父イサクの神、主である。あなたがいま寝ている土地はあなたのものだ。それを、あなたとその子孫に与えよう。

14 子孫は地のちりのように多くなり、東西南北、あらゆる方角に増え広がり、この地全体に住みつくだろう。あなたとあなたの子孫によって、世界中の国々が祝福される。

15 あなたがどこへ行こうと、わたしはいつも共にいて、あなたを助ける。無事この地に帰れるように必ず守ろう。約束のものをすべて渡すまで、わたしはいつでも共にいる。」

16-17 そこで目が覚めました。「主はここにもおられる。気づかなかったが、ここは神様の家なのだ。おそれ多くも天国への入口だったのだ。」ヤコブは怖くなって思わず叫びました。

18 次の朝早く起き、枕にした石を立てて記念の柱とし、オリーブ油を注ぎかけました。

19 そして、そこをベテル〔「神の家」の意〕と名づけました。そのあたりは以前、ルズと呼ばれていました。

20 ヤコブは神に誓いました。「神様、もし主がこの旅で私を助け、守ってくださり、衣食にも不自由させず、

21 無事に父の家に帰してくださって、私の神様となってくださるなら、

22 この記念の柱を礼拝の場所とし、神様から頂いた物すべての十分の一を必ずおささげします。」

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創世記

創世記 29

ラケルとの出会い

1 ヤコブはさらに旅を続け、ついに東の国に着きました。

2 そこは広々とした牧草地で、見ると、井戸のそばに羊が三つの群れになって寝そべっていました。井戸の口には重い石のふたがかぶせてあります。

3 羊の群れが全部そこに集まるまで石のふたをはずさないのが、この地方の習慣でした。水をやったあとは、また元どおり石でふたをしておくことになっていました。

4 ヤコブは羊飼いたちに近づき、どこに住んでいるのか尋ねました。

「ハランだよ。」

5 「では、ナホルの孫でラバンという人をご存じでは?」

「ラバンだって? ああ、よく知ってるよ。」

6 「そうですか。その方はお元気ですか。」

「元気だとも。順調にやっているしね。ああ、ちょうどよかった。ほら、あそこに羊を連れてやって来る娘、あれが娘さんのラケルだ。」

7 「ありがとうございました。ところで余計なことかもしれませんが、羊に早く水をやって、草のある所へすぐ帰してやらなくていいのですか。こんなに早く草を食べさせるのをやめたら、腹をすかせませんか。」

8 「羊や羊飼いがみな集まるまで、井戸のふたは取らない決まりでね。それまで水はお預けなんですよ。」

9 話をしている間に、ラケルが父の羊の群れを連れて来ました。彼女は羊飼いだったのです。

10 ヤコブは、彼女が伯父ラバンの娘で、いとこに当たり、羊はその伯父のものだとわかったので、井戸に近づいて石のふたをはずし、羊に水を飲ませました。

11 それから、ラケルに口づけしました。あまりうれしくて気持ちが高ぶり、とうとう泣きだしたほどです。

12-13 そして、自分は彼女の叔母リベカの息子で、ラケルにとってはいとこなのだと説明しました。ラケルはすぐ家へ駆け戻り、父親に報告しました。甥のヤコブが来たのです。すぐ迎えに行かなければなりません。ラバンは取る物も取りあえず駆けつけ、大歓迎で家に案内しました。ヤコブは伯父に、これまでのことを語りました。話は尽きません。

14 「いやあ、うれしいなあ。甥のおまえがはるばるやって来てくれたのだからな。」ラバンも喜びを隠せません。

ヤコブの結婚

ヤコブが来てから、かれこれ一か月が過ぎたある日のこと、

15 ラバンが言いました。「ヤコブ、甥だからといって、ただで働いてくれることはないんだよ。遠慮しなくていい。どんな報酬がほしいかね。」

16 ラバンには二人の娘がありました。姉がレア、妹があのラケル。

17 レアは弱々しい目をしていましたが、ラケルのほうは美しく、容姿もすぐれていました。

18 ヤコブはラケルが好きだったので、ラバンに言いました。「もしラケルさんを妻に頂けるなら、七年間ただで働き、あなたに仕えます。」

19 「いいだろう。一族以外の者と結婚させるより、おまえに嫁がせるほうがいいから。」

20 ヤコブは、ラケルと結婚したい一心で、七年間けんめいに働きました。彼女を心から愛していたので、七年などあっという間でした。

21 ついに、結婚できる時がきました。「さあ、すべきことはみなやり終えました。約束どおりラケルさんを下さい。彼女といっしょにさせてください。」

22 ラバンは村中の人を招いて祝宴を開き、みんなで喜び合いました。

23 ところがその夜、暗いのをさいわい、ラバンは姉のレアをヤコブのところに連れて行ったのです。ヤコブはそんなこととはつゆ知らず、レアといっしょに寝ました。

24 ラバンは、奴隷の少女ジルパをレアにつけてやりました。

25 朝になって、ヤコブが目を覚まし、見ると、レアがいるではありませんか。憤まんやる方ない気持ちです。すぐさまラバンのところへ行き、食ってかかりました。「なんてひどいことをするんですか! ラケルと結婚したい一心で、私は七年も骨身を惜しまず働いたんですよ。その私をだますなんて、いったいどういうことですか!」

26 「まあ、気を落ち着けてくれ。悪かったが、われわれのところでは、姉より先に妹を嫁に出すことはしないのだよ。

27 とにかく婚礼の一週間をこのまま過ごしてくれたら、ラケルもおまえに嫁がせよう。ただし、もう七年間ここで働いてもらうということになるが。」

こううまく言い抜けられては、しかたありません。

28 ヤコブはさらに七年働くことにしました。そして、ようやくラケルと結婚できたのです。

29 ラケルは奴隷の少女ビルハを召使として連れて来ました。

30 こうしてヤコブはラケルと床を共にしました。ヤコブはレアよりも彼女のほうを愛していたため、さらに七年も余計に、ラバンのもとで働いたのです。

レアとラケルの争い

31 ヤコブがレアに冷たくするので、主は彼女に子どもを授け、ラケルには子どもがいませんでした。

32 レアが産んだ最初の子は男の子で、レアは、「主は私の苦しみをわかってくださった。子どもができたのだから、夫もきっと私を愛してくれるでしょう」と言って、ルベン〔「私の息子を見てください」の意〕と名づけました。

33 次も男の子で、彼女は、「主は私が愛されていないと知って、もう一人子どもを与えてくださった」と言って、シメオン〔「神は聞いてくださった」の意〕と名づけました。

34 さらに三人目の子どもが生まれました。今度も男の子で、彼女は、「三人も男の子を産んだのだから、今度こそ愛してもらえるに違いない」と言って、レビ〔「結びつく」の意〕と名づけました。

35 さらに子どもが生まれました。また男の子で、彼女は、「今こそ主をほめたたえよう」と言って、ユダ〔「ほめたたえる」の意〕と名づけました。そのあと、彼女には子どもが生まれませんでした。

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